古い価値観 新しい価値観

10年ほど前だったか、ダイヤモンドの記事で、40代、50代の管管理職が若手社員に読ませたい本というものがあって、50代が読ませたい本の1位は『菊と刀』でした。

さて、若者の常識や価値観の変化は、例えば僕が教壇に立ってからの20年程度でも、随分変化しているように思います。
これは勿論、個人差があるので、結局のところ人の差が大きいですが、それでもその時代の総体というか、共通するものはあります。

5、6年前だったか、友人が「今の学生さんの方が道徳的」と言ったことがありました。

これはある意味ではその通りで、年長の方が「最近は世知辛い」などと言うことも、確かに許されていた(度を超えなければ罰せられなかった)というだけで、明らかに間違っていることがたくさんあり、若い方からすると、こうした行為は犯罪を正当化しているようにしか聞こえません。

実はこのとき、個人的にはちょっと違ったことを感じました。

それは「文章化されたルール」には忠実なのですが、生活の中で教わったでしょ、というようなルールには無頓着な感じがしました。

あれから何年も経っていて、社会の変化も大きいわけですから、今の価値観はさらに変わっています。特にスマホネイティブ、コロナウイルスの影響など、様々な要因がありました。
今の方がどうという話はさておき、こうした様々な影響から、変化を感じます。

ところで『菊と刀』に記されている「恥の文化」には注意が必要で、「日本人は罰を受けなくても道徳的な行動ができる」という意味だと勘違いされていることがあります。
これはむしろ逆で、欧米人の「罪」というのは「神様がいつも見ている」という考え方。日本人の「恥」というのは、周りの目のこと。
このため、ともすると人目がなければむしろ道徳的ではなくなってしまう可能性があるという見方です。

勿論これも個人差です。元々この本が書かれたは、第二次世界大戦に際し、日本人の不可解さを分析したアメリカ人の視点です。

とは言え、もしかしたら「周りの目」というのは大きいのかもしれません。
例えば新型コロナウイルス蔓延の期間、かなりの行動が制限され、人との関わりも減りました。
また、人と会ったとしても、マスクを着用した状態ではやはり表情、つまり感情がいまいち掴めません。僕も講義をしながら、学生さんが理解できているのかを把握しづらかったです。
コロナウイルスの影響は「人の目を減らす」といった影響があったのかもしれません。

それではスマートフォンはどうでしょう。
電車やバスなどに乗っていると、8割くらいの人が画面を見ているように思います。そのうち3割くらいは、かなり没入しているように見えますから、人の目など全く意識にないのかと。

話は変わりますが、広告デザイン専門学校、マーケティングの講義では、1回目に「商業とは」という話をします。

そこで「商う」という言葉の話をします。ある程度より上の先生方はこの話をする方がいますから、商学部や経営学部出身の方は聞いたことがあるかもしれません。

「商う(あきなう)」という言葉は、元々「商く(あく)」と発音されていました。これは「悪」からきています。古い時代、集団で農業を行い分け合って生活する中で、集落同士の交換を生業とする人が出てきます。
この人は、理由はともかく、農作業に加わらず(苦労せずに)に富を得ていくことになります。そのため、「商」という字を「あく」と発音しました。

このような価値観は、現在でも残っています。必ずしも良いとは言いません。例えば日本のCSRが、寄付や福祉、自然環境に走ってしまう理由の1つがこれにあるからです。
しかし一部の(と、しておきます)の方は、こうした感覚がなく、むしろ「お金が手に入れば何でもいい」という価値観を持った人が、普通の人にも感じるようになりました。

これはある意味では、日本の文化を構成する様々な価値観の1つが失われていることを意味します。
文化は様々な考え方や価値観、習慣の総体です。道徳もまたしかり。10年ほど前ですが、日本の道徳教育に宗教が使われていないことが、欧米から高い評価を受けましたした。勿論、日本の道徳観治安の良さなどは、日本の文化の誇るべき点ですが、今の日本では少し変わってきているようにも感じます。

道徳観は国や人種、宗教などによって違うのは当たり前のことです。

先日、とある飲食店で、外国人旅行者の行動に唖然としながら困っている店員さんの姿を見ました。

こうしたとき、僕自身がどう感じるかとか、「郷に入っては郷に従え」という考えはさておき、意図的に「こうした文化」と捉えることにしています。そうしないと「文化がどのように違うのか」や「ルールの伝え方」を間違えてしまうと思っているからです。

今回は、最近感じたことを長々と書いてきましたが、この文章を書きながら思ったことがあります。

それは、価値観が急速に変化する中で、日本の文化を大切に守るためには、古いものを守ったりリメイクするのではなく、日本人が持っ「姿勢」のようなものを大切にすることが重要なように感じました。

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