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戦場のメリークリスマス復刻上映を観てきた

普段はこの映画感想日記では復刻系は書かないのだけど(基本的には新作で、上映期間中に観てほしいなって思うものの感想を書いてる)これはなんだか色々心を動かされたので感想を書く。

何せ40年近く前の作品なので、ネタバレも何も今更ないだろうという前提で、今回も特に改行サゲはしないよ!

監督は、大島渚。私が子供の頃は映画を観られるような環境ではなかったので(そしてテレビロードショーで特集されるような作風の方でもなかったので)、私の中の大島渚のイメージといえば「バラエティ番組のコメンテーターや審査員で出る人」だった。

しかし、そんな私でも「戦場のメリークリスマス」はタイトルを知っていた。

何故かっていうと、多分今となっては映画そのものよりも有名なのではないかという坂本龍一のテーマ曲のおかげだと思う。映画を観る環境になくても、おそらく日本人の多くはこの「戦場のメリークリスマス」の楽曲は聴いたことがあるのではないだろうか。

【参考】戦場のメリークリスマス 4K修正版予告編
https://youtube.com/watch?v=6jaMw580afc&feature=share

聴いたら「あー!あの曲」ってなるよね。これは映画館音響で聴いてみたいよね。元々の映画を観ていないので、4K修正でどれくらい美しくなったのかは比べようがないのだけど。


そういうわけで行ってきたのだけど、意外にも若い女性やカップルも多い印象。

あの、ネタバレを気にしない方なのでwikiで大体どんな話か頭の中にいれてきたんだけど、この映画デートムービーにして大丈夫か????男祭だぞ???

公開前に新宿武蔵野館で、海外版ポスターが盗まれたとかで話題になっていたから、それで興味でた人とかもいるのかな。

以下「戦場のメリークリスマス」ざっくりあらすじ。

戦時中のジャワ島、オランダ人俘虜を強姦した日本兵の処理にあたった粗暴な軍曹ハラと、多少日本語を話せるため重用される英国軍中佐の俘虜ロレンスは、奇妙な友情を築いていく。

そんな中、反抗的な態度を見せる英国軍少佐のセリアズに、ハラの上官であるヨノイは気持ちを傾けるようになる。

無線機の無断所持による罰でローレンスとセリアズは独房にいれられ、壁越しにお互いの過去の話を語らう。二人は酔っぱらったハラによって釈放されるが、その日はクリスマスで、ハラは上機嫌に「これはクリスマスプレゼントだ」という。

しかし、英国軍の情報を得たいヨノイは、ジュネーブ条約に違反してまでも捕虜を全員集めるが、そのせいで重症だった俘虜が一人死亡。なおも反抗的な俘虜長を刀で斬り殺そうとするも、セリアズがハグをして頬に親愛のキスをしたことでヨノイは動揺して倒れてしまう。

その後、ヨノイは更迭されることになり、後任の俘虜収容所所長によってセリアズは生き埋めにされ、殺される。

4年後、ローレンスは明日処刑されるハラと再会して、昔話に花を咲かせる。ヨノイが処刑されたこと、ヨノイがセリアズの遺髪をローレンスに託したことなどが明かされる。

ローレンスの去り際に、ハラは叫ぶ。「メリークリスマス!ミスターローレンス!」


……というのが、色々はしょったあらすじです。あらすじをみてのとおり、この映画には男しか出てきません。(女の話題なら1ミクロンくらい出る)

オタク風に情緒のない言葉でいえば「男同士のクソデカ感情のぶつかりあい」がこの映画の主軸です。戦争映画ですが、戦闘シーンはただの1秒も出てきません。

国も違えば宗教も違う、信念すらも違う日本軍人と俘虜たちは、当然ながらわかりあえる立場にはありません。

強姦された上に目の前で切腹を見せられて、オランダ人俘虜のデ・ヨンはショックで舌を噛み切って死んでしまう。その事件に対して、ヨノイは二日間飲まず食わずで収容所にこもっていろというけれども、セリアズはたくさんのハイビスカスを摘んで、死んだデ・ヨンのベッドに置く。そのハイビスカスの赤の美しさが、基本濃い緑とダークグレーに覆われたシーンが多いこの映画では、めちゃくちゃ美しく見えるんですよね。

死者の悼み方が、西洋人と日本人では全然違っていて、日本は念仏を唱えて粛々としているんだけど、西洋人の俘虜たちは賛美歌を歌い続ける。このわかりあえなさ、宗教観や倫理観の違いがぶつかり合っていくシーンの連続が、この映画を彩っていく。

配役も面白くて、粗暴な軍曹のハラは、今や映画監督としての方が有名な北野武。当時はまだコメディアンのビートたけしです。演技としては新人も同然の人気コメディアンを、こんな大大的に起用しちゃうんだ……。

そしてヨノイ大尉が、こちらも音楽家である坂本龍一が演じています。なんで演技させようと思ったの?という2人が日本軍側のメインキャストなんですよね。

酷い演技になっても仕方がないんだけど、なんだろう、不思議とマッチしていて全然気にならなかったんですよね。2人とも超若いな!っていうのは気になったけど……。

特にハラ軍曹=たけしの存在感はよかったなぁ。その後俳優や映画監督として成功したのもわかるな、大島渚の審美眼やばいなって思いました。

酔っ払って上機嫌に「ファーゼル・クリスマス!」って叫ぶときの、粗暴な軍人でありながらもどこか無邪気なはしゃぎ方。戦争と言う場、軍隊という場でなければ、彼はこんな風に異国の人間にも陽気に接する人柄を持っていたのだろうか、と思わせる。

最後の処刑前日のハラとローレンスのシーンも、俘虜と軍人の立場が逆転している上に、ハラは明日死ぬことが決まっているのに、旧友と再会したような温かさがあるんですよね。この2人、戦争がなければ出会わなかったけれど、普通に出会えていたら親友になれたのかもしれない。

「戦場のメリークリスマス」は、海外向け英語タイトルが「メリークリスマス、ミスターローレンス」なんですよね。セリアズ、ヨノイ、ハラ、ローレンスという中心になる4人の中で、唯一最後まで生きのびる(処刑されない)ローレンスに、ハラが別れ際に笑顔で送った言葉。

その時のハラの笑顔、瞳の美しさ。

セリアズがハラのことを「瞳は綺麗だ」というシーンがあるんですけど、ああ、ここに繋がるのか……って。

ハラは多分戦争と軍という特殊な状況において粗暴な性格になっていただけで、戦争が終わったら憑物が落ちたかのように無垢な笑顔になっている。明日処刑されるのに。笑いながらローレンスに「メリークリスマス」と言える。

うわああああ、ってなってしまう。言葉にならない。

この人が私のちびっ子の頃「風雲!たけし城」とかやってた人です???(昭和生まれSAN値チェック)

※風雲!たけし城;昔やっていた、芸人版SASUKE(筋肉番付)みたいなバラエティ番組

この映画の難点をあげるなら、基本的に主人公はローレンスなので、俘虜側の視点が中心で、字幕と日本語が混在しているのでちょっと集中切れると何言ってるのかわからないところがいくつか出てしまったことだろうか。英語の会話には基本字幕が入るのですが、ローレンスのかたこと日本語には字幕が入らないので、結構聞き取れない。

まぁ、こればっかりは耳を鍛えろという話かもしれないけど。

私は結構、静かな映画ではすぐトイレにいきたくなりがちなのですが、この映画では一瞬もトイレに行きたくならなかった。観たあとで2時間半ある映画だと知ってちょっとびっくりした。膀胱の圧力が消えた。

音楽は期待通りよかったです。サントラあったら買ってしまったかもしれない…。

あと、2スクリーンのミニシアターだったから仕方ないのかもしれないけど、4K修復版なのにスクリーンは2K上映だったので、4Kで観たくなりますねこれ……。

セリアズがハイビスカスをムシャァ……ってするシーンを美しく拝みたかった。デヴィッド・ボウイの美しいご尊顔……。

40年近く前の映画でも、やっぱ面白いものは面白いな、ってなりました。

GWは映画館休業になってしまうところが多そうですが、5月中旬以降から上映開始のところもあるらしいので、ちょっと気になるっていう方はぜひ観てほしい。

若かりしデヴィッド・ボウイのご尊顔をおがむだけでも価値はある。

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