珍しい反応

ここで順次発表していく一連の「ショートストーリーズ」は、これまで藤井青銅にしては珍しい反応がいくつもあった。いったいどういう話が収められているのかという説明にもなるので、思い出して書いておこう。

1)ラジオ時代、リスナーが
元々は、かつてラジオ番組での朗読用に書いた原稿なのだ。毎週日曜の朝に放送していた。
ある時、ディレクターに言われたことがある。
「放送を聞いていたリスナーから電話がかかってきました」
二十代前半の男の人だったという。ラジオを聞いて心に響いたらしく、電話で、
「原作を教えてください」
という問い合わせがきたという。

作家冥利に尽きる話だ。そんなの滅多にあることじゃない。
「で、どう答えたんです?」
とぼくはディレクターに聞いた。
「原作はないんです。この番組のための書き下ろしです」
と答え、その方に、ぼくの原稿コピーを送ってあげたという。
「えっ? ぼくの原稿を!?」
驚いた。だって、手書きだ。ぼくのへたくそな文字が並んでいる原稿を見て、その方はさぞガッカリしただろう。モウシワケナイ…。
(その話は今回、2「ヘンテコな話・懐かしい話」の中に収めている)

2)本になって、書店員さんが
放送終了後、書籍用にリライトして「誰もいそがない町」というタイトルで本にした。
発売一週間ほど経って、出版社経由で一枚の読者カード(本にはさんであるハガキ)が届いた。女性だった。なんとそれは、高田馬場にある本屋の書店員さんだった。書店員ではあるが、その本を買ってくれた読者でもあるというわけだ。
「仕事上たくさんの本を読みますが、今年読んだ本の中で私の1位です」
と書いてあった。とても嬉しかった。

嬉しい理由は、実はもう一つあった。
その本屋さんは、ぼくが大学生の時によく通っていた書店だったのだ。かつてそこで、いろんな本や雑誌を買ったものだ。時間つぶしに店内をぶらぶらしてたことも、よくある。
のちにたまたまぼくは作家になり、自分の出した本がそこで売られるだけでも、個人的には感慨がある。それに加えて、書店員さんがぼくの本を気に入り、わざわざ読者カードを出してくれてぼくに届くなんて…売れない作家としては、もう奇跡みたいなものじゃないか。
あまりに嬉しくて、実はその読者カードのコピーを今も持っている。

…あ、いかん。あれこれ思い出してたら、長くなってしまった。
次回に続きます。

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