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熱狂のユーロ2016後編②

 準々決勝第二試合。カードは、ウェールズーベルギー。
 ウェールズはベスト16においても接戦ではあったが、ラムジーが展開しベイルがズドン!という、彼らの戦い方で勝ち上がってきた。対するベルギーもアザールやデブライネがピッチを躍動し、大量得点に至っている。
 ともに黄金世代と言えるタレントの活躍がチームを引っ張っている好カードだが、ベルギーの最終ラインが懸念材料だ。出場停止のヴェルマーレンに加え、ヴェルトンゲンも怪我で欠くことになった。守備時だけでなく、攻撃時のビルドアップにおいても違いを見せる選手の欠場は、決して小さくはない不安である。
 試合はそんな不安が的中する形となった。立ち上がりこそタレント軍団ベルギーがウェールズを押し込み、アザールはじめ次々とシュート。前半13分には、ナインゴランのミドルシュートでベルギーが先制。しかしここからベルギーは守勢に転じることになる。そして守勢に転じることで次第に綻びを見せて行く。
 ベルギーはラインを上げて前から守備をするチームでもないので、前線の守備にはあまり期待はできない。ウェールズは相手の最終ラインの〝弱点〟を突いて行く。ベルギーとしてはここで守れても、その後の展開に不安がある。後ろからの縦パス一本で流れを変えられるヴェルマーレンの欠場はやはり痛かった。
 前は奪れない。後ろは繋げない。この日のベルギーは、守勢に回った瞬間から悪循環は始まっていた。31分、CKからウィリアムズが頭で合わせ、ウェールズは前半のうちに追いついた。
 ハーフタイムにベルギーは勝負に出た。フェライニを投入する。最前線に高さが加わったベルギーは、後半開始から再び押し込んで行く。ここで得点できれば流れを変えられたかも知れないが、得点できぬままウェールズが攻勢に転じ、前半同様の流れに。
 後半10分にはラムジーのクロスを受けたカヌの反転からのシュートで、ウェールズ逆転。ベルギーは何とか攻勢をしかける場面を作るも、単発に終わる。結局、40分にダメ押し点を決めたウェールズが3対1で快勝した。
 ユーロ初出場にして、準決勝進出。喜びを爆発させるウェールズサポーターを画面越しに見ながら、私はいつかニームの古代遺跡裏のバーで遭遇したサポーターを思い出した。あの時からもう半月が過ぎている。彼らも今頃、どこかで爆発していることだろう。
 ウェールズは決勝進出を懸けて、ポルトガルと対戦する。期待されていたベルギーだったが、ベスト8で姿を消した。
 試合後、私はホテルからすぐ近くの大聖堂に向かった。夜に大聖堂に?と思うかも知れないが、ルーアンでは夜の大聖堂こそ行く理由があった。そのために至近のホテルを取ったくらいである。ルーアン大聖堂と言えばモネの連作が有名だが、近年もう一つ話題となっていることがあった。ライトアップショーである。
 光のスペクタクルと呼ばれるこのショーは、モネの睡蓮や、ジャンヌ・ダルクの火刑などが大聖堂の壁面いっぱいに描かれる。私はルーアン滞在の三晩とも、このショーを見に行ったが、二晩目の7月2日は30分以上遅れてそれを見ることになる。
 7月2日、ドイツーイタリア。その試合は壮絶なものとなった。
 
 
 ドイツーイタリアと聞くと、実力伯仲の横綱対決という感じがするが、意外なことに直接対決ではドイツはイタリアに分が悪い。W杯とユーロではイタリアの4勝4分というから驚きだ。世界王者のドイツではあるが、この対戦だけはどうなるか判らない。
 ドイツの攻撃力は誰もが知るところだが、守備も凄い。今大会無失点を継続している。守備がDNAに受け継がれているイタリアは、今大会も選手が揃えば鉄壁のDFを誇る。加えて攻撃時の抜け目なさも磨きがかかっている。GKはノイヤーとブッフォン。率いる監督はレーヴにしろコンテにしろ、何をしてくるか判らない。という訳でこの対戦は、攻守ともに密度の高い接戦となることが予想された。
 試合開始からペースを握ったのは、やはりドイツだった。レーヴは難敵イタリアに対し、3バックに変更して臨んだ。イタリアの2トップを3バックで抑え、中盤を厚くすることで相手の縦パスを封じる。奪ったボールをテンポよく繋いで押し込んで行く。前半16分にはケディラの負傷交代という予想外のアクシデントはあったものの、ドイツのリズムは崩れなかった。
 しかしドイツがテンポよく押し込んで行くも、イタリアはなかなか失点を許さない。そんな展開がしばらく続き前半も終盤になると、イタリアはジャッケリーニの裏に飛び出すプレーで、手数をかけず一気にゴールを陥れようとする。こういうところがイタリアのイタリアたるところで油断ならない。息つく暇もないハイレベルな攻防のまま前半を終える。
 後半に入り9分。ドイツは決定的な場面を迎える。ショートカウンターからミュラーがゴール枠内への弾丸シュート。これを寸前でフロレンツィがカンフーキックのように弾き出す。ブッフォンもびっくりのアクロバティックなクリアでゴールを許さず。
 このまま続くと思われた20分。遂にドイツが均衡を破る。起点はノイヤーのキックだった。その後ボールを受けたゴメスが左サイドを駆け上がりキープ。寄せる相手選手間の裏のスペースにパスを送ると、これに呼応したヘクターがダイレクトで中へ。相手選手に当たって浮き玉となったところへ走り込んだエジルが左足に当てて決めた。ドイツらしい見事な連携で先制する。
 続く23分にもドイツは決定機を迎える。エジルの浮き玉パスで抜け出したゴメスがゴールを背にしての胸トラップからのヒールキック。しかし決まったかに見えたシュートは、すかさず反応したブッフォンによって弾き出された。このトリッキーな、至近距離からの決定的なシュートを弾いたことで、イタリアがこのあと決定機を迎えることになる。
 ドイツが押し込む時間が多い中、イタリアも攻め込む時間を作り始める。そして迎えた後半33分。CKのこぼれ球からのクロスボールの競り合いで、ボアテングが両手を宙に拡げる奇怪なポーズを取る。前で競り合う選手の頭を掠めたボールは、そのままボアテングの腕に命中する。このプレーでPKとなったドイツは、イタリアに一点を献上した。
 ドイツが再三再四攻め込んでようやくものにした一点を、イタリアは少ないチャンスを活かして返す。その後もドイツは選手が一体となって押し込むも得点できず。90分通してハイレベルな攻防を見せた両チームは、延長でも決まらず120分の激闘の末に、PK戦に。
 そしてこの激闘はPK戦でも続くことになる。ノイヤー、ブッフォンという当代随一のGKからのプレッシャーの中、5人を終えて2対2、ともに3人が外すという珍しい展開に。その後もなかなか決まらず、ようやく9人目でイタリアが外し、ドイツの勝利が決まった。
 ここまで縺れることもなかったようにも思うが、えてしてサッカーというものはこういうものである。最後は終始勝利に相応しいサッカーを展開したドイツが勝てたことで、私は胸をなで下ろした。
 勝ったドイツは準決勝に進み、イタリアはベスト8でフランスを離れることになった。

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