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現金なものだ。 かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…
大門屋は老舗である。 かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。 外…
拍子木の澄んだ音が響く。 この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。 微睡を瞬時に取り…
夜更けになった。 総司は引付座敷で冷酒を置いていた。 手酌では杯も進まないが、元来が…
夜の帳が降りている。 三日月がさらに伏し目がちに天にありて、幾分は足元の助けになって…
さくりさくりと微かな足音がする。 鳶職の見習い衆の男が家路を急ぐ。 それを遠くに聞き…
花見の頃合である。 文久三年の春、京においては未だ戦火のきな臭さはまだない。 然るに不逞の脱藩浪人が、血走った眼で往来を歩くことが多くなった。 彼らは月代も剃らず、浅黒い肌に黒々とした無精髭を蓄えている。湯浴みどころか行水もしないので、獣の気風を備えている。彼らの姿があればぴりりした緊迫があり、風の往来も遠慮がちになる。 先月の事である。 今上天皇が賀茂上下神社へ行幸になり、攘夷を祈念された。在位中の行幸は幕府開闢も間もない寛永以来のことで、皇の慶事に京は沸き立った
陽は既に昇っていた。 壬生の屯所までは一里半はあろう。 街路は露に濡れていて、雨上が…
やや伏し目がちの三日月が出ていた。 下弦の三日月は娼妓の眼に似ている。 己が表情を隠…
伏見に鬼が出るという。 それを聞いたのは五条色街の二階だった。 総司が買うのは花魁大…