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「SAUNA BU」のちょっと不思議なクリエイティブの狙い~カチッとしていない、ゆるさのあるデザインに~

こんにちは!

突然ですが、ホームページやグッズのデザインとして展開している「SAUNA BU」のキービジュアル、少し不思議に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?何か物体が高速で動いているようなイメージ。これは一体何を意味するのでしょうか?

今回のnoteでは、「SAUNA BU」のアートディレクションを担当した、コクヨの佐々木拓のインタビューをお届けします。佐々木はこれまで、コクヨの直営店「THINK OF THINGS」や、パブリックエリアを併設するコクヨの品川オフィス「THE CAMPUS」のアートディレクションやデザインを手がけてきました。今回サウナという今までとはまた違う領域に取り組むにあたり、ブーム真っただ中のサウナやコクヨとして取り組む意味をどう捉え、表現していったのかを聞きました。



今のサウナブームとは少し違う路線で

―社内の部活動から派生した、緩やかに集うプロジェクトとお聞きしていますが、佐々木さんはどのような経緯で参加されましたか?

サウナ部部長のカワちゃんとは別のプロジェクトで関わっていました。「THE CAMPUS FLATS」というコクヨの社員寮をリノベーションして集合住宅にするプロジェクトで、アートディレクションを担当しました。施設内にサウナを作る計画もあり、実はそこのサウナグッズも企画していたんです。次第に他の部門で進んでいたポーチの話と合わさり、カワちゃんとコクヨのライフスタイルブランドとして展開しようと話が膨らんでいきました。。

―佐々木さん自身、サウナにはどんな印象を持っていましたか?

実は結構好きで通っています。以前仕事で訪れた熊本で、サウナ好きには有名な湯らっくすにたまたま行ったのがきっかけでハマりました。

―水風呂が滝のように上から落ちてくるところですよね!

そうです(笑)。それから日常的にサウナに通うようになりました。カワちゃんともたまに一緒に行きますが、大勢で行動するのはあまり得意ではないので、サウナ部の活動にはあまり参加できていません。自分が行くようになって、人によってサウナを楽しむモチベーションやテンションも多様だと実感しています。

―そのあたりの感覚も、今回のクリエイティブに投影されていますか?

そうですね。どうしても今のサウナブームは元気でノリの良い印象が先行していて、それはもちろん一つの文化だと思いますが、自分の体験から、もう少し違う路線のテイストがあっても良いのではないかと考えました。あとは、コクヨとしてサウナにアプローチするにあたり、コクヨの事業領域の「働く」「暮らす」の延長線上で検討していたので、サウナ好きに刺さるだけではない、多くの人のライフスタイルに取り入れやすいニュートラルさも意識しました。

カチッとしていないビジュアルにしたかった

―「SAUNA BU」のキービジュアルには意表を突かれました

SAUNAのSの輪っかがモチーフです。そもそもこのプロジェクトは社内の部活動から派生していて、「サウナが好き」という熱い気持ちを持った人たちの集まりでありながら、自発性に支えられたゆるやかなコミュニティです。また先ほどもお話したように、私は一人や少人数でサウナに行くのが好きですし、コクヨサウナ部の中には、大勢でワイワイ楽しんでいる人たちもいる。楽しみ方は人それぞれで、本来マイペースに楽しめるものである。そうしたサウナやコクヨサウナ部の持つ、良い意味での“ゆるさ”や“ふわっとした”感じを表現できないかと考え、あまりカチッとしていないビジュアルを検討していきました。

―“ゆるさ”というキーワードいいですね。サウナでととのった時のリラックスした感覚ともつながりそうです。

そうですね。あとは、“ふわっとした”というところでは、サウナや銭湯の蒸気や湯気ともつながるな、と。水蒸気が出ているような質感をグラフィックに付加できたら面白いと思い、実はこのイメージ、3Dソフトで設計しています。Sの回転体に水蒸気が集まり、そこに光が当たるとどう見えるかを実際にシミュレーションして造形しました。一見ラフなビジュアル表現に見えると思いますが、モヤモヤした感じやミストのような質感を、単にふわっと描くのではなく、何か新しい見え方にしていきたいという思いで、あえて3Dで精緻につくりあげる手法にチャレンジしてみました。

―それが浮遊感のある不思議な表現につながっているんですね。一方「SAUNA BU」のロゴはいたってシンプルな書体です。

実はSの輪のビジュアルは、今後柔軟に変えてもよいと考えています。ブランドの次の展開の際には、全然違うビジュアルにしようかと。サウナがさまざまな価値観を受け入れるように、デザインにもそんな包容力があってもいいと思っています。なのでロゴはシンプルに、ビジュアルの周りを四角い枠で囲んでいるのは、色々なデザインをはめるフレームを用意したような意図です。

―デザインの要素としては、もう一つアクリルプレートのようなかわいらしいモチーフがありますね。

キービジュアルをつくりながら、一方でサウナポーチの商品開発が進んでいました。試作が上がってきてデザイン面を検討した際に、「SAUNA BU」のロゴを本体に入れるには、ロゴがシンプルすぎるし、キービジュアルもポーチには過剰だと思いました。そこで本体は無地にして、代わりに銭湯のロッカーキーのアクリルプレートをイメージしたキーホルダーを取り付けてみました。それがとてもかわいかったので、一緒に展開するサウナハットやタオルにも刺繍したり、同じデザインでステッカーもつくりました。

―キービジュアルの方向性とはまた全然違って、どこかレトロな趣きがありますね

はい。昔からの銭湯のイメージをパロディしたようなアプローチで、結果的に、今のサウナブームにある楽しいイメージも取り入れたかたちになりました。キービジュアルは、あえて従来のサウナ界隈のテイストとは離れたアプローチを取っていますが、このプレートのようなデザインも加わることで、全体のバランスがうまく取れたんじゃないかと思っています。

”好きな人が集まってつくる”というブランディング

―「SAUNA BU」のプロジェクト、関わる全員がサウナ好きという特徴があるようですが、何か他のプロジェクトとの違いを感じましたか?

商品の撮影を、大崎の金春湯をお借りして行いました。カメラマンもスタイリストも、みんなサウナ好きの方に関わっていただき、サウナ好きが集まってつくる、というコンセプトは徹底しました(笑)。好きな人が集まってつくっていく過程は、仕事のミッションで集まるのとはまた違う楽しさや、和気あいあいとした活発さが生まれます。それこそが「SAUNA BU」のブランディングにすごく重要な役割を果たしているとも言えるかもしれません。これを内部で感じているだけでなく、商品やブランドのイメージから、そういった雰囲気がにじみ出ていくと良いなと思います。

―今後の展開で考えていることがあれば教えてください

コクヨは文具だけでなく家具のメーカーでもあるので、ぜひととのい椅子をつくりたいですね!コクヨに「ing」という座面が360度に揺れ動く、座りながらも自然と体が動かせるオフィスチェアがあります。座っていて浮遊感があり、この技術を活用したら、現行するととのいチェアを超える椅子できるんじゃないかと勝手に目論んでいます(笑)。今回のグッズでも、コクヨの耐水性の測量野帳を、サウナでも使えるノートとして展開しています。技術のあるメーカーが本気で取り組むサウナグッズって、そこまでやるかという面白さが生まれて、なかなか他では真似できない独自の展開になるのではないかと思っています。


「SAUNA BU」として実現していきたいこと、コクヨとしてのアプローチ、昨今のサウナブームとのバランスなど、さまざまな狙いを考慮しながら、表現としても新しい見え方にこだわっていった結果、今回のデザインにたどりつきました。サウナの持つ懐の深さのように、「SAUNA BU」のクリエイティブも柔軟に変化していくかもしれませんので、ぜひそんな観点でも、ブランドの展開を楽しんでいただければ嬉しいです!