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オーディオ再考2.ヘッドホンが市民権を得る歴史

2000年代初頭、ヘッドホンは家電量販店の片隅にいた

今でこそ、ヘッドホンにはそこそこの売り場スペースも確保され、10万円なんてもはや中堅、最上位は100万円に近づこうとしてます。が、私が知る限りはそれは本当に歴史や時期においてはわずかな期間。今はイヤホン、それもTWS(True Wireless Stereo)が占拠して、ヘッドホンはマイナーオーディオに向かいつつありますが…。

私が「ちょっとでもいいヘッドホン」を探したのは2000年初頭のころ、大学一人暮らしで、音漏れの酷いアパートで、サークル活動であったクラシック音楽を聴きたかったためでした。
首都圏とかなら事情は違っていたかもしれませんが、地方都市の家電量販店(〇ックカメラやヨド〇シカメラなど)で、オーバヘッド型のヘッドホン売り場といえば、本当に1区画でしかありませんでした。2024年でいうと、廉価帯DAP売り場に近いでしょうか。今なんて廉価DAP買うくらいならスマホで十分ですから、ウォークマンは別格として、それ以外で1区画がせいぜいという状況。2000年代初頭ヘッドホンはそれと似たような状況でした。さらにそこでそこそこ高価格帯に属していたのは、もしかしたらDJ用ヘッドホンがメインだったかもしれませんね。

…何気に、DJという文化は、時代に左右されずオーディオ機器を守ってきた気がしますね、レコードもそう。

ヘッドホンの市民権はiPodで幕を開けた

そんな売り場の片隅にいたヘッドホンが急激に市民権を得たのは2001年登場のiPodでした。音楽を携帯するという文化自体が、広く一般に花開いたのは間違いなくiPodの登場でしょう。もちろんそのちょっと前からソニーやiRiverといったMP3プレーヤーもそこそこ火花を散らしていましたが、正直主流とはいいがたく、Windows98SE以降のWindowsMediaPlayerにCDをリッピングし始めた一部マニアのアイテム程度だった記憶です。
iPodが登場し、特に2004年の第4世代付近がもっとも爆発的にiPodが知れ渡った時期ではないかと思います。iPodとはといわれて思い出すのは第4世代頃の形状という人も多そうです。
iPodは付属の白いイヤホンがデザイン的にイケているものの、やっぱりそこは「もっといい音で聞けないか」マニアが少なからず発生するものです。そこを狙って、ヘッドホンもラインナップが一気に拡充して言った記憶があります。もしかしたら、もともとはラインナップはあったけど、それは首都圏などの一部地域だけで、地方都市にまでしっかり波及したのがその時期、といえるかもしれません。いずれにしても「地方都市ですら、ヘッドホンコーナーが拡充するくらいヘッドホンが市民権を得た」きっかけはやはりiPodの登場が大きいのではないかと考えています。

ヘッドホン高級化の始まり…URTRASONE edition7

ヘッドホンの選択肢が飛躍的に高まってきた2000年後半。とはいえ、普及価格帯1万円未満、高級機で2~3万円という価格設定が普通でした。超本格高級オーディオなんて人生の勝ち組のような人じゃないと体験できなかったのに、ヘッドホンは10万円もあれば、各メーカーの最上位・いわゆるフラグシップというモデルを手に入れることができたわけです。
そういう時代に合った中、衝撃的なヘッドホンが登場しました。

UTRASONE(ウルトラゾーン)のedition7というモデルです。そもそも、UTRASONE自体が、当時としては日本であまり認知されておらず、DJProやHFIといったモデルにおいて、ごく一部の層で評価されていた、程度だった記憶です。
そんななか、2004年に突如現れた「edition7」というヘッドホンは販売価格45万円(当時)、999本限定生産という、なんともイカれたものでした。そのちょっと前に、audo-technicaからも、英国レザー製のハウジングを持つATH-L3000というヤベェものを20万円ほどで出していましたが、それがかわいく見えるという恐ろしい事態にヘッドホンマニアは震えたことと思います。私がハイエンドヘッドホンという界隈に興味を持ち始めた時期がまさにedition7の登場と被って、憧れに近い存在といってもよかったでしょう。
ヘッドホンが20万とか30万の価値を見出し始めたのは、edition7の登場と成功があったから、というのが私の認識です(もうちょっと前からその傾向はあったかもしれないけど)。

なお、私はその後発売されたedition9は保有してました。
edition9はedition7と類似性能を持ちつつ価格は半分(それでも24万円)に抑えた廉価モデルでした。edition9は当初500本限定といわれてましたが、何度か増産を経ていて、私が購入した時はシリアルナンバーを選べる程度には在庫がありました。

所有していたedition9

このとおり、edition9が出るころには社会人になってある程度自分の稼ぎで高いものが買えるようになって、まず手を出したのが片っ端から高級ヘッドホンを手に入れることでした。当時の私の考えとしては、旗艦モデルでなければ、メーカーもある程度の制約の中で音作りをしているはずなので、その制限が(基本的には)ないと思われる旗艦モデルを聞くことができれば、そのメーカーが何を目指しているのかが手っ取り早くわかるだろう、という認識でいたわけです。暴論ですが、わりと真実だったのではないかと。

ヘッドホンの盛り上がりを示した2つの出来事

ヘッドホンの盛り上がりが、(今思えばおそらく最初で最後の)最盛期を迎えたことを象徴する2つの出来事がありました。

萌えるヘッドフォン読本


萌えるヘッドホン読本、新・萌えるヘッドホン読本

同人界隈で、突如発生した、ヘッドホン+萌えという企画。2007年頃でしょうか。絵柄は可愛いものの、実際は著名なオーディオライターの方がレビューしているため、同人誌界隈では瞬く間に評判となりました。その後、商業誌として「新・萌えるヘッドホン読本」もリリースされており、後者は今なら古本屋などの中古で安く手に入るのではないでしょうか。同人誌版は、数はそんなにないですがプレミア付くほどではない…?
同人誌版・商業誌版どちらもリアルタイムで入手していたので、探せば出てくると思います。

ヘッドホン祭(フジヤエービック主催)


※これはタイムスタンプによれば2014年頃のヘッドホン祭、らしい。

オーディオ販売、特にヘッドホンの販売で評判のあった、東京都中野区フジヤエービックが主催したヘッドホン祭は、今も季節イベントで年2~3回開催されています。私は実質の第1回(その前年にも類似のイベントはあったそうですが)の2007年のヘッドホン祭から数年間は参加していました。当時はフジヤエービックにも足しげく通っていたので「今度こういうイベントやるんで、来てください」って店員さんに言われたのがきっかけです。フジヤエービックは中野ブロードウェイに店舗がありますが、すぐ近くにあった中野サンプラザのカンファレンスルームで開催されてました。
このヘッドホン祭り、その後には世界的にも認知されて、このヘッドホン祭りに合わせて海外オーディオメーカーの主要開発者が来日したり、ヘッドホン祭りが新製品のワールドプレミア発表の場になったりもしていた時期がありました(今もそうかもしれません)。

正直、今はヘッドホンはポータブルオーディオの主流から外れかけており、こうしたヘッドホンの大きな盛り上がりの時代の渦中を過ごせたのは、私の人生の中でもかなり貴重だったのでは…と、今でも思うことがあります。とはいえ、私はヘッドホン界隈を引っ張るような人間ではなく、あくまでその空気感の一端にいたというだけですが。

(続く…

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