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【私の仕事】チャンスの女神に、後ろ髪があった話

私が「コピーライター」を目指すきっかけになったエピソードを、お話します。
それまでの私は、教育の仕事に携わっていて(学習塾経営)クリエイティブな仕事はもちろん、自分がコピーライターになれるとは考えてもいませんでした。

切れ味のある言葉も書けないし、文章が得意なわけでもない。賞をもらったこともないし、褒められるどころか「へたくそ」と言われたこともある。そんな私ですから「あのような仕事は、才能がある人が目指すもの」と考えていて、最初から遠い世界のできごとだと考えていたのでした。

ある日のことです。昼食のカップラーメンを食べ終えた私は、いつものようにMacを立ち上げ、メールチェックをはじめました。一列に並んだ文字列のなかから「取材依頼」という件名が目にとまりました。そこには、

「〇〇のAといいます。佐藤さんのサイトを拝見しました。取材させてください」

と、いうような文章が書かれていました。
当時、私も定期的に愛読していた、某雑誌で連載しているライターさんからのメールでした。

「はあ? オレに取材? これって迷惑メール?」

これが率直な感想でした。自分に取材の依頼なんて、くるわけがない。何かの間違いだろう、と考えメールへの対応を保留することにしました。つまり、それくらい信じられなかったし、自己評価が低かったのです。そして通常であれば、このまま過ぎ去ってしまったことでしょう。

数日が過ぎました。
私はいつものようにMacを立ち上げ、メールチェックをはじめました。またもや、並んだ文字列のなかから「取材依頼」という件名が目にとまりました。そこには、前回と同じ内容に加え「返信をお待ちしています」と書かれていました。

2回も送ってくる、ということはいたづらではないようです。通常でしたら、あれ? これは本物か? チャンスだ! と意気揚々に返信するでしょう。しかし、自己評価の低い私は、ここでも躊躇してしまいます。

「私は特に才能もないし、取材を受けてもたいした話もできないと思います」

このような返信を送ったのです。なかなかの頑固っぷりです。自己評価低過ぎです。こんな文章が返ってきたら、私なら「じゃあ、いいです」と突き放すでしょう。「チャンスの女神は前髪しかないんだぜ」とか嫌味のひとつも言うかもしれません。

Aさんから、返信が届きました。Aさんは、私の返信したメールの内容を気に入って下さった(謙虚で真面目な性格であると、よい方向に勘違いしてくれた)らしく「そのような考えを持っている人を取材したいと考えている。ぜひお願いしたい」と、粘り強くメールを送って下さったのでした。

そこまで言われたのであれば、私も鬼ではありません。むしろ「プロのライターってどんな人なのだろう? どのようなことを聞かれるのだろう?」と好奇心が勝り、依頼を受けることにしたのでした。

当日、一通り取材がおわってから雑談が始まりました。お互いに音楽が趣味で学生時代にバンドを演っていたことなどを話しつつ、なんとなくリラックスした雰囲気になってきたところで、私は「たいした話ができなくて、すみませんでした」と、口にしました。

とくに面白い話もできなかったし、特別な知見も提供できなかったので、もしかしたらボツになるかもしれない、とさえ考えていたからです。するとAさんは、

「私は、佐藤さんを買っているんですよ」
「佐藤さんには文章力がありますよ。プロとして、やっていけると思います」

と答えてくれたのです。さらに「センスがある。コピーライターが向いている」とまで。コピーライターか……。私の頭の中に、今まで考えたこともなかった言葉が飛び込んできました。

Aさんは「社交辞令」として言ったのかもしれません。しかし、私は本気にしました。ライターとして仕事をしている方から褒められた。たとえ、お世辞だったとしても、少しくらいは「ほんとう」かもしれない。大いなる勘違いが芽吹こうとしていました。

あれから長い時間が過ぎました。私は今でも、時折Aさんの言葉を思い出します。大きな仕事を依頼された時、自分の身にあまる内容だと感じた時、この言葉を思い出します。そして「きっとやれるはず」と奮い立たせるのです。

人との出会いが人生を変える、といいます。たしかにそうだ、と私は自分の体験から、そう感じています。いままで出会った人から、よくもわるくも、投げかけられた言葉。それらの集合体が「わたし」を形成していて、何か選択を迫られた時に背中を押してもらう力になっています。

私も、それなりに年齢を重ねました。そろそろ、今まで学んできたことを、次の世代に伝えていく時期だと感じています。チャンスの女神にも後ろ髪があるかもしれない。攻めたら守れ、守ったら攻めろ。正直が勝つ。前途洋々、胸を張って進め! では失敬。

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