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【第3回イベントレポート】ジェンダー・セクシュアリティ、政治・選挙...社会的にタブー視されているテーマについて会社の課題として取り組むには?|パナソニック ふつう研究室のあゆみ(前編)

こんにちは!Social Business Lab運営事務局です。

わたしたちは毎月1回、SDGsをはじめ、サステナビリティやジェンダー、ウェルビーイングといった社会的なテーマに関連するプロジェクトを、企業の中で担当する「人」たちとともに考え、学びを共有する勉強会を開催しています。

世の中に新たな考え方を提示するような「あのプロジェクトの裏側」を分析し、実際にそのプロジェクトを担当した関係者から具体的な取り組みについて共有していただくことで、うまく行ったことだけではなく、失敗や「もっとこうしたらよかった」といった視点、どのように社内を巻き込み、プロジェクトを形にしていったのか?など、プロセスから紐解くことで考え方を知り、それぞれの活動や日々の仕事に活かすことができる場を目指しています。

第3回勉強会のゲストは、パナソニック 執行役員の臼井 重雄さんをお迎えしました。

パナソニック ホールディングス株式会社
執行役員 デザイン担当
臼井 重雄

2021年4月、パナソニックとして初めてデザイン部門から執行役員に就任し、ビジネス界でも多くの注目を集めました。
アクションワード「Make New」を通じたコーポレートブランドの発信や、「未来空想新聞」などの社会的な課題をクリエイティブの面で積極的に取り組んでいる印象のあるパナソニック。臼井さんはパナソニックグループ全体のデザイン経営を推進するとともに、パナソニック株式会社の「人・社会・地球を健やかにする」というミッションの実現に向け、デザインと共にブランドコミュニケーションを主導されています。

今回の勉強会では、幅広い性のあり方への理解や知識のアップデートに取り組むパナソニック株式会社の「YOUR NORMAL(現ふつう研究室)」を例にとって、社会的にタブー視されていたり、“なんとなく触れにくいもの”とされてきた「性」のテーマを会社のプロジェクトとして取り組むことについて話していきます。

Labのメンバーでもあり、このプロジェクトを立ち上げた白鳥さんと東江さんが、プロジェクト実現の裏側で当時の上司である臼井さんと、どのようにしてプロジェクトに向き合い、どうやって会社内でプロジェクトを進めていったのかをシェアしていただき、CCC MKホールディングスの学校総選挙の事例も聞きながら学んでいきます。

「YOUR NORMAL」 プロジェクトとは?
YOUR NORMAL プロジェクトとは、ジェンダーロール、安全、健康、関係性など 自分らしい人生を生きるために、性の幅広い理解と知識アップデートに取り組むプロジェクトです。性を考えることへの偏見や障壁を減らし、誰もが最も自分らしく自然体でいられる個“性”のもと、それぞれが自分の選択へ自信を持ち生きていくことができる社会の実現のため、企業として商品やサービスの選択肢をユーザーと一緒に模索する活動として取り組んでいました。現在は多様な“ふつう“を研究・提案するデザインコンサルタントチーム「ふつう研究室」として、より事業に密着して活動しています。

イベントでは4つの「Social Action Canvas」を軸に、プロジェクトのあゆみを初期・中期・後期で分け、参加者の皆さまからいただいた質問を交えながらお話を伺いました。

社会活動とビジネスの接続を両立するための
プロジェクトを紐解くソーシャルアクションキャンバス

ープロジェクトのあゆみ初期・プロジェクトの実現までの葛藤や社内外での味方作り
なんでわかってくれないんだ!期

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:私たちはパナソニックの中で普段デザイナーとして活動しているのですが、東江とはよく性に関するイシューについて話をしていたんです。性って自己表現としての一部でもあるし、人生のベースにもなるものだから「あらゆる人の生活に寄り添ってきたパナソニックでも取り組むべきテーマだ!」と思い、生と性を考えるプロジェクトを提案しました。ただ、最初は「生」はあまり前に出さずに「性」というコンセプトを全面に出して提案したところ、臼井さんからは「パナソニックが性を扱う意味が伝わらない」という指摘を受け、コンセプトを立て直す時期があったんです。紆余曲折を経て方向性が決まった過程を、このプロジェクトを承認した側の臼井さんとお話できたらなと思います。

臼井さん
:実は、僕は反対していたというより、この活動を知った社内の人から「あのプロジェクトは気を付けた方がいいぞ」と声をかけられたんですよ。そこで「どんなことをやってるの?」って聞いてみると、確かにこれはあまりにも当社で扱ったことのない切り口だったので、会社としては慎重になるなと思い、二人に「もう少しパナソニックで取り組む意義をわかりやすくしない?」と話をしました。でも今となって振り返ると、会社としてわかりやすくすることに時間を使ったというよりも、僕らが東江さんと白鳥さんがやりたかったことを理解するのに時間がかかったのかなって思っているんです。

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:最初の2ヶ月は、資料の表現の問題だと思っていました。「性」というのをもう少しカジュアルに考えられるように、ポップなビジュアルにしたのですが、「うーん」と反応しか返ってこなかったんです。もしかしたら表現がカジュアルすぎたのか?!と思い、他の人にもいろいろとアドバイスをもらっておとなしいビジュアルに変更してみたのですが、そういうことではなかったみたい。「やっぱりパナソニックが取り扱う意義とつながってないんじゃない?」という指摘をもらい、私たちもさらに混乱してしまって迷走したんです。創業者である松下幸之助の言葉を資料に入れてみたり、事業視点で捉え直してみたりといろいろトライしたのですが、それでも私たちの意図がうまく伝わらない。ある時点で「このアプローチのままではだめだ!」と気づき、「性」だけでなく「生と性」というコンセプトに組み立て直しました。つまり「性」というのは人が「生」きていく上で必要な知識だから、性について考えることは大事なことだよね、というふうにつくり直したんです。
そこでようやく風向きが変わり、今に至ります。

私たちとしては、なぜ最初は「うーん」と言われたのか、逆になぜ急に理解をしてくれるようになったのかもわからなかったんです。その後すごくプッシュしてくれたり、助けてもらえるようになったりしましたが、当時どう思っていたのかを伺いたいです。

臼井さん
:上の人って何にでも反対するわけではなく、わからないから「やめろ」と言うこともあると思うんです。僕自身も、何なのかわかんないからやめておいた方がいいと言うんですけど、実は当時、フェムテックのお店にどんなものが置いてあるのかこっそり見に行ったりしました。でもおじさんが一人で入ったらやっぱりジロジロ見られて、恥ずかしくて。とはいえ僕なりに本を読んで勉強したりして、理解したいという気持ちはあったんです。二人がなんでこんなに熱く語ってるのか、初めは理解できなかった。だけどいろいろ知っていくと必要性がわかってきた。それで「君たちが今までやってきたもの、全部持っておいで」と声をかけ、丸一日かけて三人で議論したんです。今振り返ると、あの後一気にプロジェクトが加速したと思いますね。

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:性のあり方って、数年前から議論されるテーマですよね。テーマの問題なのかそれとも、そこからアクションしようとしている内容なのか。社内的に止めた方がいいんじゃないかというのは、どの辺だったんですか?

臼井さん
「性」というテーマだったと思います。まず前提としてデザインチームのアウトプットとしてプロダクトなどの形で提案しなければいけないと思っていたことがあり、性をテーマに扱った時それは難しいと直感的に感じたから。新しい取り組みをする際に「デザイン部門だから何か形にしなければならない」という固定概念に僕自身も囚われていました。まずはこういうテーマに関して課題を感じている人たち、悩んでいる人たちが話をすることができるようになったり、みんなが考える種を作るだけでもいいのではないかということ、この活動そのものを始めることにまずは意味があるということに、二人と話していく中で気づいて、変化しました。


石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:白鳥さんと東江さんは、実際にプロジェクトを進めていく中で、最終的な出口のイメージに変化はありましたか?

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:最初の時点では、意識改革の発信とプロダクトの開発をやりたいと提案していたんです。

東江(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:何か新しい概念を取り入れる時に必要なことって、まずは実感を持つこと。インターフェースでもいいけれど、物と意識を変える知識や新しい概念、その両方を実感を持って進める方がいいんじゃないかといったことを考えていました。

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:ただ、メーカーなのに物がない提案に落ちるのは良くないよね、とは私達の中でも話していて、何とかつなげようとしてしまう傾向はあったかなと。

臼井さん
:当時は、事業部もメンズ/レディースでチームが分かれている中でも、メンズのものを女性が使ってもいいじゃないとか、メンズ/レディースって分けなくてもいいよねという議論もありましたよね。プロダクトはそのままでも、お客さんとの接点であるコミュニケーションを変えるだけでも表現できる。例えば“髭をドライヤーで乾かす”ことがあってもいい。お客様側から見た時に、プロダクトが変わらなくても伝え方が変わればいいんだよって。そこからアイディアがどんどん広がっていったのは、今振り返っても事業としてもとても良かったと思います。

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:社会的なイシューをテーマに、プロダクトに落とすことにこだわらない展開や取り組みになったとはいえ、白鳥さんと東江さんはデザイン部門の方達なのにデザイン部門の中ですることに疑問はなかったのでしょうか?

東江(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:葛藤はしてはいましたね。一方で、当時私たちがプロジェクトをやっていたチームが、「未来の暮らし」や「豊かな暮らし」をゼロから作る為に純粋に考えていこうっていうチームだったので、形にこだわらない取り組みをしやすい環境にいたバックグラウンドはあります。

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:正直、臼井さん自身は興味を持ってくれていたと思うんです。でもこれが仮に宗教や政治がテーマだったら、止めてくる人はもっと多かったのかなって思っていて。学校総選挙プロジェクトが扱うテーマって政治だから、うちの会社だったら結構ドキドキだなって思います。

臼井さん
:多様性、ジェンダー、環境の話などもずっと昔から、深く長い課題で多くの人が向き合っていたはずですが、例えばCO2の削減目標が決まったり、女性の幹部比率を30%以上にしなければいけないとなると急に企業として動き出すじゃないですか。そうしないとダメといった制約や仕組みができたり、株価に影響したり、利益に関係するとか。でも本当は、困ってる人たちがいるならば、どうにかしようよって素直に動くべきなのにという気持ちもあります。世の中が変化しないとみんなが動きづらい中、先に課題に気付いたり声をあげる人たちがいる。今回は性というテーマですが、違うテーマであったとしても、あらゆる人が豊かなくらしを実現できるように、困ってる人を企業としてサポートできることがあるならば、本来はその理由だけでも動くべきだと思うんです。利益なんて後から付いてくるはずで、個人的にはあらゆる人々が抱える困りごとに関しては、特に大きな会社が取り組まなければならないんじゃないかなって思いますよね。


吉田(学校総選挙 / SBLメンバー)
:臼井さんは割と早い段階で白鳥さん、東江さんとしっかりお話しされて理解を深められたのかなと思うんですけれども、臼井さんより上の方を説得していく時ってどういう風にアプローチされたんでしょう?

臼井さん
:まず、自分たちで事前に準備を進めておくことですかね!結局、新しいことに取り組む時って、未来が後からやってくる感覚があるじゃないですか。これまで多様性や*DE&Iなど企業内ではあまり中心に据えられていなかった話題が、急激に社会の風潮として正しく理解し対応できていないとだめみたいになって。その時に、ちゃんと準備が整えられているかが大事だと思うんです。このプロジェクトについては、社会的なタイミングもあって、結果的に誰からも文句を言われたことは一回もないんですよ。逆に外部の人に、パナソニックは新しいことやってるよね、と声をかけられたり、新入社員が「あの映像を見て、この会社に入りたいと思いました」とコメントしてくれたり。目先の利益よりも、会社全体としてよい影響がたくさんあったんですよね。
*DE&I : 企業理念や教育理念などに多様性・公平性・包括性を取り入れて公平な機会のもと、多様な人材が互いに尊重しあい、力を発揮できる環境を実現するという概念

吉田(学校総選挙 / SBLメンバー)
:社外からの声はすごく後押しになりますよね。私たちも会社の人に言う前に選挙管理委員会の人に会いに行ったり、どうしたら中立性を担保できるかなど、周りから理解や賛同の言葉をもらいながら進めたところがあったので。

臼井さん
:でも逆に理解してるフリする人も多いじゃないですか。いろんなことを理解しないとイケてないと思われて、昔みたいに「そんなのダメだ」と言う人がいなくなってきているんじゃないか、簡単に言っている人もいるんじゃないかという心配もあります。CCCのみなさんは、どのように社内でこのプロジェクトへの理解を得たんですか?

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:「社会に課題があること」「個人として取り組みたいと思っていること」「会社としてやるべきだと思っていること」の3つがあると思うのですが、僕らは会社の理由から入ったところがあるんです。CCCという会社として、Tポイントというサービスとして、若い世代と繋がる術をもっと作らなければいけない。ポイントは買い物に応じて貯まっていくものなので、あまり買い物をしない世代にとっては価値を提供しづらいサービスなんです。そう考えた時に、若い世代に対しては違った価値提供ができないと新しい接点、認知や共感も含め知らない人が多いことがまず大きな課題でした。じゃあどうするかという時に、若い世代が関心のある社会課題にフォーカスしよう、という話をしました。もちろん「政治」ってリスクがあるよねとか、この世代って本当に社会的イシューに関心があるのか?という話になるので、実際にヒアリングした結果や、テーマに関するリスクはこうやったら下げられるんだという話をすると、うまく進みましたね。今振り返ると「これをやりたいんだ」だけを軸にしていたら、もしかしたらうまく進まなかったかもしれないなと。

臼井さん
:なるほどなあ。僕は、出来上がったムービーを見た時、二人が言ってることはこういうことだったんだと、改めて感じたんです。二人は、会社側が納得するように既存の商品のコミュニケーションに反映していくことにも取り組んだんですよ。今は、シェーバーのCMにもジェンダーを問わず多様な人が出演しているのが当たり前になってきているけれど、この取り組みはある意味事業にとっての先行開発だったと思います。気付いた人が社会に投げかけてみると反応がちゃんとあって、現場のメンバーも安心して踏み込めた。結果論として、二人はすごい厳しい風に当たったけど、そのおかげで事業側はすっと入れたっていうのがあったんじゃないかなと思います。

「YOUR NORMAL」コンセプトムービー
#ThinkYourNormal

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:この映像とビューティの広告イメージは、この場にもいる大谷さん(Creative Studio koko / SBLメンバー)と制作を進めたのですが、外部の力を入れていくって大事だったと思います。CCCさんは、最初から会社内で理解が深まっていたわけではないんですか?

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:2つの視点を使い分けてました。関係する部門の方達も多岐に渡りますが「若い世代の人たちとどう向き合うか」を絶対的な共通課題としていたので、ノーとはなりませんでした。味方や応援者になってもらうことに関しては、社会視点の話をしました。「もっと若い世代の声が世の中に届くような社会の方が健全だよね」と社会的イシューへの共感や共通の課題意識を持った人が、より積極的に応援してくれるようになったかなと思っています。

内藤(学校総選挙 / SBLメンバー)
:ここで質問が来ています。「小規模で保守的な社員も多いコミュニティの中で、ジェンダーやSDGsの問題についてそもそも理解してもらえない場合、皆さんだったらまずどのようなアプローチをしますか?伝え方を工夫したり、やり方を変えても根本的になぜそれが差別的なのかが分からないので、途中で疲れ果ててしまうことが多いです。」と。

東江(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:会社にまず提案するのではなくて、最初に外に発信してみる。外での反響が多かったから、やっぱり大丈夫だねという話になって会社の中に戻ってくるということが、自分達が取り組んだ結果としてはあるかなと思いました。

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:何かアクションをしないことには言葉だけの話になってしまう。理解をしてくれる人もいればそうじゃない人もいて、言葉だけでは伝わらない。社内で伝わらないなら周辺からという形のアプローチになるのかな思うので、社外も含めて動かすためにまずはアクションをとったことは、パナソニックさんも僕らも共通のことかなと思いました。


>後編
プロジェクト中期・追い風吹いてきたかも!に続く