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恋愛掌話

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ふと気晴らしに恋愛小説を書いています。
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記事一覧

優しい天秤 I 痩せたガールの日常

 今月は厳しいな。  進行表をスマホで管理している。  もう銀杏の並木道に木枯らしが駆け抜…

百舌
2週間前
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如月より指折りて

 朝の匂いがまだしている。  鳥籠みたいに手狭な部屋に入り、手探りで灯りをつける。  頭上…

百舌
2か月前
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シャッター

 シャッターが切られた。  素肌に僅かな電流がはしった気がする。  指先がフィルムを巻き上…

百舌
3か月前
11

待ちぼうけ

 峠はもう雪で通れないかもね。  そう考えながら、湯気を立てる珈琲に視線を送る。  この辺…

百舌
4か月前
10

キャンドルサービス

 メイクルームに座る。  その瞬間を待ちわびたように、ウィッグを抱えたスタイリストが駆け…

百舌
3か月前
14

舵を取るものよ

 クルマを貸してくれ。  不意にそんな電話が来て、私は仕事の手を止めた。 「ちょっと待って…

百舌
4か月前
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半熟な恋

 その店に訪れたのは2回目だった。  中央線から外れた、貨物倉庫が林立する場所にあるcafé。  コンテナを積んだトラックに挟まれながら、その店に辿り着く。  視界が狭い中に不意にサインが輝いていた。  まるで手品のように思えた。  その朝は体調が良くなかった。  それなのに彼はタンデムシートに私を積んでいく。  シートが薄くて跳ねるので、荷物になった気分になる。  その振動に包まれて、生理が近いのかな、とぼんやりと考えていた。    おしゃべりのない店内。  どうしてこの

海猫屋のドリア

 茜空が幾何学的に割れていた。  林立するコンテナの群が連なり、夕映を黒くさえぎっていた…

百舌
2年前
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亡霊

 昨年に見た夢なのですが、今日にお話しようと思います。  例によって私の夢はとてもリアル…

百舌
2年前
5

ON AIR

 背中で触れてきた。  僕ははっと息を飲み、キーボードを叩く指が止まった。背中にかかる重…

百舌
2年前
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流転

 幻の一杯がある。  父親の遺した墓を、月命日に掃除に行ったご褒美に食べていた。  田舎に…

百舌
2年前
5

コバルト・ブルウ

 コバルト・ブルウのクーペ  V型6気筒のエンジンを積んでいる。猛獣のように顎を低くして、…

百舌
2年前
6

ROOF HOUSE

 湾岸戦争中にぼくはマレーシアにいた。  マレーはイスラム教を国教としていて、その当時は…

百舌
2年前
2

舞桜

 桜が散っている。  私のロードスターは、高台のパーキングに停まっている。  ふたり乗りのちっぽけなロードスター。  オレンジに塗られたボディに、漆黒の布製の幌が掛かっている。  急勾配の傾斜の途中に、巨人が指でつまんでこしらえたような平地が、虚空に向かって突き出している。そのパーキングのへりに平たく張りついている。  仕事がかさんでいる時期には、帰宅が深夜になることも、ままある。  エンジンの鼓動が止まり、車外に出ると、眼下には夜景が広がる。星が吹き散らされたような眺めだ。