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100メートル20秒の運動音痴を全国チャンピオンにした父の話。「ミスしたくてミスする子どもなんかいないんだよ」

私はの生き方や考え方は、父(安藤英明先生)に大きな影響を受けています。

父は、ソフトテニスのジュニアの指導者として全国的に有名な人でした。
これまでに北海道のチームや選手を全国優勝に導いた回数は16回
一年の半分、雪で外練習できない北海道で、短い練習時間で全国優勝に導くメソッドは、かなり特殊です。

私自身、父のソフトテニスの教え子なのですが(中体連の個人戦全国チャンピオンだったりします)、彼の教えは一貫していました。

「選手がミスをするのは、全部指導者の責任なんだよ。ミスをしようと思ってミスをしている選手なんか一人もいない。だから、ミスを叱るのは意味がない」


「もっと頑張れ!」と言う大人がいるけれど、子どもはこれ以上なく頑張っているんだよ。手なんか抜いてないんだよ。子どもに聞いたら「どう頑張れば、もっとうまくいくの?」って聞きたい気持ちだと思うよ。

そんなことをよく言っていました。

だから、指導者がすべきことは、どうしてミスをするのかを分析すること。
できるだけミスをしないようにするためには、どんな指導をすればいいのかを、父はいつも考えていました。
毎年、冬休みになると(北海道の冬休みは長い)、全国の指導者を訪ねてまわって、その指導法を見学させてもらっていたようです。

私は100メートル走で20秒を切れるようになったのは、高校に入ってからというくらい、めちゃくちゃ運動音痴なのですが(小中高を通して体育の成績が一番悪かった)、父は、そんな私でも試合に勝てるように、「相手が打つ前にどこにボールがくるのかを見極める方法」を教えてくれました。

・ひとつは、完全なるデータ分析。相手選手がどのボールに対してどこにボールを打つかのデータをとって分析する。
・もうひとつは、物理の法則。相手のラケットの面がボールを打つ直前にどこを向いているか、ボールを打つとき体がどれくらい傾いているか、それを見て物理的にどこにボールが飛ぶかを予測して、インパクトの瞬間よりも先に移動する。

この2つをマスターすることで、私は、全国大会の決勝戦まで、一度もバックハンドでボールを打つことなく(相手のボールがバックにくる時はすべて予測できたので、相手がボールを打つよりも前に先に走って、フォアに回り込んでいました)、勝ち上がることができました。

地区予選から、全国大会決勝まで20試合したのですが、結局バックハンドを打ったのは、決勝戦でマッチポイントを取られたときの1本だけでした。
私は父に「バックの練習はしてないから、打てなくても仕方ないけれど、もしどうしてもバックハンドで打たなきゃいけなくなったら、ラケットを思い切り振って『あたれーーー』って叫んで打て」と言われていました(笑←本当です)。
決勝戦では、たまたまうまいことラケットにボールが当たって、マッチポイントを逃れることができました。


↑最近自撮りを覚えた母から送られてきた父の写真。


そう、私、基礎の基礎である、バックハンドの練習すらしたことないまま、大会に出ていたんですよね。
それもこれも、父が「小・中学生の試合では、バックハンドは必要ない。使う確率が低い技術よりも、確実に使う技術の精度を高めたほうがいい。たとえばサービスとか。サービスは100パーセント打たなきゃいけないものだし、相手に左右されずに打つのだから、10割入るようにしたほうがいい」と言っていたからです。
バックハンドがラケットに当たる確率は5割を切っていたけれど、私の20試合のファーストサービスの確率は、たぶん9割を超えていたはずです。

一事が万事、こんな感じでした。
だから、中学を卒業したあと、インターハイや国体チームの強化合宿に出たり、全日本チームの練習に参加させてもらうたび、「え。なんで、あなたはこんなに基礎技術が低いの?」と、驚かれてばかりでした。
(そもそも、選抜メンバーの100メートルダッシュや筋トレにすらついていけなくて合宿初日に体を壊したので、私だけ別メニューでした)

技術だけで、ランク振り分けされると、レギュラーに入れないランクに入れられる。でも、当時は、試合をすれば、インターハイに出ている高校生にも負けることはありませんでした。それくらい、短い練習時間で「試合で使う確率の高い技術」だけ、練習していたし、そもそも練習の半分以上が模擬試合(ゲーム形式)での練習でした。

↑この間、父が最後のコーチをするというので、岩手県まで国体の応援に行きました。(「最後のコーチをする」というので応援にいったのは、この時で3度目になりますw)


この時、父から学んだことが、そのまま私の仕事のスタンスになっています。

ソフトテニスの全国チャンピオンであることは、就職面接のときも、その後の仕事先でも、とくに話したことがないので(著者さんがスポーツ選手という場合でなければ)、その実績そのものが仕事の役に立ったことはないのですが、

・何事もデータをとって、まず「何を練習するか」「何を捨てるか」を決める。
・自分がどの分野で勝負をするかを決める。
・条件に左右されない「原理原則」が何かを探る。
・実践で調整を繰り返す。
・自分一人で考えず、仕事相手の意見を聞く。

こういった姿勢は、完全に、父の指導法を真似ています。

父はよく、たった230グラムしかない軽いラケットが、成人したときに、もっと重みを持っていたらいいなあと言っていました。
君たちに教えたいのは、テニスの技術ではなく、生きる力だと言っていました。


今回、父の作文ドリルの構成を担当しました。ここでもやはり「ミスしたくてミスする子どもなんかいないんだよ」の精神が生かされています。

「作文をうまく書けないのが怖い」のであれば、「作文から文法のミスという概念をなくしてしまえばいい」

それが、安藤先生のメソッドの根底にあります。
私は、父から作文を教えてもらったことはなかったけれど(作文で苦労したことはなかった)、この本を作りながら、「ああ、テニスのときと、結局同じことなんだなあ」と思いました。

逆上がりができない子どもにも
発表が苦手な子どもにも
100メートル20秒かかる子どもにも
算数ができない子どもにも
作文ができない子どもにも

みんな、ミスしたくてしているわけじゃない。できない理由は何だろう。

そんな、優しい目を注げる大人に育ててもらって、本当に良かったなと思います。なんとなく、今、書いておこうと思いました。

安藤先生の作文ドリル、たくさんの方が予約してくださっているようです。伝えたいことはあるのに、文章でうまく伝えられない。そんなもどかしい思いをかかえているお子さんに届きますように!!!! そして書くことが苦手じゃないと思えることが、お子さんの一生の力になりますように。


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