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埠頭まで駆け寄った 然るに、時既に遅し。 高雄丸は曳航縄を四方に掛けられて離岸してい…
薄靄が海面を覆っている。 海風は予想外にも冷たい。 払暁が赤紫に染める天海。 黒々…
門司とは不遇な港である。 今やその港は異国となる。 凡そ四半世紀は昔のことである。 …
結われた金髪が揺れている。 細かく編み込まれているが、どんな作法なのか醍醐には判らぬ…
窓掛けが緩く風を孕んでいる。 遠く港より汽笛が響いてくる。 その汽笛が途切れると、ふ…
小雨のなかでバイクを停めた。 佐賀城本丸歴史観を訪問した。 春先に《江藤新平没後15…
細目の眼が検分している。 橘醍醐はそれを微風を受けるかの如く、平然と椅子に座している。 まだ一言も交わしてはおらぬ。 江藤新平、彼も上背がある方ではない。 醍醐の上役と違い、官服で高飛車に出るのではなく、華美で沙羅な洋服を誂えているのではなく、着流しの和装である。ただ腰には一刀だけは帯びている。一見しては共和国政府の高官というよりも書生じみている。 かなり年嵩の書生で、すでに五十坂は越えていよう。髪も蓬髪で聊か後頭部が怪しくなっている。月代を剃っていた世代ではない
橘醍醐は官吏でもある。 しかし幕臣としての報恩も忘れない。 代々が旗本の家柄であり、…
敵は四人。 その辻に雪隠詰めになっている。 その四人は、墨の如くに漆黒の官支給の軍服…
橘醍醐は、政治も分からぬ。 女心の理解など、雲の上だ。 彼の周囲はキナ臭くなった。 …
円卓に地図が開かれた。 清国の地図ではあるが、細密さに欠けて、かつ空白の地域も多い。…
橘醍醐は武士である。 政治には興味がない。 然しながらその政治が彼を翻弄している。 …
会見は縁側で始まった。 慧と光る眼光の鋭さたるや、槍衾の如くであった。 その双眸に射…
蔵六の声は、誰に向けたものか判らぬ。 しかるにつんと臓腑の奥に降りて来る。 ソファの背にゆっくりと背中を沈めながら、独り言のように呟いたのだ。 日の本を清から護るためよ、と。 橘醍醐の腕にかかる桃杏の指に、ぐっと力がこもる。この姑娘は日本語を解する。醍醐だけが、彼女の心根の毒気を肌身で感じている。 「日の本はなぁ、まだまだ未熟だ。懐も寂しいものだ。だから知恵が要る。他人の褌で土俵に上がるしかないのよ」 彼はいう。 「それでな、先にも言ったが、グラバー卿に大浦お慶女