生松明佳(おいまつさやか/改装作業中)

奥行きのある世界を創ることを目指して。 #あなたの神戸を教えて 特別賞 #磨け感情解…

生松明佳(おいまつさやか/改装作業中)

奥行きのある世界を創ることを目指して。 #あなたの神戸を教えて 特別賞 #磨け感情解像度 佳作 #給付金をきっかけに 入賞

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最近の記事

そらのむこうの

小さいころ。 飛行機に乗ったら、死んだ人に会えるのだと思っていた。 飛行機に乗ったら空の向こうに行ける。空の向こうに死んだ人がいる。二つの知識がまざりまざった、子供らしい思い込み。 死ぬことは恐ろしくもなんともなかった。 飛行機が飛んでいく。あれに乗ったら空の向こうに行って、じいちゃんにもばあちゃんにも、そのじいちゃんにもばあちゃんにも、きっと会える。保育園で飼っていたうさぎにも会える。不思議で、奇妙で、なんだか気になって、飛行機に向かって思いっきり手を伸ばしてみることもあ

    • 花咲くふたり

      予報外れの雨雲を、喫茶店の窓越しにぎろりとにらむ。 女手ひとつで育ててくれた母との東京旅行。 スカイツリーの展望台からは何も見えなかった。 谷根千の食べ歩きも、上野動物園も、雨のせいで台無しだ。 「この時期の雨は催花雨って言ってね、花を咲かせる縁起のいい雨なのよ」 あんみつをにこにこ頬張る母を見たら、余計に喉の奥がきゅっとした。 来月、私は就職する。実家へは飛行機に乗らないと帰れない距離だ。 「一人ぼっちにしてごめんね」 私は小さくつぶやいた。 「お母さんはずっと楽しか

      • さまよう羊 (短歌)

        わけありのロールケーキの切れ端を仲間と呼びたい終電帰り 新しい時代拓かず古き良き女性にならずただ生きている 父ははと祖先と自然の営みを裏切ることか子のないことは 赤ちゃんを守れるはずがないでしょう自分自身も守れないのに 「楽ちんでいいね」と言われる人生をあっぷあっぷでサバイブしてる さいころで1しか出ない進まないつまらぬすごろくみたいな命 「結婚はまだか」のつぎは「子はまだか」親戚主催のスタンプラリー 『会社からしたらあんたは捨て駒や』おばちゃんそんなのきづいて

        • あたしがいなかったら、困るくせに #言葉を宿したモノたち

          あの子があたしをじっと見上げる。あたしもぎろりと睨み返す。 あの子がこれ見よがしにため息をつく。あたしも大きなため息をつく。 彼はキッチンでお茶の準備をしていて、リビングで繰り広げられるバトルに気づかないままだ。 あの子のてのひらは落ち着かない様子で膝小僧を行ったり来たりしている。 細くて少し焼けた腕が蛍光イエローのタンクトップによく映えている。 あの子がまたあたしの方を見上げた。それはそれは困った顔で。 なによ、とあたしはため息をつく。 あの子が快適に過ごせな

        マガジン

        • 三十一文字の世界
          6本
        • 四十七都道府県をいただきます
          0本
        • いつか忘れてしまうもの
          19本
        • つむぐ世界。
          3本

        記事

          お酒でいいなら、あっという間に達成しそうな気がする。 昨日は新潟と富山の日本酒を飲んだ。

          お酒でいいなら、あっという間に達成しそうな気がする。 昨日は新潟と富山の日本酒を飲んだ。

          頭のなかを流れているもの #みんなの2000字

          #みんなの2000字 企画。 短歌を2000字分書いてやろうか、と思ったが、あまりにも無謀だった(2000÷31…ちょっと計算する勇気の出ない値だ。) 逡巡したけれど、私らしさという意味で、頭の中の文章をそのまま書きとってみる、に再び挑戦しようと思う。 ** 私の頭のなかは、いつも文章が流れている。このことは、以前にも書いた。 明確に音声があるわけでも、かといって文字が見えているわけでもないので説明しづらいのだけれど、とにかく文章が頭のなかを、つらつらと流れ続けているのだ

          頭のなかを流れているもの #みんなの2000字

          パリ、あの日の粒マスタード #呑みながら書きました

          #呑みながら書きました 、うっかり忘れていました。(正確には、明日だと思い込んでいました。たぶん後夜祭との見間違い。) 楽しみにしてたのに。そしてうっかり外で呑んできてしまったので、呑みながら書きましたというより呑んでから書きました状態です。 ちなみに、今日は外でスパークリングワインと白ワインと赤ワインとサングリアを飲みました。やりすぎました。頭がちょっとくらくらしているし、体はちょっとふわふわしています。久しぶりの飲み屋さんがメニューをリニューアルしていて、とてもおいし

          パリ、あの日の粒マスタード #呑みながら書きました

          ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に行ったら、天才にちょっと親しみを感じた話。

          ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に行ってきた。会期中2回目。例の事情のせいで、あらかじめ日時指定券を用意しないといけない。 ふらっと行けないのは悲しいけれど、名作を人の頭の間から覗きこまなくていいのはありがたい。フェルメールを、日本で立ち止まって見られるのは相当久しぶりの事態ではないだろうか。 さて、2回目の訪問で、印象が大きく変わった絵があった。 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「34歳の自画像」 リンク先は、今回の展覧会のホームページ。作品画像、作

          ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に行ったら、天才にちょっと親しみを感じた話。

          令和元年の思い出。陛下の即位パレード、ストリートビューのラグビー観戦。密密密。過去にもどれとは言えないけれど。未来が楽しいものになれと願うばかりです。医療の隅の隅にいる身としては、責任を持って1日1日を大切に。今を見るより、過去を振り返るとき、より強く決意するのです。

          令和元年の思い出。陛下の即位パレード、ストリートビューのラグビー観戦。密密密。過去にもどれとは言えないけれど。未来が楽しいものになれと願うばかりです。医療の隅の隅にいる身としては、責任を持って1日1日を大切に。今を見るより、過去を振り返るとき、より強く決意するのです。

          ぷかぷかうかぶ

          ぷかぷかうかぶ ぷかぷかくらげ ゆらゆらななみ ぎらぎらあおぞら ぷかぷかくらげ ぷかぷかただよい きらきらみなもに するするとけた

          わたしの頭の中

          わたしの頭の中では、いつも、文章がとめどなくあふれている。ずっと頭の中の誰かさんの音読を聴いているような、あるいは勝手に動く万年筆が紡ぐ文章をぼんやり眺めているような、独特の感覚のなかにいつもいる。 物語は現実に近いところを漂っていることもあれば、果てしない空想の世界に旅立っていることもある。こころのなかの物語に夢中になりすぎて、起きているのに電車を乗り過ごしてしまうこともしばしばだ。 私は、それが普通だと思っていた。物語を作るのに、まずプロットを書く、とか、文章を書く前

          母と呼ばれて/母になれなくて

          #母と呼ばれて 「娘」「 妻 」「母」スーパーの値引き札 重ねて雑に貼られたラベル 化粧水美容液乳液フルメイク 面倒だったあの日が恋しい 抱き締める子供が大事愛おしい どこかに置いた自分は虚しい #母になれなくて 『ええ子や』と撫でた手で指差すご近所さん『あそこの娘は子供も作らん』 子供などいなくても十分幸せと胸を張るけどぐらつく土台 『シャンパンを孫の二十歳のお祝いに飲むのが夢』と母は呟く 仕事にも生き甲斐もなく次世代に命も繋がずただ生きている

          母と呼ばれて/母になれなくて

          君の夢を、聴かせてよ。

          ぷしゅ。 待ちきれなかったみたいに、泡が缶から飛び出してきた。 君があわててビールを小さなグラスに注ぐ。 おしゃれなホテル特有の間接照明が、いつものビールをよりいっそう鮮やかなオレンジ色に照らしている。 私たちはおそろいのグラスを持って、窓際のソファーに向い合わせに座った。懐かしいふかふかのソファーに、私たちのからだは思ったよりも深く包み込まれた。 「乾杯」 「乾杯」 小さな声で言って、小さくグラスを鳴らす。一口飲んだ。麦のにおいが鼻からふわっと頭の上まで広がっ

          月に心が動くなら―優衣の場合

          ああ、ひどい。 あたしはつぶやいた。まるで他人事みたいに。 目の前に広がっているのは無秩序だ。 ぐちゃぐちゃなままシンクに積み重なった調理器具の山。ベビーチェアのまわり、四方八方に投げられた野菜ペーストにりんごジュース。またためてしまった洗濯物も、ティッシュも、なにもかもがしっちゃかめっちゃかだ。 今日は何をしてたんだっけ。 一瞬、考える。だが、頭のなかまでしっちゃかめっちゃかで、思考はほつれて、やがて見えなくなった。 ―寝たい。 でも、今寝てしまったら、明日が

          月に心が動くなら―優衣の場合

          月に心が動くなら―凪沙の場合

          ずっと足元を見て歩いている。 残業帰り。 やりきれなかった仕事の分、 かばんのひもが肩に食い込む。 アスファルトにパンプスのヒールが突っかかって、じゃり、と嫌な感触がした。 LINEの通知音がして、足を止めた。 優衣だった。 大学時代の友人で、今は一児のママだ。 せっかく離乳食を作ったのに、子供は野菜のペーストをこねくり回すばかりで、ちっとも食べてくれなかった、 おおむねそんなことが、いまにも破裂しそうな密度の長文で書かれていた。 おつかれさま、のスタンプ

          月に心が動くなら―凪沙の場合

          いつか芽吹く日のために。

          今日は一粒万倍日。 何か種まきすると、一万倍に実る日、だそうです。 明確な理由があるわけではないけれど、ここしばらくnoteを書かずにいました。不思議なもので、しばらく書かないと「次に書くこと」の重みがなんだか増して、余計に書けなくなってしまいます。現に、この記事にたどり着くまでに、いくつかの記事を書いては消し、書いては消しを繰り返していました。 そうこうしているうちに、何やら規模の大きな賞がはじまり、素敵な文章がたくさん投稿されていて、それらに関する感想もtwitte