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熱狂のユーロ2016・プロローグ

 2016年7月7日。パリは熱狂の渦の中にあった。サッカーのユーロ本大会準決勝が行われたのがこの日である。カードは、フランスードイツ。これだけで、サッカー愛好者も、歴史愛好者も、ナショナリストも、盛り上がること必至の一戦と言える。歴史的に見ても因縁浅からぬ両国の一戦は、サッカーにおいても互いに負けられぬ一戦であった。
 二年前のW杯で優勝しているドイツは、この大会の優勝候補のひとつであり、サッカーの潮流の最前線に位置していた。おおまかに概観すれば、守備戦術が高まり多くのチームが相手にやられないように腐心していた2000年代前半までの潮流を一変させたのが、バルセロナとスペイン代表である。彼らの特質は、逆説的に言えばその守備にあった。ボールを奪われたらいち早く回収することで、守備に回らないで済む守備をする。ポゼッション70%を超える攻撃サッカーの肝はそこにあった。パスコースを作る能力が高ければ、パスカットの能力も高い。彼らのサッカーは理に適っていた。ドイツ代表のサッカーも、その延長にあった。
「フットボールとは、22人がボールを奪い合い最後はドイツが勝つスポーツ」と言われるように、元々ドイツは勝負強いチームとして知られている。足元の技術も高かったがそれに頼ることなく、フィジカルを前面に押し出し、強靭な精神力で勝利をもぎ取る、強くて逞しいチームとして歴史を築いてきた。しかしそれに翳りが見え始め、2000年ユーロでのグループリーグ敗退を受け、国を挙げて育成から一貫した改革を断行。それが2014年W杯で実を結ぶことになる。スペインから世界を席巻したパスサッカーは、張本人であるグアルディオラのバイエルン・ミュンヘン監督就任もあり、ドイツにおいても根付いて行った。特にそれを信奉するレーヴ監督就任以降は、変幻自在で魅惑的なパスサッカーは顕著になった。そんな彼らのサッカーは、元々のフィジカルの強さも相まって、よりハイブリッドな印象を与えた。
 一方のフランスは、全体としては組織化されて手堅いが、局面の打開では強い個が前面に出てくるスタイルで、卓越した技能を持つ選手に、黒人の走力、運動能力を融合させたチーム構成である。過去にはプラティニやジダンといった英雄が、チームをさらなる高みに押し上げた。個人主義の国らしく、そのお国柄は、サッカーにもよく表れる。
 それぞれのポジションに適した強い個を置き、個の連携と、個そのものを活かしたサッカーを展開するために、どうしても戦術的にはオーソドックスなものになりやすい。見た目には非常に判りやすいサッカーで、いい時は目の醒めるように美しく、悪い時は目も当てられない惨めさがあった。強い選手が揃っていてもチームがうまく機能しないのもフランスだった。監督の不可解な采配や選手選考に加えて、選手にも色々な問題が浮上し、2000年代後半は低送の一途を辿った。
 そんな、国の歴史としてもサッカー史においても山あり谷ありの、隣国の強国同士による宿命の一戦が、ユーロ準決勝の舞台で実現したのであった。一方は低迷期を脱けて大きな結果を手にし、もう一方は低迷期は脱けてあとは結果だけという状態にあった。

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