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中村くんと私と演劇のはなし。

「変人」という言葉がぴったりな人だった。そして、「天才」という言葉もぴったりな人だったと思う。

 高校の時に、演劇部を立ち上げた同級生がいた。中村くん。高校2年生の秋口あたりかな、演劇部だったクラスメイトくんが、中村くんのボケが手に負えなくなったようで、偶然下校中だった私に助けを求めてきて認識されてしまった。
 それから、下校中に出会うと必ずと言って良いほど彼に捕まるようになってしまった。ある時はシベリア出兵を経験したおじいさんに、ある時は英国紳士になって私に話しかけてきた。ちょっと黙って欲しくて、持っていたキャラメルを渡したら、「お前はデブにカロリーを与えるのか!」ってもっとうるさくなった時もあった。
 確かに彼のだる絡みはうざかったし、ちゃんとコミュニケーションを取れているかも定かではない会話ばかりだったけれど、彼の知性のあるボケはなんだか魅力的で、彼の話を聞くのは好きだった。思えば彼と出会ってしまったのも私が演劇をしているきっかけの一つかもしれない。
 面識のなかった時からなんだかんだ、彼がいる間の演劇部の校内公演は欠かさず見てるんだよなぁ。美術部長と演劇部長、共通している感性があったのかもしれない。おこがましいけれど。

そんな彼とは下校中以外の絡みがないまま、特に寂しさも感じないまま、それはもうあっさりと卒業してしまった。

 そして大学1年生の6月の母校の文化祭に行った時に偶然再会した。大学に入学して、実年齢の10コ上に見られていた話が好き。現役入学ぞ、K大に!それくらい、年相応でない貫禄とオーラがある人だった。役作りのために髭を伸ばしているんだと、どうしてあの時教えてくれなかったんだろうか。私が演劇を始めたと知って、どうして何も言ってくれなかったんだろうか。

元気かなぁ。


 ある下校中に彼に言われた「お前は生き急いでいる(謎のイケボ)」という言葉ををたまに思い出す。
うん。生き急ぐよ。きっと死ぬまでね。
その前に、また君に会いたいなぁ。

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