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場面緘黙症だったことに大人になって気付いた話⑥発表編

幼稚園から小学3年生になるまで、園内、校内で全く話さなかった場面緘黙の話の続きです。

小学2年生

初めての発表



学校では喋れないので、手を挙げて発表したことなど、もちろん一度もなかった。 


優しい笑顔のK先生は、数週間前に発表カードと言うものを全員分作っていた。


A4サイズの厚紙に描かれていたのは、笑顔のへびで、小さな丸を繋げてへびの形になっていた。1から30まで丸の中に数字が書いてあり、発表したら丸の中にかわいいシールを貼ってくれるのだ。

クラスメイトは、普段よりも張り切って発表し、丸の中にはどんどんシールが増えていった。わたしもシールを貼ってもらいたいなと密かに思っていた。

シールのない発表カードを持っているのが自分だけなのが嫌だったからなのか、それとも自分も問題を解けるんだと言うことを、知って欲しかったからなのか。

でも一番はきっと、子供らしく純粋に、ご褒美のシールを貼ってもらいたかったのだと思う。

夏休みのラジオ体操に参加してカードに赤いハンコが増えていくような、きっとそんな楽しみを味わいたかったのだと思う。

この日の算数の時間は、足し算だった。
問題ががいくつか黒板に書き出された。

「この問題わかる人」
と、先生が尋ねた。
あちらこちらから

「はい!はい!」
と、声がする。そして、先生に当てられた子が答える。
発表が終わると、先生は答えた子のカードにシールを貼りにいく。

確か3問目位だったと思う。

「次分かる人」
と、先生が尋ねた時、どうしてもシールがもらいたかったわたしは、いかにも発表しています!という感じではなく、伸びをするように右手を半分位挙げてすぐに横に下ろした。

「sayoちゃん」
と先生は、わたしを指した。
先生が気付いてくれたことに驚いた。
みんなが一斉にこちらをみたと思う。
多分見たのだろうが、わたしはそのことはあまり気にならなかった。

「ご(5)」
と、小さな声でわたしは答えた。

問題は忘れてしまったが、発表した数字は今でも覚えている。

「はい!正解です」
初めて話したわたしに、多分周りの友達はざわざわしていたと思う。何故かこの辺りの記憶はほとんどない。 

先生が笑顔でシールを貼りに来てくれたことだけは、はっきりと覚えている。
とても嬉しかった。
先生は大袈裟な反応はせず、他の子と同じようにわたしを扱った。

家に帰ると幼稚園に通う妹に自慢した。
発表したら、シールをもらえるんだよ!と。

このシールは最終的に2つになった。
自らの意思で発表しなくとも、席順に当てられて答えても、発表シールをもらえたから。

そちらの解答は覚えていないが、2つのシールの貼られた台紙は、数年間大切にもっていた。

3年生になると少しずつ話せるようになったので、きっとこのことをきっかけに話せるようになったのかもしれない。

K先生はわたしたちが3年生になる前に、職場結婚をして退職された。
今でも先生の笑顔は、変わらず心に残っている。

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