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【ショートショート】なるべく動物園には… 戦略爆撃編

 その二つの国の戦争は、終局を迎えつつあった。
 一方の国の空軍が、その爆撃力にものを言わせて敵国の都市を蹂躙し尽くし、地上軍による占領地域を野火の如く広げていた。

 爆撃の指揮を取る空軍司令官は、次の目標となる準首都とも言える大都市への攻撃計画を練り上げた。
 そこには一つだけ特別な指示が付け加えられていた。

「なるべく動物園には爆弾を投下しないこと」

 攻撃目標である都市には、中心部に世界有数の大動物園があった。
 無類の動物好きでもあった司令官は、幼少時から一度そこを訪れたいと考えており、戦争で潰してしまうにはしのびなかったのだ。
 特に彼は雄々しいライオンを愛していた。
「ライオン舎の付近は爆撃の対象から必ず外すように。ライオンこそ動物園になくてはならぬ動物だ」
 異例とも言える指示だったが、国の上層部はこの方針を動物愛護や文化的な見地から後世の評価にもつながると考え、承認。
 かくして、その都市への空爆は実行に移され、動物園を除くすべての地域が完全な廃墟と化した。

 数ヶ月後…

 進駐軍と共に占領下となった都市を訪れた空軍司令官は、動物園に足を踏み入れ愕然とした。
 ほぼ全ての動物たちは、檻の中で息絶えていた。
 彼が行った徹底的な爆撃は、動物園の関係者も皆殺しにし、当然のことながら餌や物資の補給も断っていた。

 動物園になくてはならない動物はライオンではなかった。

 人間だったのだ。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「なるべく動物園」。
前回に続き、ブラックな結末となってしまいました。
次はもちょっと明るい終わり方に…出来るといーなー。
😭

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