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大相撲夏場所総括

 大相撲夏場所は盛況のうちに28日、幕を閉じた。今回は場所前に上げた展望に対する回答として総括を記したい。なお、展望同様、幕内、十両、幕下上位(15枚目以内)に分けて述べていく。

幕内

 幕内では、横綱・照ノ富士が復活の優勝を遂げた。膝の手術から3場所全休というブランクがあった中での優勝は見事の一言に尽きる。
 特筆すべきは内容の良さだ。組めば強い、押し相撲には弱いと言われている横綱であるが、今場所は引っ張り込むように相手を自分の懐に引き込む相撲が多かった。廻しを取っても良し、極めても良し。非常に力強く、万全の四つ相撲を展開した。
 元々、膝に爆弾を抱えている横綱。毎場所そうかもしれないが、今場所も決して万全の体ではなかったはず。それでもなお、力強い横綱相撲で賜杯を掴んだその姿は、非常に頼もしく輝いていた。やはり横綱は強い。そう思わせてくれる戦いぶりであった。
 大関昇進をかけた霧馬山は、11勝をあげて場所後の大関昇進をほぼ確実なものとした。序盤こそ緊張感が見られたが、段々と安定感ある取り口を見せ、大関・貴景勝相手にも万全の相撲を見せた。
 元々足腰の強い力士。稽古量の多さでも知られており、不断の努力が実を結んだということだろう。
 ちなみに、過去大関に昇進したモンゴル出身力士は5人いるが、その全てが横綱に昇進している。果たして、霧馬山はどうなるだろうか。
 また、他の3人の関脇も全員二桁勝利をあげており、来場所は3人の関脇が大関昇進をかけた場所となる。白熱の出世争いから目が離せない。
 幕内に復帰した朝乃山は、12勝をあげて堂々の準優勝であった。とはいえ、元大関が幕内下位でこのぐらいの星をあげるのは当然という見方が大勢を占めるだろう。三役相手には、立ち会いの感覚などにブランクを感じさせた。大関復帰に向けて、ここからが正念場となりそうだ。

十両

 十両では、筆頭の両力士に注目をしていたが、見事期待に応えてくれた。
 東筆頭の豪ノ山は、14勝1敗の好成績で十両優勝。新入幕を確実なものとした。
 先場所、逸ノ城に唯一黒星をつけた勢いそのままに、今場所も初日から9連勝。10日目に熱海富士に敗れた際に脚を痛めたような仕草を見せたものの、翌日の落合戦を制すると更に勢いに乗った。
 優勝決定戦の落合戦は見事の一言。完璧な押し相撲で落合に何もさせなかった。
 西筆頭の湘南乃海も11勝4敗と堂々の成績をあげた。こちらも来場所の新入幕は確実だろう。
 幕下では苦労したが、十両昇進後は3場所連続の勝ち越し。193センチの大柄な体を活かして、四つでも押しでもどんどん前に出て欲しい。前に出る相撲を磨き続ければ、すぐに三役にも昇進するはずだ。
 そして、忘れてはならないのが8枚目の両力士だ。
 東の熱海富士は、関取昇進後自己最多の13勝をあげた。元々メンタルの弱さが指摘されていたが、不安を払拭するかのような活躍ぶりで、最後まで優勝争いに加わった。力のある力士であることは誰もが認めている。後は、精神面だけだったのだが、どうやら一皮むけてくれたようだ。
 西の落合も自己最多の14勝で、堂々の優勝同点だ。初日から左肩に大きなテーピングがあり不安視されたが、そんなものは杞憂に過ぎなかった。
 落ち着いた取り組みぶりは、本当に19歳なのかと目を疑うほど。残念ながら優勝には届かなかったが、とても肩を痛めている力士の取り組みとは思えなかった。
 なんでも場所前には、師匠である宮城野親方(元横綱・白鵬)から「12勝を目指せ」と言われていたようだ。師匠が十両2場所目で同じ番付で12勝をあげて新入幕を決めたからだ。蓋を開ければ、師匠を超える14勝。いやはや将来が恐ろしい。
 ところで、新十両の2人は明暗が分かれる形となった。
 藤青雲は14日目に勝ち越しを決め、9勝6敗で場所を終えた。明治大学の後輩にあたる藤青雲。初日に明大の化粧まわしを見たときは大いに感動し、全身が震え上がったものだ。よくがんばりました。本当にありがとう。幕内目指して精進してほしい。
 一方、時疾風は中盤まで白星先行だったものの、終盤でまさかの5連敗を喫して負け越してしまった。来場所は幕下からの出直しだろう。もっと体が大きくなれば、立ち会いのパワーも上がって得意の左四つになる形も増えるはず。相手の研究を上回る力をつけて戻ってきてほしいものだ。

幕下上位

 幕下上位では紫雷の再十両と、川副・獅司の新十両がほぼ決定的だ。十両の枠はもう1つ空きそうなので、おそらく千代の海が久しぶりの十両復帰を決めるのではないかと見ている。こればかりは水曜日の番付編成会議を待つしかない。
 それにしても、獅司はすごかった。今までは恵まれた体格はあれど相撲の粗さが目についていた。それが、今場所は見違えるように強い。正攻法の相撲を覚えてきた証左だろう。
 このままいけば、ウクライナからは初めての関取。戦火に苦しむ母国と家族にようやく良い報告ができる。元々素質は誰もが認めるところ。今場所途中で引退した栃ノ心のような力士に成長してほしい次第だ。
 また、10枚目格付け出しデビューの大の里は6勝1敗で初土俵を終えた。初日は立ち会いで足が出ず、攻め手も遅かったが、最初の相撲で敗れたことで緊張から解き放たれたのだろう。残りの6番は圧倒的な圧力で相手を押し込み続けた。
 またとんでもない力士が出てきたものである。九州場所には十両の番付に名前が載っていることだろう。力が違いすぎる。
 更に、同じ二所ノ関部屋の高橋も力強い相撲が際立っていた。この2人の出世争いも実に面白い。元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方の指導が実を結び始めているようだ。
 そして、忘れてはならないのが、今場所幕下優勝の木竜皇。宇良に似ていることで有名な立浪部屋の20歳が、今場所初めての各段優勝を掴み取った。
 スピード出世で幕下まで駆け上がってきた頃から注目していた力士の1人。小柄だが気持ちの良い押し相撲を見せてくれる。日々の努力が1つ実ったようだ。本当におめでとう。
 来場所は関取昇進をかける場所になる。お父さんの元幕内・時津海さんもLINEなどで応援してくれているそうだ。立ち会いの強さとスピードを磨いてほしい。
 それでなくとも、来場所の5枚目以内は今場所に匹敵するレベルの群雄割拠ぶりとなってきそうだ。毎場所幕下上位は盛り上がるが、今年の名古屋も熱くしてくれそうな予感がする。

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