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「享保の暗闘~吉宗と宗春」1


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第1景
 
享保一六年(1731)春。
尾張の民が「名古屋ばやし」を踊りながら上手より登場。
但しビートが効いたダンサブルなものである。
https://www.youtube.com/watch?v=X9JKp1872ec
 
   ♪ 名古屋ばやしでヨッサヨサー
     踊れやおどれ、祭り提灯ともるころ
     いりゃあせ おどりゃあせ
     うれし名古屋の夏祭り ヨイヨイヨイ
     ソレ
     囃せよ ヨッサヨサ
     踊れよ ヨッサヨサ
 
喜八、ふく、ひでがやってきて
 
喜八  「うわ!すげえすげえ!」
ふく  「みんな楽しそう!」
ひで  「何言ってんの!私たちも踊るわよ!ソレ!」
 
ひでが先頭になって二番が始まる。
六道屋仁吉、舞台下手より登場。
 
六道屋 「私、六道屋仁吉と申します。以後お見知りおきを。さて、時は享保一六年、かの関ケ原の合戦にて徳川家康公が石田三成を打ち破り、徳川幕府が誕生してから、ひいふうみい。かれこれ131年が経ちました。今や徳川家が治める天下は安泰。かと思いきや。度重なる大火事や飢饉で幕府の財政は破綻寸前。風前の灯火。そこで立ち上がったのが時の将軍・徳川吉宗公。この暴れん坊将軍こと八代将軍徳川吉宗公が財政を立て直そうと進めたのが、あの有名な『享保の改革』。この享保の改革、新田開発を進めたり、目安箱を設置したりして、効果がなかったわけではないんですが、あまりにも莫大な借金は幕府で何とかしようったってどうにもならない。そこで幕府は国を挙げて節約生活をするしかないと国民全員に極端な倹約令を出したんです。慎ましく暮らしてきた庶民たちはそりゃあビックリですよ。自分たちが何をしたわけでもねえのに急に税金がバーンと上がっちまうんですから。でも結局、庶民はお上には逆らえないわけで。そんな幕府の倹約令に真っ向から反対したのがあの『尾張七代藩主・徳川宗春公』。宗春公は幕府の出した倹約令を無視し、地元尾張の国で、金融緩和政策を打ち出した。つまり幕府は面目を潰されたわけです」
 
祭りばやしが聞こえてくる。
 
六道屋 「ここは宗春のお膝元・尾張は名古屋。享保の改革ですっかり静かになってたお祭りを宗春公が10年ぶりに再開させたって話です」
 
   ♪ あの娘どこの娘ヨッサヨサー
     やぐらの下で、踊る姿の粋なこと
     いりゃあせ おどりゃあせ
     名古屋田どころ芸どころ ヨイヨイヨイ
     ソレ
     囃せよ ヨッサヨサ
     踊れよ ヨッサヨサ
 
突然音楽がぷっつり消える。
神尾春央と藪野助六が登場。
 
助六  「静まれ!静まれ!ええい静まれと言うに!」
喜八  「何だよいいとこだったのに」
ふく  「ほんとだよ」
ひで  「囃せよヨッサヨサ、踊れよヨッサヨサ」
助六  「控えよ!」
 
一同控える。
 
神尾  「ずいぶんと派手な祭りだな」
喜八  「へへっ。どうも」
神尾  「誰の許しを得てこの祭りは行われているのだ?」
ふく  「誰のって」
喜八  「そんなのお殿様に決まってんだろ」
神尾  「お殿様とは?」
ひで  「尾張の殿様は一人しかいないでしょ」
喜八  「徳川宗春様だよ」
神尾  「宗春?尾張七代藩主、徳川宗春公のことか」
喜八  「そうだよ」
ふく  「何か問題ある?」
神尾  「そうかそうか。いや残念なことだ」
ふく  「残念?」
神尾  「まあよい。皆の衆、今夜はこのあたりでお開きにしていただこうか」
ひで  「いきなり入ってきて何言ってんのよ」
喜八  「大体誰だよあんた!」
 
民衆、そうだそうだ!
 
助六  「控えよ!」
民衆  「(勢いに圧されて黙る)」
助六  「この方は若狭守、神尾春央様であるぞ」
ひで  「かんおはるひで?」
喜八  「誰だそりゃ」
助六  「とにかく江戸から来たエライ人なんだ」
喜八  「あ、そう」
ふく  「何でそんなオエライさんが尾張なんかにいるんだ」
神尾  「悪い噂があったのでな」
喜八  「悪い噂?」
神尾  「そう。幕府の改革に反する華美な祭りが行われているとな。だから確かめに来たのだ」
助六  「分かったらさっさとお開きにせい!お前たちのためだぞ」
 
民衆、ブチブチ文句を言いながら三々五々に散っていく。
群衆の中に紛れていた柘植新八と大出堅物、隠れて。
 
助六  「神尾様」
神尾  「宗春様は藩主の仕事を何か勘違いされておるようだ」
助六  「勘違い?」
神尾  「日の本は上様が治めているということを、あの方は忘れておる」
助六  「はあ」
神尾  「温知政要だか何だか知らぬが、民のための政などと・・・政は御国のためにするものじゃ」
助六  「御意にございます」
神尾  「急ぎ戻る」
助六  「え?」
神尾  「上様に報告せねばなるまい」
助六  「しかし、きしめんはいかがなさいますか?」
神尾  「助六は食ってからいけばよい」
助六  「いえ、御供させていただきます」
 
神尾と助六、去る。
新八と堅物、それを見送るように出て来て
 
新八  「・・・」
堅物  「いけすかねえ野郎だな」
新八  「しっ」

名古屋城内・庭先

新八と堅物が控えていると、上座から星野と宗春が登場し、座す。
 
星野  「お待たせいたした」
新八  「いえ」
宗春  「どうだ?祭りは盛り上がっておるか」
新八  「はい。民百姓を問わず皆楽しそうに踊っておりました」
宗春  「そうであろう。これだけの盛大な祭りは10年ぶりだからな」
星野  「私もわくわくしております」
宗春  「ああ。囃せよヨッサヨサ、踊れよヨッサヨサ」
新八  「しかし、祭りは江戸から来たお武家様が強硬にお開きにしてしまわれました」
宗春  「お開きだと?」
新八  「はい」
星野  「誰だ?お開きにしたのは」
新八  「え?えーとですね・・・」
星野  「新八。そこはしっかり覚えておかないと」
新八  「申し訳ありません。腹を切ります」
宗春  「腹は切らんでいい」
新八  「ははー」
堅物  「神尾ですな」
宗春  「神尾?」
堅物  「確か神尾春央とか言ってませんでした?」
新八  「そうだ!それです」
星野  「神尾様が」
宗春  「なるほど。他には何か言っていたか」
堅物  「何でも宗春殿は藩主の仕事を勘違いしているとか何とか」
星野  「貴様、無礼であるぞ」
堅物  「そっすか?」
新八  「申し訳ありません。この上は某、腹を」
宗春  「切らんでいい!そもそも言ったのはお前ではないだろう」
新八  「お前だ」
堅物  「俺すか?言ってたのは神尾春央でしょ」
星野  「確かに」
宗春  「新八、堅物、大儀であった。下がってよいぞ」
堅物  「ははっ!」
宗春  「また何かあったら報せてくれ」
堅物  「ははっ!」
 
新八たち、下がる。
 
星野  「殿、神尾様といえば、享保の改革の最右翼。あまり派手な動きはせぬほうが」
宗春  「神尾春央」
星野  「幕府は尾張の政を快く思っていないということかもしれません」
宗春  「うむ。何しろ俺は幕府の改革を真っ向から否定しているんだ。それを良く思わないのは当然だろう。俺はこの改革が正しいとは思えん。幕府の財政を立て直すために民草を巻き込み重い年貢を課すなど。お前は本当にそれが正しいことだと思ってるのか」
星野  「お答えしかねます」
宗春  「俺はただ公方様に忠誠を尽くしたいと思っている」
星野  「でしたら公方様が進めておられる享保の改革に協力すべきではないでしょうか。我らも質素倹約に努め、幕府の政に倣うことこそ肝要なのでは」
宗春  「何故だ?」
星野  「それが主従関係というものです」
宗春  「お前にとって真の忠誠とはなんだ」
星野  「真の忠誠?」
宗春  「俺は正しいと思えないことに恭順はせぬ。それこそが真の忠誠だと思う」
星野  「しかし」
宗春  「お前だって同じではないか」
星野  「私がですか?」
宗春  「お前は俺の家臣だろ」
星野  「はい」
宗春  「俺のいいなりになどならぬではないか」
星野  「そんなことは」
宗春  「今だって俺に反対しているではないか」
星野  「あ、確かに」
宗春  「俺はいいなりになるだけの家臣はいらぬ。だからお前を側に置いているのだ」
星野  「勿体なきお言葉。しかし公方様としても徳川家の足並みが揃わないことを望まれないのでは」
宗春  「俺はわからんのだ。今幕府が行っている改革は公方様が本当にすべきだと思っているのか」
星野  「それほど幕府の財政が厳しいということでしょう」
宗春  「それにしても幕府は民から楽しみを奪うことに何の躊躇もない。せめて祭りくらいは」
星野  「・・・」
宗春  「人は苦しむために生まれてきたのではない。楽しむために生まれてきたのだ。楽しむために働くのだ」
星野  「殿」
宗春  「なんだ」
星野  「変わらないですね」
宗春  「・・・」
星野  「民を思い、民を助け、民のためなら誰とでも戦おうとなさる」
宗春  「うつけだと言いたいのか」
星野  「私は徳川宗春の家臣であることを本当に嬉しく思います」
宗春  「お前とは元服する前からの付き合いだ。今更変わろうとも思わんよ」
星野  「殿が変わるのは、犬がニャンと鳴くようなものです」
宗春  「お前俺が成長してないと思ってるだろ」
星野  「ええ。そこが良いところです」
宗春  「そうか」
星野  「私は殿に従うまでです」
宗春  「頼むぞ、星野」
星野  「しかし幕府に恭順しないとなると色々大変でしょうね」
宗春  「大丈夫だ。何とかなるものだ」
星野  「本当に変わらないお人だ」
宗春  「なんだ?」
星野  「いえ」
宗春  「よし。町へ出るぞ」
星野  「は?」
宗春  「祭りが中止になり町衆たちはさぞガッカリしてるだろう。元気づけてやらねば」
星野  「はっ!」
 
宗春と星野、出ていく。

パカランパカラン。ヒヒヒーン
馬に乗った暴れん坊将軍・吉宗がやってくる。
それを追いかける松平乗邑と助六。
馬から降りて。助六が馬を戻していく。

 江戸城・城内

乗邑  「上様!お待ちくだされ!上様!」
吉宗  「乗邑、何をしておる」
乗邑  「先ほどからずっと追いかけていたではありませんか」
吉宗  「それはすまなかった。お前もなかなかの健脚じゃな」
乗邑  「上様のお側にいたら健脚にもなります」
吉宗  「嫌味か」
乗邑  「いえ、正直な気持ちです」
 
吉宗、もろ肌を脱ぎ手拭いで乾布摩擦を始める。
 
吉宗  「健康には気を遣えよ。適度な食事と適度な運動が心身ともに健やかでいるための必須条件だからな」
乗邑  「はい」
吉宗  「乗邑もどんどん質素倹約に励めよ。上の者が倹約することで初めて下々がそれに付いてくるのだ」
乗邑  「しかし上様におきましては、もう少し見栄えのよいものをお召しいただくわけには参りませぬか。木綿ばかりではなくパリッとした感じの」
吉宗  「乗邑」
乗邑  「はい」
吉宗  「借金を作ったのは民ではない。これまで続いてきた徳川幕府だ」
乗邑  「恐れ入りましてございます」
吉宗  「それで?」
乗邑  「はい?」
吉宗  「何か用があったのではないのか」
乗邑  「はい。神尾若狭守が尾張から戻ってきたとのことでございます」
吉宗  「尾張?何故尾張になんぞ行かせたのだ?」
乗邑  「詳しいことは若狭守から聞いていただければ」
吉宗  「そうか」
乗邑  「入れ」
 
神尾、入って来る。
 
吉宗  「神尾、いかがした」
神尾  「上様、一大事でございます」
吉宗  「申せ」
神尾  「上様は尾張藩主宗春様のお書きになった書はご拝読なされましたでしょうか」
吉宗  「読んだ。温知政要だったか」
神尾  「さようで」
吉宗  「なかなか面白い書であった」
神尾  「面白くなどございません。私は嫌な予感がしたので急ぎ尾張に向かったのです。やはり尾張はとんでもないことになっておりました」
吉宗  「とんでもないこととは?」
神尾  「尾張城下でド派手な祭りをしておりました」
吉宗  「ほう。祭りを」
神尾  「質素倹約に努めているこのご時世に。こんなことはこれまでありえなかったこと。藩主が宗春様に変わった途端この有り様です。このまま放っておいたら尾張は幕府に反逆の狼煙を上げるかもしれませぬぞ」
吉宗  「バカなことを申すでない。あいつは少しばかり気負っておるかもしれんが正義感の強い男だ」
神尾  「しかし」
吉宗  「黙れ!」
神尾  「!」
吉宗  「乗邑!」
乗邑  「はい」
吉宗  「どうしたら国全体が豊かになるか、もっと考えるべきではないのか」
 
吉宗、部屋に入っていく。
 
乗邑  「恐れ入りましてござります」
神尾  「恐れ入りましてござります」
乗邑  「・・・」
神尾  「お分かりいただけませんね」
乗邑  「上様は宗春様を弟のように可愛がっているからな」
神尾  「しかし上様は紀州ではないですか。尾張とは熾烈な将軍職争いをしてましたよね」
乗邑  「だからであろう」
神尾  「え?」
乗邑  「上様は尾張を打ち倒し将軍の座についたことに負い目がある。それで宗春様を殊更に可愛がっている」
神尾  「それなのに宗春公は・・・義を弁えぬにも程がある」
乗邑  「だからこそ上様は我々が守って差し上げなければならぬのだ」
神尾  「御意にござります」
 
乗邑、神尾、去っていく。

遊女たちが入って来て「名古屋名物」に合わせて舞う。
小さん、千早、朝雲も踊る。
一緒になってゆるっと踊る宗春と六道屋仁吉。
 
名古屋市中・遊郭

    稽古風景

「名古屋名物」
https://www.youtube.com/watch?v=o3SLSvI_NDw
 
   ♪ 名古屋名物 おいて頂戴もに すかたらんに おきゃあせ
     ちょっとも だちゃかんと ぐざるぜえも
     そうきゃも そうきゃも 何でゃぁも
     いきゃぁすか おきゃぁすか どうしゃあす
     お前ゃ様この頃どうしゃあた
     どこぞに姫でも出来せんか 出来たら出来たと言やあせも
     私も勘考があるぎゃあも
     恐れぎゃあぜぇも
 
出てきたのは女形の星野。遊女たちと踊る。
 
   ♪ 名古屋名物 おいて頂戴もに すからたんに おきゃあせ
     ちょっとも だちゃかんと ぐざるぜえも
     そうきゃも そうきゃも 何でゃぁも
     とろくせゃぁこと 言やぁすなも
     やっとかめだこと あらすかえ
     お前様ちょぼっと来やせども お前さん内にはおれせんが
     やあたらしい事 やめてちょう
     つねぎるぜえも
 
やんややんや。
酌をする小さん、千早、朝雲。
星野、かつらを取り。
 
星野  「何で私が踊らなくちゃいけないんです」
六道屋 「何言ってるんですか。星さんが一番上手だったんじゃねえですか。なあ春さん」
宗春  「星野に踊りの才能があるとは知らなかった」
星野  「やめてください」
六道屋 「初めて踊ったなんてウソだろ」
星野  「本当です」
小さん 「でも本当にお上手でしたよ。スジがいいんでしょうね」
千早  「先生になって欲しいくらいです」
朝雲  「この際転職したらどうですか」
星野  「するわけないでしょ。ねえ春さん」
宗春  「俺は止めないぞ」
星野  「そんな」
朝雲  「ではアンコールにお応えして」
 
「名古屋名物」三味線が流れる
 
星野  「ストップ!ストップ!」
宗春  「なんだよ」
星野  「踊らないって言ってるじゃないですか」
六道屋 「何怒ってるんです。無粋ですぜ。なあ」
千早  「無粋です」
星野  「私は元々無粋なんです」
六道屋 「あんなに踊りが上手いのに何が無粋だ」
星野  「見よう見まねでやっただけです。着替えてきます!」
 
星野出ていく。
 
宗春  「怒らせちゃったかな」
六道屋 「すいません」
宗春  「あいつは元々こういう場が得意ではないのだ」
六道屋 「星さんは石部金吉ですもんね」
宗春  「そういうことだ」
六道屋 「怒らせると言えば、春さんも」
宗春  「なんだ?」
六道屋 「幕府回りじゃ大騒ぎですぜ。春さんが書いた本。温知政要」
宗春  「読んだのか?」
六道屋 「いえ。でも噂にはなってます。享保の改革を真っ向から否定してるってね」
宗春  「まあ、そう読まれても仕方ないか」
千早  「なんの本ですか?」
朝雲  「近松様の新作ですか?」
千早  「違うわよ。春さんが書いたんですよね」
朝雲  「え!春さんって近松門左衛門なの?」
小さん 「そんなわけないでしょ」
宗春  「六道屋」
六道屋 「(察して)お前たち少し外してくれるか」
朝雲  「近松の新作、教えてくださいよ」
小さん 「もう。あななたち」
千早  「私たちを芝居小屋に連れてってください」
小さん 「もう本当にすいません。ほら、行きましょう」
千早朝雲「はあーい」
 
芸者衆出ていく。
 
宗春  「で、幕府の周りで騒いでいるとはどういうことだ?」
六道屋 「尾張の殿様は、紀州上がりの将軍が気に入らないって評判ですぜ」
宗春  「俺は誰よりも公方様を慕っておる」
六道屋 「幕府の重鎮たちはそうは思ってないでしょうな」
宗春  「家老どもには好きに言わせておけばいい」
六道屋 「いったい何を書いたんで?」
宗春  「至って普通のことだ。下々のものに我慢ばかりさせてたら、ロクな世の中にはならないとか、その程度のことだ」
六道屋 「あーそりゃあダメだ。さすが春さん、やりますねえ」
宗春  「当たり前のことを書いただけだ」
六道屋 「このこと町の連中に聞かせたら、みんな春さんのファンになりますぜ」
宗春  「記事にすればいいじゃないか」
六道屋 「いいんですか?今以上にお上に睨まれるかもしれませんぜ」
宗春  「お前の顔に『書きたい』って書いてあるじゃないか」
六道屋 「そりゃそうですよ。尾張の殿様が吉宗公をやっつけるって言ってるようなもんなんですから。売れねえわけがねえ」
宗春  「俺は別に公方様をやっつけるつもりはない。間違ってると言っているだけだ」
六道屋 「やっぱり」
宗春  「なんだ」
六道屋 「幕府にたてつこうとしてるじゃないですか」
宗春  「違う」
六道屋 「まあいいや。上手に記事にさせてもらいます。まま、一献」
 
そこに普通の衣装に戻った星野が戻って来る。
 
宗春  「おお、戻ってきたか」
星野  「あれ?お二人だけですか?」
六道屋 「春さんに温知政要のことを聞いてたんで。人払いをね」
星野  「ええ?温知政要のこと?」
宗春  「幕府の重鎮たちが騒ぎ出していると聞いたから、答えただけだ」
星野  「やっぱり」
六道屋 「ご安心ください。悪いようにはしませんから」
星野  「六道屋さん、瓦版屋の元締じゃないですか」
六道屋 「春さんが記事にしていいって言いました」
星野  「春さん」
宗春  「ダメってことはないだろ。幕府にはもう知らせてあることだ」
星野  「それとこれとは別の話です。百姓たちがこんなことを知ったら、江戸で一揆が起こるかもしれない。それに民が殿をもてはやせば、幕府も黙ってはいないはずです」
宗春  「それで改革をやめることはあり得ぬか?」
星野  「幕府自身の手でやめることはあり得ると思いますが、民に押されたらそうはいかないかと」
宗春  「うーむ」
六道屋 「・・・しかし、人の口に戸は立てられませんぜ」
宗春  「会ってみるか」
六道屋 「会う?」
宗春  「星野」
星野  「はい」
宗春  「将軍と御目通りしたい旨、松平乗邑様にお伝えしろ」
星野  「は」
宗春  「公方様と俺の思いは一つのはず。会わねば始まらぬ」
星野  「かしこまりました」
宗春  「話はここまでだ。皆を呼べ」
六道屋 「へい。おーい!(と手を打つ)」
 
遊女たちやってくる。
 
小さん 「お待たせいたしました」
宗春  「うん。一曲頼む」
朝雲  「ミュージックスタート!」
 
「名古屋みやげ」に合わせて舞が始まろうとすると
ドスッ!星野の横に矢が刺さる。
遊女たちの声。
 
星野  「(抜いて)誰だ!」
宗春  「新八!」
 
新八、出て控える。
 
宗春  「曲者だ。追え」
新八  「はっ」
 
走り去る新八。
腰を抜かす遊女たち。
 
宗春  「・・・」
 
暗転。

    稽古風景

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