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全国自然博物館の旅⑤北海道大学総合博物館

大学博物館に行かれたことはあるでしょうか。博物館の役目は資料の収集保存と研究と教育であり、大学とはとても相性がいいのです。
今回は、数ある大学博物館の中で、筆者が特に大好きな北大の総合博物館を紹介します。


世界とつながる北海道の学術拠点! ニッポノサウルスに会いに行こう!!

最初に言わせてください。筆者は札幌が大好きです! 有名な博物館や水族館が市内にいくつかありますし、街並みはとてもきれいです。
そんな札幌の市街地に位置する北海道大学総合博物館。そこはまさに、あらゆる学問の最前線です。

豪奢な夜の札幌駅。ここから北大へは徒歩10分ほどで着きます。もちろん博物館が開いている時間は、朝から夕方までです(金曜日のみ夜21時まで開館)。

札幌駅の西口から10分ほど歩けば、北海道大学に到着します。ポプラ並木に彩られた大学構内を進み、博物館へと向かいましょう。

北大のキャンパスは広大です。学内には標識があるので、博物館へは迷わず辿り着けます。
キャンパス内は並木道や水路があり、とても癒されます。札幌市民の憩いの場でもあり、時間の流れがゆったりしているように感じられます。

駅側の門からキャンパスに入り、「総合博物館」と書かれた標識に沿って進みます。5~10分ほど歩くと、いよいよ博物館。

恐竜マニアの皆様に申し上げておきますと、ここではニッポノサウルスと対面することができます。我が国「日本」の名を冠する恐竜との出会いとなると、期待で胸がいっぱいになりますね。

博物館から近い距離に、有名なクラーク像があります。名言「Boys, be ambitious.」は時代を越え、全ての若者に届けられています。

学問の魅力を伝導! これぞ大学博物館

知的好奇心を刺激する各学部の力作展示

医学部や文学部といった分野の展示も盛りだくさんですが、本記事のコンセプトと合わせるため、理学部や水産学部などの自然科学系の展示に絞って紹介します。

本館の展示ボリュームとクオリティは、間違いなく大学博物館としては国内屈指です。これほどの多くの分野の先端研究に触れられる場所はそうそうないので、時間の許す限り、全ての学部の展示をくまなく見ましょう。

一般に公開された大学博物館ですので、来館者を楽しませる展示も充実。ナマケグマくん可愛い!

生き物好きとして目を引いたのは、水産学部で行われているバイオテレメトリーやバイオロギングの技術(野生動物にデータ測定機器を装着して調査する方法)による研究です。動物の生態解明は観察だけでは難しく、中には地球規模の移動を行う種類もいるため、ハイテクかつダイナミックな手法の確立が必要不可欠なのです。

海鳥たちの剥製。彼らの保護や繁殖補助のためには、生態の理解が不可欠です。その研究に大いに役立つのがバイオテレメトリーやバイオロギングなのです。
データロガー。こういった機器を野生動物の体に装着して、移動経路や移動スピードなどの様々なデータを測定します。

動物関係の進路をお考えの方には、獣医学部の展示も、ぜひくまなく見ていただきたいと思います。魚から哺乳類まで様々な動物の骨格標本が立ち並び、それぞれの種族の違いについても詳しく学べます。
コロナ禍での奮闘記のキャプションもあって、いかにして獣医学部が難局を乗り切ったのかがわかります。学びの現場の最前線がわかる、大学ならではの展示ですね。

獣医学部エリアに立ち並ぶ骨格標本。骨からでも力強さが伝わってきます。
コロナ禍での獣医学部の奮闘記。大学教育の現場はかなり大変だったと思われますが、教職員や学生の皆さんの努力で乗り越えられたそうです。

さて、博物館の職務の中で重要なのが、学術標本を作成し保存することです。標本とは、次の時代の研究者に引き継がれる大切な財産です。
本館では、標本の作り方や学術的な意義について学べます。理系文系問わず、多くの学生の方に知っていただきたいですね。

こちらは海藻の標本。北大は海藻分類学の重要な拠点の一つなのです。
採集からラベリングまで、昆虫標本の作成手順を紹介。もちろん、本館には昆虫標本展示がたくさんあります。
こちらは「性が逆転した昆虫」ことトリカエチャタテの標本。メスがオスに性器を挿入するという前代未聞なチャタテムシ……本種の発見により、北大の吉澤和徳准教授はイグ・ノーベル賞を受賞されたそうです。

これらの標本の整理、また博物館の運営の補助は多くのボランティアスタッフが支えています。本館が素晴らしいのはボランティアの方々の活躍もちゃんと来館者に伝えており、博物館という学びの場がたくさんの支えによって成り立っている事実を教えてくれます。

動植物・化石・菌類などの標本の作成や保存には、たくさんのボランティアの方々が関わっています。我々が見ている展示は、研究者・ボランティアスタッフの努力の結晶なのです。

ニッポノサウルスと日本のスター古生物たち

北海道にマンモスがいた事実をご存知でしょうか。
実は、北海道は日本国内で唯一マンモスが生息していた地域なのです。氷河期時代に海水面が低くなったとき、マンモスが大陸から北海道に渡ってきたのです。本館では、マンモスの実物大模型と共に古代北海道に関する資料を見ることができます。

かつて北海道に生息していたマンモスの原寸模型。約4万8000年〜約2万年前、道内をマンモスが闊歩していたのです。

そして、恐竜マニアにとって本館のスターは、我が国の名を冠する植物食恐竜ニッポノサウルスです。発見地の樺太は現在ロシア領となっているため、100%日本の恐竜と呼べるかは疑問ですが、ニッポノサウルスが日本古生物学界の誇りであることは間違いありません。

日本の名を冠したニッポノサウルスの全身骨格。命名者は北大の研究者です。約8000万年前(白亜紀後期)のハドロサウルス類で、この個体はまだ子供だと考えられています。

化石展示エリアで存在感を放つのは、ニッポノサウルスだけではありません。大阪の古生物マニアにはお馴染み(?)のマチカネワニの全身骨格、そしてタルボサウルスや古代ワニ類の頭骨の展示は、かなりの視覚的インパクトがあります。

マチカネワニ。約45万年前の大阪に生息していた古代ワニです。全長7 mもあり、現生のナイルワニやイリエワニを超える大きさです。
中生代の白亜紀前期に生きていた巨大ワニ、サルコスクスの頭骨。アフリカや南アメリカに生息。全長およそ10 mあったと考えられており、恐竜とも戦えるほどの強大な捕食者でした。
白亜紀後期のアジアに生きていた大型肉食恐竜タルボサウルス。噛む力は巨大ワニに迫り、陸上生物最強クラスだったと考えられています。

巨大な恐竜や古代ワニに圧倒されますが、ユニークな哺乳類たちの化石も極めて興味深いです。なんと、北海道からは日本産の大型哺乳類の化石が出土しています。見つかった種類は、バイソン、セイウチ、奇獣デスモスチルス類など様々です。
恐竜時代も、その後の哺乳類の時代も、北海道は大型動物があふれる生命の楽園だったのです。

当別町に発見されたトウベツアカマツセイウチの化石。約1000万年前の北海道に生息していた古代セイウチです。
カバのような奇獣アショロア。約2800万年前の北海道の海辺に生きていたデスモスチルス類(束柱類)です。

北海道の古生物学は、ものすごい勢いで躍進しているように見受けられます。2019年には新種の恐竜カムイサウルスが記載され、一大ニュースとなりました。さらに近年では、本館に所蔵されていた標本がプリオサウルス類の首長竜であると判明しています。
古生物学者を志す学生の皆様は、ぜひ北大の博物への来館をオススメします。驚異に満ちた化石との出会いは、進路選択のヒントになると思います。

化石の産地として世界的にも注目される北海道。
この北の大地から、きっとたくさんの古生物学の権威が生まれることでしょう。

北海道産のプリオサウルス類の化石。約9000万年前の海では、生態系の上位に立っていたと考えられます。

北海道大学総合博物館 総合レビュー

所在地:北海道札幌市北区北10条西8

強み:各学部の研究内容と特色を強く表した濃密な展示、学問の魅力を伝える教育性あふれるキャプション、質・量共に圧倒的な学術標本の展示

アクセス面:北大まではJR札幌駅から徒歩10分。そこからキャンパス内の美しい並木道を歩けば、容易に博物館に着きます。札幌市内の駐車料金は高いので、車で行くよりも、やはりJR札幌駅から徒歩がオススメです。

まさに、大学博物館の理念を体現する素晴らしい学術施設! 万人に素敵な学びを与えてくれる博物館であり、筆者は特に高校生の方に来館してほしいと思います。各学部の展示では国内先端の研究成果を見ることができるので、進路を決めかねている青少年には大きな助けとなるはずです。北大に入学するのかどうかは別として、興味のある学問と必ず出会えると思います。
標本の質と量は素晴らしく、関心のある人なら観覧に丸1日かかるかもしれません。膨大な展示量でありながら、大きなキャプションと合わせて、とても見やすく、なおかつわかりやすくまとめられています。恐竜やマンモスなど大型古生物の展示もあり、迫力的な見応えも十二分にあります。

また、北大では著名な研究者が自然科学の講演を行うことも多々あります。ですので、講演日に来館して、博物館とセットで学術的な1日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

博物館を観覧したら、北大マルシェCafé&Laboでのんびり軽食をとるのもいいと思います。お店のホームページ上から席の予約が可能です。

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