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イタリア人こそがいつも私を救ってくれるのだ

異国での仕事探しは長く苦しい道のりである。
昨日はトルコ人に無料でこき使われた挙句に恐ろしく低い日給でこれからも働かないかと言われすっかり落ち込んでしまった。

ここUKの飲食店全般では本格的に働き始める前にTrialという2-3時間のタダ働きをする必要があり、私は正直にいうとこれがとても嫌いである。

お互いを見極めるにはいいシステムだとは思うが、せめて交通費とまかないくらいくれてもいいのではないかと思う。
多くの場合Trial前に給料をはっきりと教えてくれないので、(トライアルの後に話し合って決めよう、みたいなことを言われる)しっかり3時間働き疲れた後に賃金を提示されガッカリ、やめておきますなんてことになりそしてまた他のお店に面接、Trial、やめときますの繰り返しで私はすっかり疲れてなんだかほとんど悲しい気分であった。

適当なレストランで日銭を得ながら映像関係の仕事を探そうと思っていたのにその適当なレストランを探すのにこんなに時間がかかるとは思わなかった。

すっかりふて腐れた気分の私はリビングで同じく無職のルームメイトたちとスイカをかじっていた。
もうなんか色々嫌になって来ちゃったな、なんて愚痴をこぼしていたら、とある小さなイタリアンレストランから電話をもらう。

応募したこともすっかり忘れていたので改めてWebsiteをチェックする、それはトレーラーのような小屋を改装し外にイスを並べたなんとも愛らしいレストランで、メニューはスパゲティ1択の潔い店であった。
オーナー夫婦と数人のアルバイトだけでやっている店で、しかもTrialなのにちゃんと時給がでるということなのでもちろん飛んでいく。

バスに1時間揺られ南へ――降りてから路地裏をくねくね進んでいくと、ちょっとした広場にでる。

広場の隅に、そのレストランはひっそりとあった。

ピンクや緑の可愛い電球に照らされた小さなキッチン、
バジルやその他ハーブが雑多に植えてある小さな庭、
そして オス、じゃあエプロンつけてそこのテーブル片付けといて、と愛想笑いゼロのオーナー・フランコ――私はすぐに、ああこの人とはやっていけるなと思った。

働き始めて1時間もしないうちに、
私はもうずっとここにいたような、
この人たちを昔から知っているような、
そんなふしぎな気分になっていた。
ウェイトレスのニーナが「なんだかあなたすごくここに合っているね」と真顔でうなづいている。

私もそう思う、
どうしてか私はイタリア人たちの中でガーリックとオリーブオイルの匂いに包まれているとき、ひどく懐かしいきもちになるのである。

思えば、カナダにいた時も労働環境の悪いレストランでクタクタになっていた私に「うちに来い」と救い出してくれたのはイタリア人であった。
ニューヨークにいた時も、寂しくてボロボロになっていた私に大丈夫か?と声をかけてくれたのはイタリア人であった。

イタリア人はきっと、私の救世主なのかもしれない。


夜10時すぎに店を終えると、オーナーのフランコは私にたくさんトマトスパゲッテイを作ってくれて、そっと冷えた瓶ビールを添えて「お疲れ様、好きなだけ食えよ」と言って皿洗い場に戻っていった。

私はほとんど泣きっ面で、そのスパゲッティにむしゃぶりついていた。


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