おとなしい子は誰にとって良い子なのか

"Verdens bedste team" af Lilja Scherfig, Lea Hebsgaard Andersen 2016 Jensen & Dalgaard 「世界一のチーム」リリアン・シャーフィ作 レア・ヘプスゴー絵 (絵本)

考えさせられる作品。おとなしく本を読んだり聞き分けがとても良い姉と、じっとしていられない弟。父親は息子のあまりのはちゃめちゃぶりに常にキレている。ある日、限界を感じた父親は、病院からある薬をもらって帰ってくる。薬を飲んだ弟は、その日から様子が激変。親の言いつけを守り、手伝いをし、おとなしい子となってしまった。親たちは大喜び。だがそんな様子に姉は悲しみ、薬をトイレに流してしまう。

弟がむちゃくちゃな様子はわが家の子どもたちにもあるあるなので、キレている親の様子も含めて、全くリアルで普通に読み進めたものの、親が薬をもらって帰ってきてから弟くんの激変ぶりに「ちょっとこれどうなるんだろう」と一抹の不安を感じながら読み続けた。本の中でお姉ちゃんが「いつものHasse(弟の名前)に戻りたいと思わないの?」と悲しく問いかけた時の弟くんの「いいの。パパとママはこういうぼくが好きだから」というセリフが泣かせる。悲しいかな、子どももわかっているんですよね、親が子どもにどうあってほしいか、そしてそれができない自分がだめだっていうことを。

ADHDやアスペルガーなど様々な診断がされるようになり、症状に合わせた薬や特別学級や教育法が見いだされ、多様であることをオープンに受け入れる風潮はきっとデンマークだけではなく世界あちこちで進んでいるんだと思う。とはいえセンシティブな話題ではあると思うので、作者がこのテーマを、そして薬で子どもの様子を変えてしまうというプロットをドーンと正面から扱うのは思い切ったなぁという印象。デンマークは、どんなセンシティブな話題でもタブー化せずにオープンにすること、そして話題にすることの重要性を説くことが多いけれど、この本も同じなのかもしれない。子どもが読むのと大人が読むのとでは感じるものがちがうのではないかな。とても考えさせられる作品。


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