珍しい反応2

このマガジンで扱うショートストーリーズについて、過去の反応を思い出しています。

3)年配の奥様が
「誰もいそがない町」のテイストは、これまでのぼくの本らしくなかった。が、ぼくの本らしくあんまり売れなかった。
出版から数年たった頃。いつもお世話になっている税理士の先生のお宅にうかがった。その時、お茶を出してくれた奥様が、「この前、藤井さんの本、買ったわよ」とおっしゃったのだ。
「え、どの本ですか?」
「私、エレベーターのお話が好き」
あの本の冒頭に収められた「エレベーターが来ないわけ」のことだ。

税理士の先生と奥様は、ぼくよりずっと年上だ。
あの本の中の「エレベーターの話」が若い女性に好評なのは知っていた。が、失礼ながらこんな年配の方も同じ反応なのに、驚き、そして嬉しかった。
(この話は、1「不思議な話・ひそかな話」の中に収めている)

4)女性のミキサーさんが
さらに数年がたった頃。NHK-FMでラジオドラマを書いた。ぼくのいつものテイストであるコメディだ。この時、はじめてお会いした女性ミキサーさんが遠慮がちに、ためらいながら、聞いてきたのだ。
「あのぅ…、藤井さんって脚本家ですよね?」
「ええ」
「本も、お書きになります?」
「書きますよ」
「……じゃあ、『誰もいそがない町』っていうのは?」
「ああ、ぼくの本です」
「やっぱり!」

彼女は30歳前後。書店であの本を見て、すぐに買ってくれたらしい。その後も愛読書として、自宅の本棚にあるという。
ところが今回、彼女が担当するドラマ台本を渡され、「作・藤井青銅」という表記を見て驚いたという。
「だって、あまりに作風が違うので、同姓同名の方かなと思って」
「こんなヘンな名前の、同姓同名はいませんよ」
「それでネットで調べてみたら、やっぱりご本人みたいだなあ…って」
と、ためらいながらぼくに聞いてきたわけだった。
もちろん、ぼくは嬉しかった。

5)ステイホームの男性が
そして今年、知り合いの男性(中年)から、「ステイホームのお供に『誰もいそがない町』を読み返してます」というメールがきた。…ここで、このマガジン冒頭の「見切り発車」という記事に戻るわけだ。

以上のさまざまな反応から、
「こういう話は、どこかで誰かに、少しは求められているんだな」
と思い、ここで手作りでリリースしていくことにしたのです。


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