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"The Little Book of Lykke"を読んで- デンマーク人の幸福感はどこから来るのか

"The little book of Lykke" を読んだ。デンマークのヒュッゲについての本の第二弾であるこの作品は、外国人向けにデンマークに暮らす著者が英語で、デンマーク人の幸福感について書いたもの。個人的に、デンマーク人の幸福感の高さがどのように解明されているのかに興味があったので読んでみた。Hyggeの本に続き、いずれ日本語にも翻訳されるかもしれない。

デンマークは幸せの国として常に様々な調査で上位にランクインする国だが、それは福祉制度や大きな政府、民度の高さや男女平等などから説明されることが多い。デンマークで「幸福研究所」を主宰しているこの本の著者は、そういった外的要因からではなく、人々の主観に焦点を当て、なぜデンマーク人が幸福を感じやすいかを、6つの要素から説明している。

幸福感というのは主観的なものだと主張する著者は、
1.人々のつながり
2.お金
3.健康
4.自由
5.信頼
6.やさしさ
という6つのキーワードで、デンマーク人の幸福感を説明している。

1.人々のつながり
英語ではTogetherness というタイトルで、デンマークに昔からある共同生活(Bofællesskab)の例などを用い、著者は幸福感を感じる人は、困ったときに頼れる人の存在があることを指摘。そして「人々に楽しかった時の思い出をたずねると、ほとんどの場合、そこに他者の存在がある」ことから、だれかと共に過ごす時間があることが、幸福感につながるとしている。

2.お金
貧困が不幸の原因であることは確かだが、お金が仮に無限にあったとしても、物を購入することで幸福感を満たすことには限界があると著者は述べている。そして、高価なものを買うことは、他人に対して自分の裕福さを示す効果はあるが、それは激しい競争に参加しているだけで、次々に目標が上がっていき幸福感にはつながらないという。つまり、お金=幸福ではないというのが著者の立場だ。幸せはお金で買うことはできず、消費は幸せには直結しないという。そして、デンマーク人の幸福感が高い理由のひとつとして、お金の有無にかかわらず、人々がたどり着ける幸せが多いことを挙げている。それは例えば、ピクニックやポットラックパーティ、美術館やプールに足を運ぶこと、ボードゲームをするなど、お金をかけずとも、人と共に楽しむ時間をもつことである。

そしてもう一つ、デンマーク人の幸福感の高さにつながる習慣は、楽しい計画を立て、それを楽しみに待つ時間を持つことだという。ここを読んだとき、私はなぜデンマーク人(に限らず北欧の人々)が半年以上前から休暇の予定を立てるのかがよく分かった。例えば今北欧は夏休み真っ盛りだが、休暇から戻ってくるとすぐに、半年後の冬休みの行先を決めてチケットを購入する人も多い。来年の夏の予定を立て始める人さえいる。こうすれば、次の休暇までの時間を長い間楽しみに、わくわく過ごせるわけだ。
著者は、お金は使うなら物にではなく、体験に使うのが幸福を感じる秘訣だと指摘している。休暇の予定を立てることもその一つだが、ずっと、のちの記憶に残る体験にお金を使うことも、幸福を感じるおかねの使い方だと指摘している。

3.健康
この章では、デンマーク人の日常生活でなくてはならない自転車について述べている。自転車が幸福感につながる理由について、著者は

・身体を動かすことで心地よい運動になる
・自転車で通勤できる人が多い=通勤時間が短くて済む
・自転車道路などのインフラがよく整備されていて乗りやすい

ことを挙げている。
Hyggeにつきもののちょっとしたおやつは、糖分の取りすぎなど、健康とは必ずしもイコールではなく、幸福にはつながらないが、その分デンマーク人、特に都市部に暮らすデンマーク人は自転車に乗ることで、他のヨーロッパの人々より多くの時間を運動に費やしているという。「10人中9人が自転車を所有している」「コペンハーゲンには車の5倍自転車がある」「63%の国会議員が自転車通勤している」「自転車に乗る人口の75%が一年を通して自転車に乗っている」など、本当に多くの人々が自転車を所有し、移動手段として使っている。
これができるのは、自転車に乗りやすい環境があることも大きな要素だ。コペンハーゲン市は過去10年間で46㎞の自転車道路を整備し、それに伴って自転車を利用する人々もさらに増加。2025年までには、市内の通勤者の50%が自転車通勤ができるようにすることが目標だ。こういった公共インフラの整備は、人々が貧富の差にかかわらず利用できるもので、誰しもがそのメリットを感じることができる。これも幸福感につながるのだという。

健康に関してさらに著者は、自然と近い生活を送ることも幸福感につながるとしている。森林浴など、森の中できれいな空気や景色の中に身を置くことも、おかねをかけずに幸福感を感じる方法のひとつ。デンマーク人も森に散歩に行くことや、週末や休暇の度にサマーハウスにでかけ(て何もしない)のも、幸福感につながっているのかもしれない。

4.自由
これはよく言われるワークライフバランスなど、自分の生活の舵取りを自分でできる自由があることだ。デンマークは、ワークライフバランスが非常に良いといわれている。始業・終業時間を自分で決められたり、自宅勤務もしやすく、そして年間5~6週間の休暇を完全に消化する。自分の仕事とプライベートの時間を自分でコントロールできる自由は、幸福感につながるということだ。
著者はまた、子どもがいる人々についてもこの自由が得られることが、幸福感につながると指摘する。著者の引用するいくつかの調査によると、子どもがいる人はいない人に比べて幸福感が低い傾向にあるが、そのマイナス部分を補えるようなサポートがたくさんあればあるほど、子どもがいる人々の幸福感も上がるのだという。例えば、子どもがいる人々の幸福感が最も高いポルトガルでは、祖父母が日常的に非常に多くの時間を孫の世話にあてているという。子どもがいても、いや、いるからこそ、自分の自由になる時間は少なくなるわけで、その時間が少しでも戻ってきたら幸福感を感じるのは、子育て中の人にはとてもよく理解できるのではないだろうか。

自由の中には、自営業をすることで得られる自由も挙げられる。休みや給料は減るかもしれないが、仕事内容のすべてに自分の意志が反映され、仕事と自分の一体感が得られ、自分の情熱を追求できるのは、自営業がもたらす自由であり、幸福を感じる理由だと著者はいう。

5.信頼
人々の社会への信頼感が高いのもデンマークの特徴である。デンマークの教育で重視されるのはEmpathy, 共感力。そして子どもたちはグループワークを通し、互いに協力することを学ぶ。社会性、子ども向けの言葉に置き換えると、良い友達であることも学校で学ぶ重要なことの一つだ。子どもを競争させることでは、共感力は育たないと著者はいう。そして、共感力や協力する力を育むとともに、「成功」というのは一方が勝者となれば他方が敗者となるゼロサムゲームではない、ということを理解することも重要だと指摘する。子どもの頃からこのような考え方で育つと、幸せとは、競争を通して成功を勝ち取り手に入れるものだ、とは考えないだろう。それもデンマーク人の価値観として、幸福を感じやすい要素なのかもしれない。

信頼は、働く人々においても重要な要素だ。信頼の反対は管理や監視であり、こういったことが日常的となると人々は不信感や競争心、憤りなどを感じやすくなるという。そしてこれらは幸福感にはつながらない。

不公平を感じることも、幸福感にはつながらないと著者はいう。たとえば、飛行機の搭乗時にファーストクラスを見た後にエコノミークラスの席に着くと、不公平であることを見せつけられるので、Air rageと呼ばれる機内での迷惑行為を起こしやすいという例を示しながら、著者は不公平を感じることは、人々に疎外感や不安、怒りを感じやすくさせるのだという。(ということは、贅沢な暮らしをしている人々を追うようなテレビ番組を見ていては、幸福感は感じないということか)。そして不公平を感じ続けると、人は共感力や信頼感も弱くなり、身体的、精神的な健康にも悪影響を及ぼしたり、暴力的にもなると指摘している。

6.やさしさ
これはデンマークに限らず、人として生きる上で国や文化を超えて共通して語られていることだ。つまり、人に親切にすることで、自分自身もそこから得られる喜びがあるという考え方。著者によると、デンマーク人の42%が現在ボランティア活動に参加しており、70%が過去5年間にボランティア活動をしたことがあるとのこと。だれかを助けると、そこから幸福感を得られることがあるのだ。

著者は、様々な調査やデータを織り交ぜながらこのような幸福感につながる要素について述べている。福祉制度など、ハード面に言及することを極力避けながら、どういった要素が人々の幸福感につながるかを、例を交えながら説明している。

読んでいてなるほどと感じることも多く、この国で暮らしている私も、とても興味深く読むことができた。一点だけ私の意見を加えるとすれば、社会の前提となっていることが、この本の中では暗黙の了解として明らかにされていないといことだ。

それはデンマーク社会が
・人間関係がフラットであること
・個人の領域を互いにリスペクトすること
(自分の期待や意見を相手におしつけない)
・多様性を前提として認めていること(人と自分は違うと気付いている)
・その上で、皆が平等であると考えること

こういったことを前提とした上での、人とのつながり、お金の使い方、健康、自由、信頼、共感力が、幸福感につながっているのではないかと思う。この前提がなければ、人とのつながりはしがらみや圧力になることもあるだろうし、自由も、何をしても言っても良い自由となってしまうかもしれない。デンマーク社会の個人のあり方は、ヨーロッパ社会でもある種ユニークなので、そういった前提と、幸福感を感じる要素の複合で、幸せを感じやすい人が多いのかもしれない。

Meik Wiking, "The little book of Lykke - The danish search for the world's happiest people" Penguin Books (2017) 

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さわぐり

デンマークで暮らして16年、公共図書館と学校図書館で働いて7年が過ぎました。北欧の絵本のこと、子ども図書館のことから、子育て、教育、社会のことなど、読んだり聞いたり感じたことをあれこれ書いています。 アイコンはおおえさきさんhttps://note.mu/oh_yeah_saki

デンマークで読んだこと、聞いたことと、考えたこと

読んだ本のレビューや、新聞、ラジオなどで読んだり聞いたりしたこと、実際体験したことから、デンマークの社会に関することを伝えたり、考えをまとめたりするノートです。
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コメント2件

こんにちは。私は今年の1月からフォルケホイスコーレに留学に来ています。デンマークの幸福度の高さについて知ることも目的のひとつだったので、さわぐりさんの記事、とても参考になりました。フォルケでデンマーク人の子たちと一緒に過ごしていると、とても20歳前後とは思えない成熟度の高さに驚かされます。それにはこういった様々なベースが前提にあることを知って納得しました。引き続き、記事を楽しみにしていますね。
sakiko masudaさん
こんにちは!コメント、そしてサポートまで!ありがとうございました。
記事も読んでいただいて、とても嬉しいです。励みになります。
ホイスコーレに留学されているのですね。一定期間デンマークで暮らして、デンマーク人と語らう中から色々と見えてくるものってありますよね。sakikoさんにとって、たくさんの学びの時間になりますように。ちなみにこの本ですが、スーパーやローカルの本屋さんでも売っています。100クローネぐらいでしょうか。日本でも翻訳版がでたそうですよ。ご参考まで。。
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