夏こそにゅう麺
М子、おぼえていますか。
あなたが4歳の頃、オーストラリアの叔母さんの家に家族そろって遊びに行きましたね。
叔母さんのうちは当時まだ夫婦二人で、変わり者の叔父さんがおうちの中でたくさんのヘビや爬虫類を飼っていたので驚いたものです。
家族そろっての海外旅行は初めてのことでお母さんもてんやわんやでした。子ども達は幼く、あの頃作ったどこかおままごとめいたパスポートは有効期限が切れているけれどまだ大切に引き出しにしまってあります。
あの時のオーストラリアはからっからに乾いた真夏で、洗濯を干すには広すぎる空と、足を踏み入れるには透明すぎる海に感激しました。その辺を歩いている大きなエミューと遭遇した時はかなり緊張したけれど、エミューはつまらなそうな顔で去っていきました。
素晴らしかったオーストラリア。
でもお店で食べる料理は全体的に脂っぽくて参りました。日本人の舌と胃は繊細と言えば聞こえはいいけれど、弱いんだなぁとどこか自虐的になりました。結局一番おいしかったのはおばさんお手製のキューピーのたらこスパゲッティ(笑)。そして当時の日本にはあまり流通していなかった皮ごと食べるぶどうのおいしかったこと!
楽しく過ごした初めての海外。
真冬の日本に降り立ち、空港から深夜バスを乗り継いで家にたどり着いた時にはもうみんなへとへと。お腹はペコペコでした。
長く家を空けるので冷蔵庫は空にしていきました。何にもなくてキッチンの棚をほじくり返してやっと見つけたのが素麺。夏に使いきれなかった分でしょう。お母さんはとにかく素麺をゆでて、温めた麵つゆの中に泳がせました。
「温かい素麺のことを“にゅう麺”て言うんだよ」
そう言いながらテーブルに湯気の上がるお椀を並べると、小さなあなたたちはがむしゃらに食べましたね。
「にゅう麺は世界で一番おいしい!!」
「なんでオーストラリアにはにゅう麺がないのかなあ、こんなにおいしいのに」
初めて知った言葉を面白がって何度もにゅう麺と繰り返しては笑いましたね。
無事に我が家に帰り着いた安心と興奮と久しぶりの冷たい空気にあなた達の頬は薔薇色に輝いていました。
夏といえば素麺。
暑くて食欲がない時にも口当たりよく食べやすい食材です。
でも時には温かい麺つゆに浮かべて食べるのもおすすめです。
少し煮て卵を溶き入れて卵とじ風にして食べるのもおいしい。
疲れた胃を癒してくれますよ。
(ちなみににゅう麺は漢字だと「煮麺」と書くらしいです)
▼簡単なうちの料理のシリーズです。
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