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小説「モモコ」【21話】第5章〜2日目:誘拐後〜

 連れて行かれたのは6畳ほどの洋室だった。フローリングの床に、簡易なソファとテーブル。それだけしか置かれていない。窓もなく、部屋への出入口はドア一つだけだった。もちろんドアの外にはボディガードの男たちがいるはずだ。

 激情型の男で助かったわ。たまには、カマをかけてみるのも大事ね。もしかしたら、お父さんにつながる糸口になるかもしれないわ。

 軟禁されている状況にもかかわらず、モモコは安堵の表情を浮かべていた。
 
 簡単に少女ひとりを誘拐するところに、犯罪への躊躇のなさが表れている。察するに、碧玉会が日頃から何か犯罪に肩入れしているのは間違いないとモモコは睨んでいた。ならば、脱税か薬物か、資金洗浄か人身売買か。こういった組織が手を染める悪行には、いくつか傾向がある。

 碧玉会に誘拐を依頼した“ある人”とはいったいどんな人間だろうか。モモコは想像した。UFDを知っている以上、生体化学や遺伝子工学に精通した人物である可能性が高い。UFDの実用化を考えるような研究機関が関わっているとして、彼らが犯しやすそうな犯罪があるとしたら何か......。無許可・無承諾の治験、つまり人体実験。複数の選択肢から正解を見つけれたのは幸運だった。

 坂田の反応から察するに、碧玉会の会員たちは自ら知らないうちに何らかの薬物を投与され、文字通りモルモットにされているは事実なようだ。

 会員たちの身体を実験台として差し出すことで得られた対価。いくらになるかわからないが、その数字をそのまま会計として報告してはいないだろう。

 本人に承諾を得ていない治験、その収入の未報告による脱税。物証さえ見つけられれば、法的に裁くことも十分にできそうだわ。

「あとは、ルンバがこのメッセージに気づいてくれればいいけど」

 モモコはそう言いながらソファに座り、そのまま横になった。左足をあげてスニーカーを脱ぐと、靴下の生地の間から小さな四角い機材を取り出し、スイッチをいれた。

「ひとまず今やれることはこれで全部ね。誘拐されるのって疲れるのね、知らなかったわ」

 モモコは、まるで遠足帰りの子どものように大きなあくびをすると、そのまま静かに寝息を立て始めた。

〜つづく〜

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