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【ショートショート】思い出のズ⚪︎ドコ節 または行列のできるリモコン

 その中華料理屋は、ある歌の一節とともに私の青春の一ページと言えた。

 ♪そっと目配せ 焼き豚を ちょっと多めに2、3枚♪

 赤いチャイナ服を着て、店でウエイトレスとしていた彼女は、歌の通りに私に人知れぬサービスをしてくれていた。
 そんなサービスの一つが、店の表にかかっている電光掲示板だった。
 その店は地下にあり、外からは見えない行列が階段に続くことがあった。
 そこで、待っている客の数を掲示板で表示していたのだが、私が足を向ける時刻には実際の人数より少なめの数字が表示されていたのだ。

 後で、彼女は教えてくれた。
「数字はこのリモコンで出すんだけど、いつも多めに出しておくの。待ち人数が多い方が人気店に見えて行列もできるでしょ?」
「そうなんだ。でも、僕が来る時はいつもちょっと少なめの数字が出てるみたいだけど……」
 彼女は頬をちょっと赤く染めて打ち明けた。
「だって……少なくしといた方が、あなたが来やすいじゃない」

 そんなほのかな思いを残して、いつの間にかその店は無くなったしまった。
 久しぶりに懐かしい街を訪れ、更地となった中華料理屋の後を飽きるまで眺めてから、私は踵を返して帰路についた。

 しょっぱい青春の思い出がある鼻歌を歌いながら

 ♪ズ⚪︎ ズ⚪︎ ズ⚪︎ドコ……♪


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「【行列のできるリモコン】のお題で、【青春の香る】ショートショート」。
本編中の歌詞に似た歌があってもそれは気のせいです。
😁

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