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Judas Priest/Invincible Shieldは憲法

一口感想:「収録曲だけでライブしても問題ないレベル」

 Judas Priestの新譜「Invincible Shield」がついに発売された。
先行公開曲の時点で期待は高まっていたが、アルバムとしての完成度はそのハードルを軽々超えてきた。

 ツイッターに放流するだけでは我慢出来ないので、感情の赴くままに感想文を書き散らすぞ!Judas Priest好きは電話してこい。


取り戻した黄金比


 Tr.1「Panic Attack」からして、攻めまくりだ。70歳を超えた完全無欠のおじいちゃんがやれるアグレッシブさじゃないし、そんな予防線や枕抜きにしてもヘヴィ・メタルとして最高の出来になってる。復帰後の武道館ライブでのロブのヨボヨボヨロヨロな姿をDVDで見たときはショックを受けたけど、順調に若返っていて何より。

 そして今作、まずギターが非常に充実してる。前作「Firepower」もキレの良い作品だったけど、今作はそれを軽く上回ってる。

 グレン、KK、ハルフォードという黄金トリオによるソングライティングは長Judas Priestのキモだった。KK脱退後はリッチー・フォークナーがその穴を埋めるわけだが、少しアグレッシブさに欠けるように感じていた。

 FirepowerとKK's Priestと並べて聞いたとき、曲の練り込みや印象的な歌メロという面はグレンとロブが、鋭いリフやアグレッシブさはKKの貢献が大きかったのではないか、という感想を抱いた。どちらの作品もにJudas Priestらしさがあるけど、どちらも何かを欠いている、という印象が拭えなかった。

 それで今作はどうかと言われると、全部のバランスが整っているんだよね。

 スコットのドラミングは未だに衰えていないし、イアンのベース(今回はちゃんと弾いてるよね?)はいつも通り目立たないが自我を殺して曲を支えているし、珍しく存在感を放つパートがちょくちょくある。

 ギターも演奏はソリッドだし、リフはシンプルだけど考え抜かれてる。ドカドカ暴れるスコットのドラムに負けじとヘヴィなリフがどんどんやってくる。なんだこれは。

 多分グレンは病状的に作曲のみの関わりで、演奏はほぼすべてリッチーによるものだと思うんだけど、完璧にシンクロする左右のリズムギターの見事なキレ、様々な表情を見せるリードギターと、完全に脂の乗ったギターを聴かせてくれる。
 彼は単なるベテランバンドの老後を支える若い後釜メンバーなんかじゃなく、現在進行系で進歩を続けるバンドの重要メンバーなんだよね。ライブでの存在感、かっこよさもギターヒーローたる資格が充分だったしね。

 そして御年72歳、名実ともにおじいちゃんと化したメタル・ゴッド=ロブ・ハルフォードだけど…

すごすぎ(語彙力即死)

 ハルフォードといえばPainkillerで聴かせたブチギレハイトーンシャウト、という「実際にはPainkillerみたいなアルバムはPainkillerしか無いし、なんならPainkillerみたいな曲はPainkillerの中でもPainkillerしかねぇよ」と言い返したいパブリックイメージがあるけど、実際にはJudas Priest復帰後のハルフォードは年々中音域での表現力を磨きに磨いている。

 これは妄言なんですが、ロブの歌声は「Priest」のバンド名の通り、聖職者の言葉のような厳かさと、メタル・ゴッドの二つ名の通り、人間以上の存在が紡ぐ声のような神聖さを持つに至ったのだよ!!!!

 中音域での声の深さ、歪みが極みに達する一方、ハイトーンシャウトも要所要所で往年のパワフルさを伴って飛び出す。Firepower来日のときも思ったけど、復帰後の武道館は絶不調な時期で、その後は上り調子としか思えない。

 これだけのアルバム数があると、当然ながら外せない名曲も多い。
 でも今作はそれらの過去の名作にも並ぶパワーがある。
 このアルバムを全曲やるライブでもソールドアウトするレベルだよ。

 全編通して凄まじいパフォーマンスを繰り広げていて、本当に脱帽かつ嬉しい。ヘヴィ・メタルに出会うきっかけとなったバンドが、デビュー50周年を超えてなお健在かつ新たな試みを詰めた作品を作り出している。

 ベテラン超えてレジェンド枠なのに、常に最前線を走り続ける姿に、我々赤ちゃんメタルバンドは敬意を払い、学び、続かなくてはならないのだ…。

変化を続けるバンドとしての在り方

 Judas Priestは伝説のメタルバンドであると同時に、過去作の殆どで毎回スタイルがちょっとずつ違う変なロックバンドでもある(ちなみに、自分がやっているバンド「The Art of Mankind」はその逆で、同じ方向からブレず、「深化」させていくというスタンス)。

 だから彼らのアルバムを評価するときは、個人的に「アルバム単体としての評価」と、「変化を続けるバンドとしての評価」の2つの軸がある。

 前作のFirepowerは素晴らしいアルバムだったが、後者の評価軸で見ると「挑戦的な姿勢が抑えられている」と感じた。パワフルだけどちょっとまとまり過ぎかな?という感じだ。
 勿論、それがアルバム単体の評価を下げたりはしない。我ながら面倒なファンだと思うけど、こういう評価軸を持ってる人は多いはずだ。なぜならJudas Priestを深く愛する人はそこまで聴き込んでると思うから。
まぁ流石に活動歴が長すぎるし、本人たちに可能なレベルで色々試しきった感はあるから、後者のみで論じることは無いけど。

 それで今作はどうかというと、Judas Priestのヘヴィ・メタルというブレない中心軸に、様々な新機軸を盛り込んだ意欲作かつ傑作だと思う。

 Tr.5「Gates Of Hell」のサビなんかは個人的にかなり印象的だ。
明るめの歌メロと気の利いたキメの絡みは新鮮なのに、どこか古いPriestの曲を思い起こさせるような雰囲気もある。何故かPrivate Propertyみを感じるのだ…。突然Turboの話したくなっちゃうな…。

 Tr.6「As God Is My Witness」はスコット大暴れのツーバス踏みまくりソングはHellriderみがあるけど、より攻撃的だ。こういった曲においても歌メロがおろそかになることはなく、印象的なメロディが曲を支配している。

 Tr.9「Escape From Reality」なんかはスローテンポのヘヴィな曲だが、そこにいっそ詠唱的とも言えるロブの歌が乗っておかしくなっちゃいそう!
かと思えばTr.10「Sons Of Thunder」ではサビでタイトルをシンガロングする元気なヘヴィ・メタルを出してくる。なんだこの中学2年生みたいなタイトルは。もっとやって欲しい。

 今までの歴史の延長線にありながら、様々な試みが詰め込まれたJudas Priestの最新型ヘヴィ・メタルを浴びることができる。そんな幸せが他にあるか?

妄言パート

 Rob Halfordが一度Judas Priestを離れ、紆余曲折の末に自身のソロバンドHalfordとしてヘヴィ・メタルに戻り、1stアルバム「Resurrection」を発表したのが2000年。
 この作品でRobが紡いだ歌詞は、重たい覚悟を感じさせる内容が多かった。表題曲のResurrectionからしてそうだ。

この呪われた穴蔵から脱出するため
魂の中を奥へと掘り進む
心の中から悪魔を追い出し
真実は始めから共に在ったと知った
(和訳:俺)

 この歌いだしから始まるResurrectionは、完全にヘヴィ・メタルを作り、歌い、守り、未来へ繋げるという「使命」を自覚し、それに命を捧げるのだという「覚悟」なんだよ…。わかるか?わからないなら帰れ。

 それから約四半世紀、ロブ・ハルフォードは、Judas Priestは、未だにヘヴィ・メタルを示し続けている。

 ロブが抱いた「覚悟」は今も彼の魂の中で燃えており、その発露がブックレットの冒頭に刻まれている。
 その内容は完全に憲法だ。ヘヴィ・メタル憲法。世界初の憲法はマグナ・カルタではなく、時空を超えたINVINCIBLE SHIELDブックレット冒頭です。
 ブックレットを読めないストリーミングサービスではなく、現物を買って読まなくてはならない類の重要文書なので、皆さん確認するように。
必ずテストに出します。


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