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ネイティブ日本人の日本語力(1)

どうやら「教科書が読めない子どもたち」がいるようだ。『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)という本をご存知だろうか。この本は2019年のビジネス書大賞の大賞を受賞されているそうなのだが、Amazonで調べてみると、「衝撃のベストセラー!30万部突破!読解力のない人間は、仕事を奪われる!」とめちゃくちゃ煽った帯が巻かれた画像が出てきた。説明文を読んでみると、「全国2万5000人を対象にした読解力調査では恐るべき実態が判明」したとのことで(その「恐るべき実態」というのは、タイトルからしておそらく「教科書が読めない子ども」が結構数いるということなのだろう)、「その行き着く先は最悪の恐慌」なのだそうだ。僕はこの本を読んでいないので、その因果関係について詳しいことは分からないけど、日本の子どもたちの読解力の低下については、経済協力開発機構(OECD)が行っている国際学習到達度調査(PISA)でも明らかになっている。

PISAは3年ごとに行われる大規模な調査で、2018年の調査には世界の79の国と地域から義務教育終了段階の約60万人が参加したそうだ。同年の調査の日本の平均点は、「数学的応用力」が6位で「科学的応用力」が5位と、それらは比較的上位であった一方で、「読解力」は15位にとどまり、前々回の4位、前回の8位から順位を落とし続けているとのこと。

これらの調査対象者の大半は、日本で生まれ、日本人と日本語に囲まれて育ったネイティブの日本人だろう。そんな彼らの読解力が低下しているのは由々しき事態だと、教育関係者をはじめ、大勢の大人たちが子どもたちの読解力の向上に乗り出していることだと思う。そりゃあ、日本で生活する日本人のほとんどは、基本的には日本語を使って物事を考えて、日本語でコミュニケーションをとるわけだから、読解力を含めた日本語の読み書き能力(リテラシー)の低下は、論理的思考力とコミュニケーション力の低下を招いてしまうことになる。逆に言えば、日本語リテラシーは論理的思考力とコミュニケーション力の土台と言え、日本語のリテラシーが低く、まともに教科書が読めないとしたら、教科書に書かれてあることを理解するのは当然、困難となる。そしてそれは、国語のみならず、あらゆる科目で言えることであって、学習効率がめちゃくちゃ低くなってしまうということを意味する。相手の言っていることを理解する。自分の思いや考えを相手に伝える。日本語のリテラシーが低いと、そうした言葉のキャッチボールも難しくなってしまうだろう。

世界的に「STEAM教育」に取り組む動きがある。「STEAM」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字をとった造語で、これらを体系的に学ぶことで、Society5.0時代におけるクリエイティブに課題解決できる人材を育てましょうというコンセプトだと理解しているのだけど(違ってたらごめんなさい)、日本語のリテラシーが低いまま、「STEAM」に取り組んでも、結局のところ、学習効率が低く、非効率なのかもしれない。だったら、「STEAM」の前にJapanese(日本語)のリテラシー向上が重要で、いっそのこと「STEAM」にJapanese(日本語)を加えて「JSTEAM」にしたら良いと思うのだけど、「読解力」が低下しているとはいえ、教育界としてそこまでの逼迫感はないのだろうか。グルーバル社会だからプログラミング言語を含めた語学力が大事っていうのも分かるけど、それも日本語(母国語)力があってこそ。

PISAの結果を見るまでもなく、いくらネイティブの日本人だからって、日本語力の向上をおろそかにしてはいけない。そしてそれは子どもだけでなく、大人にも言えることだ。バックデータがあるわけじゃなく、これはあくまで個人的な実感からの仮説なのだけど、大人であっても日本語リテラシーが低い人はいるし(それも結構たくさん)、その結果、仕事の生産性を低下を招いているのではないか。つまり、日本の生産性の低さの要因は、日本語力の低さにあるように思うのだ。

ネイティブ日本人の日本語力(2)」では、なぜ日本語力の低下が生産性の低下を招くのかについて書いてみたい。

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