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伏見の鬼

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歴史小説の短編集を集めています。
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記事一覧

伏見の鬼 10

 現金なものだ。  かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…

百舌
1日前
18

伏見の鬼 9

 大門屋は老舗である。  かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。  外…

百舌
3日前
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伏見の鬼 8

 拍子木の澄んだ音が響く。  この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。  微睡を瞬時に取り…

百舌
6日前
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伏見の鬼 7

 夜更けになった。  総司は引付座敷で冷酒を置いていた。  手酌では杯も進まないが、元来が…

百舌
8日前
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伏見の鬼 6

 夜の帳が降りている。  三日月がさらに伏し目がちに天にありて、幾分は足元の助けになって…

百舌
12日前
17

伏見の鬼 5

 さくりさくりと微かな足音がする。  鳶職の見習い衆の男が家路を急ぐ。  それを遠くに聞き…

百舌
2週間前
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伏見の鬼 4

 花見の頃合である。  文久三年の春、京においては未だ戦火のきな臭さはまだない。  然るに不逞の脱藩浪人が、血走った眼で往来を歩くことが多くなった。 彼らは月代も剃らず、浅黒い肌に黒々とした無精髭を蓄えている。湯浴みどころか行水もしないので、獣の気風を備えている。彼らの姿があればぴりりした緊迫があり、風の往来も遠慮がちになる。  先月の事である。  今上天皇が賀茂上下神社へ行幸になり、攘夷を祈念された。在位中の行幸は幕府開闢も間もない寛永以来のことで、皇の慶事に京は沸き立った

伏見の鬼 3

 陽は既に昇っていた。  壬生の屯所までは一里半はあろう。  街路は露に濡れていて、雨上が…

百舌
2週間前
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伏見の鬼 2

 やや伏し目がちの三日月が出ていた。  下弦の三日月は娼妓の眼に似ている。  己が表情を隠…

百舌
3週間前
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伏見の鬼 1

 伏見に鬼が出るという。  それを聞いたのは五条色街の二階だった。  総司が買うのは花魁大…

百舌
3週間前
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