見出し画像

高校生にがん研究を

私が高校生だった時のある日。私の人生に大きな影響を与える出来事が起きました。

その日、私は人生初のボランティア活動に行きました。国語の先生が誘ってくれて、言われるがままに行った活動でした。

活動の内容は高齢者の入所する介護施設に行って、みんなで紙芝居を披露するというものでした。私は同級生たちと一緒に、不安になりながら、施設に向かいました。

紙芝居がどんな内容だったかは、はっきりと覚えていません。それほど質の高いものではなかったことだけは記憶しています。そんなに多くの練習もしてはいかなかったから、正直言って、こんなもので満足してもらえるのかが不安でした。



広めの部屋にご老人達が集まって、その前で緊張しながら紙芝居を披露しました。それほどうまい出来ではなかったですが、無事には終わって、ひとまずホッとしました。


その時に驚きの光景を目にしました。

何人ものご老人が泣いていました。

痩せた体を揺らして。

顔には大粒の涙が流れてました。



衝撃でした。

大した紙芝居でもなかったのに、なんで泣いているの?素朴な疑問でした。


最初はなぜかよくわかりませんでしたが、施設の人の話しでは、どうも若者が頑張っている姿を見て感動したようでした。もしかすると、自分の孫たちの姿とかぶるものがあったのかもしれません。

細かな気持ちまではわかりませんでしたが、感動して泣きながら、「本当に良かったよ。また来てね」と言ってくれました。


私は不思議な感覚になっていました。私がお客さんとして、この紙芝居を見たとして、おそらく感動して泣くなんてことはなかったと思いました。でも、介護施設にいる老人たちは感動して、大粒の涙を流して喜んでくれた。

私の中には、驚きとともに、すごく嬉しい気持ちもありました。

自分の行動に対して、誰かが感動して涙を流す。そんなことは、今まで経験したことがありませんでした。泣いている姿を見て、こちらも感激しました。



初ボランティア体験は、私の人生に大きな影響を与えることとなりました。この一日の体験で、自分のためではなく、他人のために何かをやることの素晴らしさを学びました。

自分にはちっぽけな行動でも、それを欲する人や、困っている人には、時に大きな価値を持つことがある。自分にとっては小さな努力でできることでも、人にすごく喜んでもらえることもある。


「他人のために尽くすことは素晴らしい」

そんな言葉は何度も聞いていましたが、初めて、本当の意味を知った瞬間でした。



この高校生での体験が、その後に医師を目指すことにも繋がっていきました。自分のためだけでなく、困った人のためになることをしたい。それにつながる仕事が医師でした。

そして、その思いは40歳を過ぎた今でも、私の心の中で生き続けています。私が本業の傍で一生懸命に医療情報発信をしているのも、同じ想いから来ています。

自分のために仕事をしていくのも大事だけれど、困っている人のために、何かの行動をすることも大切で、それには大きなやりがいがある。

高校生のたった1日で学んだことは、私の人生に大きな影響を与えました。


***


若い時の体験というのはとても貴重です。

私はラッキーでした。そのような経験をさせようとしてくれた先生がいて、そのおかげで、私は大きな学びを得て、将来に繋げることができました。

このような経験はなかなか自分からはできません。そのような世界が広がっていることを若者は知る機会が多くないからです。

大人が若者に知るチャンスを与えるのが、とても大事ではと思っています。


今回、急にこんな昔話を始めたのは、面白いクラウドファンディングが行われていて、それを応援したいと思ったからです。

金沢大学がん進展制御研究所の先生達が、高校生にがん研究を実際に体験してもらおうというクラファンを行なっています。

金沢大学がん進展制御研究所は日本でも最先端のがん研究を行なっている施設です。そこで、最先端のがん研究を高校生の時に体験してもらう。

考えただけで、ワクワクしますね。きっとすごい経験をできることと思います。おそらく、その体験は私の時のように、心に大きく刻まれて、将来の糧となるものになると思います。

ここから、未来のがん研究を支える研究者が生まれるかもしれないし、すごい医者を生むかもしれない。楽しみですね。



高校生を研究室に受け入れて、研究を経験してもらうというのは米国でも盛んに行われています。私のいる研究室でも、この夏に高校生が研究を体験しにきました。目をキラキラさせて、がん研究を経験していきました。

ただ、日本ではこのような試みはとても少ないと感じています。

これには、制度や金銭的な問題とか色々あるからだと思います。実施は簡単ではないと思うのですが、今回このような企画を作り、クラファンを使って、資金集めをしているのは素晴らしい試みだなと思いました。

このクラファンから、同様な活動が広がるきっかけになってくれればなと期待しています。


長引く新型コロナの影響で、苦しい思いをしている方も多いかと思います。そんな中で、お金の支援をお願いするのもどうかなという思いもあったのですが、がん研究の未来を作っていくためにも、このような企画が盛り上がってもらうのは大事だと思ったので、ご紹介をさせてもらいました。

少額のご支援で構いませんので、ご協力をいただけたらなと思います。よろしくお願いいたします。


もし、よろしければサポートをお願いいたします!いただいたサポートはがん情報発信の強化のために利用させてもらいます。