「君たちはどう生きるか」

 先週観に行った「君たちはどう生きるか」。最初の衝撃が薄れたので、ぼんやり考えていたことをまとめよう。
 初めは観るつもりがなかった。小説のほうは教育的であまり好きじゃなかったから。『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(梨木香歩)のほうな好きだけど。でもどんなふうに作ったのか気になって観に行った。行って良かった。
 冒頭は時代設定の影響もあって「風立ちぬ」を思い出させた。火事から逃げる人々は影のようで、ゆがんで揺らいでいて怖かった。熱が押し寄せているのが伝わる。その中を走っていく真人が心配になった。
 それからなつこさんの登場シーン。人力車から降りる姿が妙に色っぽい。矢絣の着物もパッとしていて、他の人たちとは違う。お金持ちのお嬢さんだし、「女」を感じさせた。
 そしてお屋敷へ。アオサギにもどきりとしたけど、おばあちゃんたちにもびっくりした。小さくてたくさんいて妖怪みたい。トトロのおばあちゃんがいたから、今までの宮崎作品からいろんなおばあちゃんが来のかな。
 その後、自分で弓矢を作ってアオサギと戦おうとする真人。しっかりしすぎだし、すごすぎる。このあたりで吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』が出てくる。そういう使い方か!と驚いた。コペルくんもいないし、全然違う話なんだなーと思って観ていたから。
 塔に入る場面、本だらけの壁などとてもファンタジーでワクワクした。それでどうなるんだろう、と物語を純粋に楽しめた。
 アオサギはジコ坊(もののけ姫)のようだし、なつこさんもエボシ(もののけ姫)みたいな場面があったし、ヒミはなんとなくテルーを彷彿とさせた。若い頃のきりこさんはリン(千と千尋の神隠し)に似てる。
 大きな石のある草原もよく出てくる。「千と千尋の神隠し」でも出てきた。たぶんハウルの扉からも行けるし、「風立ちぬ」の夢ともつながっているのだろう。
 これらの似ているところは、セルフパロディとか使い回しとかではなくて、そのまま宮崎駿の世界なのだと思う。その世界をいろいろな場面で見せている。だから違う場所に見えても同じ場所だし、同じに見えても違うのだ。
 物語の終盤、大おじの作った世界は崩壊する。この大おじは宮崎駿自身なのかなとちらりと思った。でもそれは安直すぎる考えかもしれない。
 全編を通して感じていたことは、宮崎駿の映画を、新作を観れて良かったということ。本当に素晴らしく幸せなことだと感じた。
 3Dみたいなアニメではなく、こういう感じが好きだなぁとしみじみ思った。とくにこの作品は背景が油絵というか印象派の絵のようで美しかった。絵画が風になびいているようでみとれた。水彩画みたいな空もとてもきれいだった。ジブリといえば食べ物が話題になるけど、私は背景の美しさのほうが好き。物語を抜きにして背景だけ観ても素晴らしいと思う。
 「生きろ」(もののけ姫)、「生きねば」(風立ちぬ)ときて、「どう生きるか」というタイトルもすごい。原作とは全く違う話だけど、常にどう生きるかはつきつけられている。現実でも。
 ところで、アオサギとその羽に見覚えがあるような気がした。『耳をすませば 幸せな時間』(柊あおい)に出てくるのでは。もしかして「耳をすませば」のアニメでは使わなかったけど、ここに持ってきたのでは?と考えて少しドキドキした。もしそうだったら素敵。漫画を読み返したらアオサギではなくゴイサギだったけど。でも無関係とはいえないんじゃないかな。と、そう思いたい。
 あと、たくさん出てくるあの大きなセキセイインコたち。あの四角い背中が途中からタイムマシーン3号の関さんに見えて仕方がなかった。目のところの丸いのもメガネに見えるし。そう見えてからは笑いをこらえるのが大変だった。声の出演とかないのかなと期待した。なかったけど。
 声といえば、やっぱり木村拓哉はうまいのだなと感心した。ちょっとした言い方に強引で尊大な性格をにじませていた。ハウルのときも驚いたけど今回も。ドラマだといつも同じなどと言われてしまうのは、本人のキャラクターが強すぎるからなのかもしれない。木村拓哉は何をしていても木村拓哉というか。アニメだと声だけで姿がないから、その演技のうまさがやっとこちらにわかるのだろう。あとアオサギが菅田将暉だと知って、これも驚いた。やっぱりうまいなー。
 前情報がなかったし、期待もそれほどではなかったせいかとてもおもしろかった。宮崎駿の集大成。すごいなぁーと何度も思った。エンドロールで誰一人席を立たなかったから、きっとみんな同じ気持ちだったのだろう。どんな映画でも数人は早めに出ていくものなのに。
 こういう映画が観たかった。これこそファンタジーだ。観た直後はそんな風に一人で盛り上がっていた。本当にそんなに素晴らしかったのか、単に最初だからそう感じただけか、確かめるためにもう一度観に行きたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?