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中学生に恋してる

「可愛いな、マジで」

初めて出会った日から、恭一は私に対して可愛いとかイイ女とか言っていた。体を求めての口説き文句なだけかもしれないけれど、私の性欲も旺盛だったので、私達はすぐに体を重ねるようになった。

「ずるい...」

タイプの顔、セクシーな低い声、セックスの始め方も全てがツボにはまって、膣内はぐっしょりを超えて濡れ過ぎていた。
その中で、達さないように我慢する恭一はとても可愛かった。

きっと、出会ってから1ヶ月くらいは毎週のように家に行って、お互いを貪り合っていたと思う。
仲間思いの所、仕事への情熱、女性に支払いをさせない...
今の時代からすると、考え方が古いと思われるかもしれないけれど、30代の私は、やっぱり同じような感覚の人が嬉しい。

「今日、お家に行ってもいい?」
「いやー...ちょっと一人でいさせて」

いつからか、恭一は私を家に呼ばなくなった。仕事が大変だから、一人で考えたいこともあるのだろうと思ったけど...
恭一に触れられないことがとても寂しく、断られた日は何度泣いたことだろう。

「お願いです...助けて下さい!
好きすぎて...会いたいのに会えなくて...
辛いの...!!」

一人部屋の中、泣き叫んだ。
恭一と二人で過ごせないことが、本当に悲しかった。それくらい、恭一のことを好きになっていた自分に驚いた。

「お姉さん、一人で飲んでるんですか?」

恭一と一緒に過ごせない日は、行きつけのバーで男性に声をかけられて、寂しさを紛らわした。

「綺麗ですよね!彼氏とかいるんですか?」

声をかけてくれる男性のことを好きになれたなら、どんなに楽なんだろう。恭一に恋したことを忘れることが出来たなら、どれだけの解放感があるのだろう...

外面では愛想の良い女を演じて、心の中ではずっと比べてる。
恭一の方がカッコイイ、恭一の方が話が上手、恭一の方が...
まるで自分を忘れたかのように、私の頭の中は恭一のことでいっぱいだった。

「あれ、サツキさんじゃないですか」
「ミノルくん!え、ご飯食べに来たの?」
「そうなんですよ。恭一さんにここのご飯美味しいよって言われて」

恭一と会えなくて、涙を流す日々を卒業しようと、まずは私に美味しいご飯を食べさせようと定食屋に来た。
すると、恭一がいつも一緒に飲んでいる仲間の一人、ミノルくんとばったり会って、驚いた。
だけど、ここの定食屋も恭一が教えてくれたから...知り合いに会っても不思議ではない。

「一緒に座ってもいいですか?」
「どうぞ!」

ミノルくんは確か、28歳だったか。恭一と同じバーテンダーで、私は恭一のバーに通う客で...いつの間にか、私達は恋をしていたと思うけど...それは私だけの勘違いだったみたい。

「最近、恭一さんの所行ってます?」
「行ってない。どうして?」
「...だからかぁ。恭一さん、最近ヤバイんすよ」

食事を注文した後、ミノルくんは恭一のことを教えてくれた。

「最近、寝ないで飲み続けてるみたいなんすよ。この間、うちの店来てくれたんですけど、目が完全すわってましたね...」
「...そっか」

カッコつけで、24時間飲み続けようと俺は潰れない!というのが自慢な恭一。だからバーを経営しているんだけど...
一体何があったと言うのだろう。カッコつけたがり、プライドの高い男だから、本音は言わないんだろうけど...心配だ。

「サツキさん、恭一さんの彼女だから何か知ってると思ったんすけど...」
「はい?」
「え、彼女じゃないんすか?」

私の怪訝そうな顔を見たミノルくんは、やばっと言うような顔をして口を閉ざした。
私の方こそ、何を言っているか意味が分からなかった。確かに、恭一の飲み歩く先には一緒についていって朝まで飲むし、最初の頃は体の関係はあったけど...
今、ラインのやり取りはあるけど、日常の他愛ない話を2、3日に1回程度送り合うくらいで。それも私からラインして、恭一が返してくれるという...完全に私が追いかけている状態。
私との関係が面倒で、客だから邪険に出来なくてラインはしているのではないか、と想像していたのに。
彼女とは、一体どういうことだ?

「恭一が私のこと、彼女だって言ったの?」
「いや...この間、うちの店長と恭一さんが話してた時、店長がサツキさんのことイイ女ですねって話してたんですよ。オレも、他のお客さんと話してたので、あまりちゃんと聞いてなかったんですけど...結構大きい声で言ったんすよ。
『サツキは俺の女だから、手出すな』って」

ミノルくんの言葉が勢いよく胸に突き刺さった。
『サツキは俺の女だから、手出すな』
訳が分からなかった。最後に恭一のお店に行った時も、「ヘヴィーユーザー」とか「ただのお客さん」て表現で、他のお客さんに紹介していたから、私への恋心はなくなってしまったのかと思って泣いてしまったっけ...

「その時の恭一さん、1時間しか寝てないって言ってました」
「...そっか...」

1時間だけの睡眠でバーで仕事をして、その後もお酒を飲み続ければおかしくなるくらい酔っ払う...そして、心の奥底に隠された本音が出てしまう。
いつも平気そうにテキーラやイエガーのショットを飲んでいるのに、その時の恭一はきっとおかしかったのだろう。
お酒が強いといえど、酔っぱらった姿は知っているから、容易に想像出来る。

「教えてくれて、ありがとう!ここは私が奢るよ!」
「え、いいんすか?!やった!」

恭一の話を聞いた後は、ミノルくんと他愛無い話をして、食事を楽しんだ。
久しぶりに、笑った気がする。
恭一以外の男と、楽しい時間を過ごせて良かった。


「久しぶりじゃん」
「うん」

恭一と会わなくなってから、一ヶ月くらい経った後。仕事もスムーズに終わり、久しぶりに恭一の店に飲みに来た。
最近髪を切ったのか、スッキリした外見をしていて...そして痩せたようにも見えた。

「今日は寝たの?」
「あー...2時間は寝たかな」
「2時間って、その間何してんのよ」
「いやー...昨日も付き合いで飲みに行って、昼まで飲んだんだよね」

そう言って眠そうな顔で、私のお酒を作り始めた。久しぶりに恭一の顔を見たけど...やっぱりカッコイイ。

「サツキは最近、どうしてたの?」
「自分の時間を充実させてたよ」
「へぇ、いいじゃん」

バーが開いて、お客さんは私一人。
ぎこちないけれど、二人だけの会話や空気感が嬉しかった。

「そういえば、これからミノル達が来るよ。今日定休日なんだって」
「あ、そうなんだ」

恭一は自分のお酒を作りながら、付き合いのあるバーのスタッフ達が来ることを教えてくれた。ミノルくんも来るの、ちょっと気まずいなぁ、と思ったのは内緒。
恭一が表立って、俺の女だと言っているわけじゃないから...今日は様子見だ。

「お疲れ様です!かんぱーい!」

恭一の店が開いてから2-3時間後、ミノルくん達や他のお客さんも来て、みんなでお酒を飲む、楽しい時間になっていった。

「あなたのことが、チュキだからー!」
「韓国歌って、韓国!」

ミノルくんのグループはもう酔っぱらってるのか、大声で話しながらお酒を飲んでいた。

「サツキさん、テキーラいけます?」
「もらおうかな!」
「じゃぁ、恭一さん!6テキーラで!」

私はいつもバーカウンターの端っこでゆっくり飲んでいるのだけど、ボックス席に座っていた、ミノルくんが働いている店の店長が、私の所まで来てテキーラを飲もうと誘ってくれた。
お酒は元々嫌いではないので、タダ酒を楽しもうと、そのままミノルくんグループの席に合流することになった。

「サツキ、大丈夫?」
「え、大丈夫だけど、なんで?」
「いや、うん。なんでもない」

店長やミノルくん達と飲み始めて、夜のお店でよくある下ネタトークで盛り上がっている中、トイレに行った時に、恭一に聞かれた。
私が朝までお酒を飲んでも問題ないこと、恭一もよく知っているはずなのに、何に対して心配しているのだろう。
店長に絡まれてること...かな?
それを嫉妬してる...?
いや、まさか。
まさか、ね。

「サツキさん、この後二人で飲み直します?」

ボックス席に戻った後、酔っぱらってきた店長が耳元で囁いてきた。
私が恭一のことを好きじゃなかったら、ついていってた。店長も俳優みたいでカッコイイんだよね。
そんなこと思い、笑いながら私も店長の耳元で囁いた。

「ごめんなさい。ここだけで楽しみましょ!」
「えー、ダメかぁー!」
「ごめんなさーい!」

女を口説くのが上手なイケメン店長に誘われたのは、正直嬉しい。もうアラフォーになる私に興味を持ってくれてありがとう、という気持ちだ。
そんなことを考えながら、ふとバーカウンターの方を見た。
すると、恭一と目が合った。その瞬間、思い切り視線を逸らされた。
あ、私と店長のやり取り、見てたんだ。
直感でそう思ったと同時に、ミノルくんが教えてくれたことを思い出した。

「サツキは、俺の女だから」

ねぇ、恭一...
今、私と店長のこと、嫉妬しながら見てたの?
私が他の男と楽しく話してる様子、見るの嫌だったの?
ねぇ...それなら、どうして言わないの?
好きだって。
付き合って欲しいって。
どうして...?

「ちょっと、失礼します」

色々な感情が湧き上がってきて、涙が溢れそうになった。皆は楽しく飲んでるのに、涙を見せたらシラけてしまう。
外の空気を吸いに行こう。
お店の外にある裏階段に行くと、恭一も休憩がてら階段に座ってた。
私は何の躊躇もなしに、恭一の隣に座って、肩に頭を預けた。
出会った頃に、恭一の家のソファでよくしていたこと...

「酔っぱらったか」
「うん、ちょっとね」

言葉はいらない。がっしりとした肩に頭をもたれかけるだけで、足が軽く触れ合うだけで、とても、とても幸せだった。

「サツキ...」
「ん?」

どれくらいこうしてただろう。
お店に戻らなきゃいけないのに、まるで時間が止まったかのように動かない私達。
そして名前を呼ばれて顔を上げると、恭一の唇が重なった...
私の意識の中に考えるという力はなく、ただ互いを食べ合う唇や舌に集中した。
この時間が永遠に続けばいいと思った...

「俺と結婚しよう」
「え...?」

しばらくキスを楽しんだ後、恭一が私の目をじっと見つめて言った。
でも、その言葉に思わず笑ってしまった。

「な、何笑ってんだよ!」
「だって...付き合う通りこして、結婚って...ごめん、面白くて...」

恭一の真剣な眼差しを前に、照れもあって笑いが止まらなくなってしまった。
付き合うよりも、結婚をしたいて言葉が出るくらい、私のことを真剣に考えてくれていたってことだよね。
不器用すぎて、中学生みたいで、本当に可愛かった。

「あー、いいよ。忘れて」

私の笑ってる姿に拗ねてしまったのか、恭一は立ち上がって店に戻ろうとした。
私も一緒に立ち上がって、ちゃんと伝えた。

「私は最初から、恭一と結婚したいって思ってたよ?」

恭一の目をしっかりと見つめて気持ちを伝えると、酔っ払った時に見せるふにゃっとした笑顔を見せて、抱きしめてきた。
出会った時とは違う、ちゃんと愛情のある抱きしめ方が本当に嬉しかった。

恭一はお酒が好きで、女の子にちょっかい出すのが好きで、本当に中学生みたいな30代。
だけど、君と出会って恋をして、こうして結婚することが出来て、私は幸せだよ。
ありがとう。
ずっとずっと一緒にいようね🥰

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