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Maria Laach

Maria Laachってご存知ですか。
現在も活動を続けている修道院がある素晴らしいい自然に囲まれた場所です。そして、週末は買い物客で賑わう場所でもあります。修道院と自然豊かな場所が何故買い物客で賑わうのか疑問に思った方は、どうぞこの記事を読んでみてください。2022年4月に書いた記事です。

ドイツ語C1試験を終えた日の夜、私は思わず呟きました。
「どこか綺麗な場所へ行きたい」
夫が応えました。
「よし、行こう。どこかいい?」

森があって山があって大量の水があって、しかも歴史建造物も目にすることが出来る、家から簡単に行ける場所がいい。そこでちょっと買い物したりもしてみたい。ムチャクチャ贅沢な条件のように聞こえますが、ドイツにはその期待に応えてくれる場所がシッカリあるのです。こうも長くドイツに住んでいると、すっかりドイツに慣れてしまって、ふだん特にドイツで生活していることを意識せずに暮らしているのですが、こういう時はドイツに住んでいて本当に良かったと思います。

今回、私の過度の要求に適った場所が、Maria Laachでした。
低山に囲まれた湖の傍らに、11世紀までその歴史を辿ることができる修道院建築群が建っています。現在のドイツには、既に修道院としては機能していない歴史的建築群を、例えば連邦州などがその歴史的建築群を買い上げ、観光用に運営している場所なども少なからずあります。それに対し、Maria Laachは現在でも修道士が暮らす、いわば「生きている修道院」です。従って修道院建築群のうち旅行客が足を踏み入れることができる建物は非常に限定されていますが(ちなみにこの修道会は非常に美しい図書館を持っています。が、当然のことながら外部者立ち入り禁止)、その代わりに修道院に隣接して書店(Buch- und Kunsthandlung)や陶器店(Klosterlanden)、園芸店(Gärtenerei)、食品店(Hofladen)、レストラン(Klostergaststätten)、ホテル(Seehotel)などが並んでいます。

修道院が起工されたのは11世紀、最終的な完成は13世紀ですが、その後何度も改築・修復が重ねられてきました。20世紀、献堂800年目にあたる1956年に合わせ、修道院教会(Abteikirche)の大規模な改築が行われ、外観・内装とも800年前の建造当初に近い形が再現されたそうです。そのせいか、私の第一印象は「綺麗・清潔、そして新しい」というものでした。修道院としての役目を終えた歴史的遺産ではなく、今もなお日々活動し続けている修道院ならではのことだと思います。

修道院建築群の傍らにはほぼ真円形の湖が横たわっており、それを囲むようにして一周約11kmのハイキングコースが設けられています。天気が良かったので、この約11kmを歩いてみました。歩き終えるのに2時間半ほどかかりましたが、近所の山坂を散歩と称して1時間半くらい日常的に歩いているせいか、さほどきついとは感じませんでした。特に現在は新緑と菜の花の季節で1年でも最も美しい季節にあたるので、その美しい風景を堪能しているうちに歩き終えてしまった感じです。しかしながら、湖の西北にキャンプ場に併設されたレストランが日曜日の午前中通りかかった時には開いておらず、従って途中水分補給できなかったので、最後のほうはともかく喉が渇きました。

さて、Maria Laachで特記すべきは、そのハイレベルなショップの数々だと思います。
特にここで修道士の手によってデザイン・製作されている陶器類は、ドイツのManufactumというセレクトショップでその一部販売されており以前から注目していたので、これらを扱うKlosterlandenへ行くのは楽しみにしていました。全部欲しいところですが、迷いに迷った末、深皿を4つ購入しました。今更ですが、コーヒーカップとソーサーも買えばよかった...(セレクトショップでは扱っていないのです)。

ホテルやレストランで使用されている食器もすべて修道院で作られたものばかり。なんと部屋の洗面ボウルもMaria Laachのマークが入った陶器製でした。これは本当に素敵だった。デザインはごくシンプルなのですが、なんともいえない独特の温かみがあり、私の目には非常に魅力的に映りました。従来食器類には全く興味がなく、実用性重視、割っても後悔しないMUJI一択という私が、目の色を変えて店内を歩き回ったのですから、まあ、どれだけ魅力的なのかお察し頂けるのではないかと思います。

修道院域内で育てられた草花は園芸店で売られています。鉢植えの形一つとってもコロッと可愛らしいのです。薔薇の小さな鉢植えを購入したかったのですが、持ち帰ることを考え断念。園芸店や食品店には遠方からの旅行客のみでなく、近隣の住民が車でやってくるようで、皆さん、大きな鉢植えをためらうことなく2つ、3つと購入、両手で抱えて持ち去っていました。特に注目すべきは林檎で、園芸店でも食品店でも目立つところに山積みされています。これを地元客(推定)が鷲掴み、段ボールに山盛りにして購入していくのです。隣にこの林檎で作られたジュースが置かれていたので、私たちは試しにこちらを買ってみたのですが、その美味しいことといったら!私は林檎ジュースはさほど好きではないのですが、これなら何本でもいけると思いました。きっと林檎を丸齧りしても美味しいに違いありません。

...ということで、週末のMaria Laachは旅行客のみならず周辺の町からの買い物客(推定)で非常に賑わっていました。この修道院は「企業家」としても大変成功しているにちがいないと私は感嘆したのですが、その裏にはどうやら「修道院」としての苦しい葛藤もあるようです。Katorishce Nachrichten-Agengturの報告によると、修道院内部では今後の修道院の在り方について意見の相違があるのだとか。将来的にも観光分野に力を入れていくべきか、それとも本来の修道院生活に忠実な方向に舵を切るか。この意見の対立も影響して、現在は修道院長が不在、代表者(Ordensoberer)がその代役を務めている状態なのだそうです。これもまた「生きている修道院」ならではの難しい問題なのかもしれません。2021年春にホテルが全面改装ののちオープン、加えてレストランも全面改装を済ませ、つい最近、すなわち2022年春に再オープンしたばかりですから、現在は観光業推進の方向に比重が傾いているようです。Maria Laachはこれからどのように変化していくのでしょうか。今後も見守っていきたいと思います。

なお、この投稿に掲載した写真は全てRolleiflex 2.8Fで撮影したものです。カラーフィルムはPRO400H、白黒フィルムはHP5 Plusを使用しました。

参考)
Willkommen in der Abtei Maria Laach(Broschüre)
Abtei Maria Laach(Wikipedia:ドイツ語、2022年4月27日閲覧)
Die Benediktinerabtei Maria Laach, Karl-Heinz Schumacher und Pater Bazilius Sandner OSB, Sutton Verlag, c2006

補足)Maria Laachへの行き方
まずフランクフルト(Frankfurt am Main)からコブレンツ(Koblenz)まで向かいます。この2都市間はICE、IC、REなど数多くの列車が走っています。進行方向(コブレンツ方向)に向かって右側の座席に座ると、ライン川沿いに点在する古城や美しい街の風景を楽しむことができます。コブレンツからはタクシーを利用することをお勧めします。コブレンツの駅前ロータリー(東側出口)にはタクシー乗り場があります。マリア・ラーハ(Maria Laach)までの所要時間は20〜25分程度です。なお、コブレンツから先も公共交通機関を利用してマリア・ラーハへ行くことも可能です。しかし、公共交通機関を利用するとローカル列車やバスを乗り継がなければならず、マリア・ラーハまで大幅に遠回りして向かうことになります。また、列車もバスも本数が少ないため、公共交通機関を利用する場合は事前にドイツ鉄道のアプリで運行状況を十分確認してください。なお、ドイツ鉄道は遅延や運行キャンセルが稀ではないので、時間に十分な余裕をもたせた移動計画を立てることをお勧めします。

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