スマホをいじってたら電車を乗り過ごしてしまった。
慌てて停車した駅の反対ホームへ向かって走り出す。乗り過ごしなんてプライベートですら滅多にしたこと無いのにましてや仕事でやってしまうとは随分と注意力が散漫になっている。急いで乗った電車の中でNAVITIMEを検索すると今乗っている電車だと集合時刻に間に合わないことが判明する。地理的に最も近い場所で降りてそこのタクシーを拾って目的地へ直行することにした。急ぎでお願いしますなんて朝から急かすような事を言ってしまい運転手には申し訳ないことをしたがお陰様で数分の余裕を持って間に合った。

今日は成人の日。私が勤める自治体では「二十歳を祝う会」が開催される。
私は同会を担当する所管には所属していないが今をキラめく新成人がトラブルなく一生の晴れ舞台を迎えられるよう応援職員として駆り出された。会場の場所が分からないとか入場に必要なハガキを忘れてしまったとかお困りごとのある新成人を案内・誘導したり、近隣の店舗や通行人の邪魔にならないよう通路の真ん中で滞留する子たちをお声がけするといった簡単な手伝いをした。

華やかな衣装に身を包んだ多くの新成人が通りを彩る。忙しなくスマホの画面を覗く女性の表情が数年ぶりの再会であろう旧友と会った途端にパッと明るくなる。サイズの少し合ってないスーツ姿の男性が仲間を見つけるや否や威勢をつけたかのように大声を出す。薄く切れかかっていた糸が繋がる瞬間、彼彼女の心が弾ける。そんな様子を見て私は7年前の自分の成人式を振り返る。断片的でおそらく他の出来事と記憶が混ざっているが小学校の同級生と朝までカラオケで熱唱していた記憶がある。目の前のこの子たちもこれからあの豊かな青春を経験するのだろうか。

生きていることただそれだけで祝福される機会はそう多くないと思う。年齢で成人と未成年を線引きするのは都合が良すぎやしないかと当時は感じたものだが大人っぽいと子供っぽいのあいだを揺れ動く曖昧な精神ではなく客観的な数字を基に区切りを設けることはある程度理にかなっていると今では思う。

成人、おめでたいね。でも成人になった喜び以上に久しぶりのクラスメイトに会えたことの方がよっぽど嬉しいんじゃないかな。今日はハレの日。人生において2度とはこない一大イベントの日でしかもその主演はあなた。怪我しない程度に思い思いの一日を満喫していただけると私も休日返上で働いた甲斐がある。

終礼後、荷物を置いた控室に行く途中何も知らない部長が応援職員たちにゴミ拾いをするように言っていた。こちらは勤務を終了する旨の指示を受けておりゴミ拾いなんて当然にすでに終えている。そばにいた先輩が真面目に部長に説明しているのを尻目にアホらしくて他部署の別の先輩とこっそり抜け出して帰った。大人の一歩目を踏み出した彼彼女らに伝えたいことがあるとすれば、しょうもない上司の小言に付き合うのはよしてとっとと自分の好きなことをすれば良いんだよ。