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Django Fakebookのプレイリストを作った

先日、マヌーシュ・ジャズ(ジプシー・ジャズ、ジプシー・スイング)—ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリが演奏したジャズのスタイル—やミュゼット—アコーディオンを押し出したフランスのポピュラー音楽—のスタンダード集というプレイリストをSpotifyで作った。自分のために作ったものなんだけど、ちょっと気に入っているので、今日はこの話しをしたい。

はじめに

30代からまじめに聴きはじめたマヌーシュ・ジャズやミュゼット、あるいはフレンチ・ジャズ。もっとたくさん聴きたいし、さまざまな演奏(や歌)を聴き比べたい。そうすることでライブも楽しくなるし、新しい音源に出会ったときにもっとワクワクする。そういった時に役に立つのはスタンダード集などのいわゆる楽曲集。いまでは簡単にそういったものがインターネットで手に入るので、さっそく去年「ジャンゴ・フェイクブック」を手に入れてみた。

ジャンゴ・フェイクブックの表紙。シンプルで非常に好き。

パラパラと見ていると「この曲知らないぞ!」「あーこんな曲をマヌーシュ・ジャズの手法でやってるんだー」とか「これは入ってないのか」などさまざまなことに気づく。これを元に聴いていると「この曲は○○の方がいいな!」「この人のアレンジかっこいいな!」など本当にいろいろ学ぶことができる。ギタリストがヒャッハーしているものもあるし、凝ったアレンジのものもある。バイオリンやクラリネットではなく、別の楽器がリードをしているものもある。一言でマヌーシュ・ジャズやジプシージャズ、ジプシー・スイングと言っても多種多様だし、そもそもミュゼットやシャンソンの曲も収録されている。

なんかいい感じのプレイリストとかないかなーとSpotifyを検索してみたけれど、ちょっと自分が思っていたものとは違った。というかだいぶ違った。できるだけバンド形式のもので、フレンチ・ジャズやマヌーシュ・ジャズ、ミュゼットの形式のものだけ。バイオリンやクラリネット、トランペットがリードを担っているもの。

じゃあ自分で作ろう!

プレイリストがないのなら自分で作ればいい。ただこれは途方もない作業である。200曲近い楽曲のたくさんの録音をたくさん聴かなければいけない。もしかしたらスルメみたいなものもあるだろう。要するに最初は好きじゃないけど、聴いているとだんだん好きになるような、そんな録音である。

じゃあどうやって選曲をしたのか、その選曲方法を簡潔に言うと:
できるだけたくさんの演奏を集めて
できるだけたくさん聴いて
楽曲の元のテーマやメロディが崩れすぎていないもの
かつできるだけ録音の状態がいいものを選ぶ
③と④の条件にリード楽器がA「バイオリン(あるいはクラリネットやトランペット、サックス、カズーなど)」のものとB「ギターのみ」のものがあった場合、Aを選択する傾向にある。
*ただし録音の状態が悪くてもあまりに名演だと私が思った場合は諸条件を度外視した
**録音の状態は、各楽器がちゃんと聴こえるか否か、という私の判断に委ねられる
***歌ものやドラムが入ったものも入れた
****そういえば長すぎる演奏も除外したような気がする
*****大前提だけどSpotifyに音源があるものだけ。

①と②はもう根性しかない。マヌーシュ・ジャズやミュゼットではない録音も聴くべきだと思ったので知っている曲でもできるだけ聴いた。歌詞があるものは、(時間があったり気分がよかったら)歌詞も調べなおすなど、それなりにまじめにやった。隙間時間とか合間にやったからとにかく大変だった。

③にかんしては「(私が)曲を知る」「(私が)すでに知っている曲をもっとかっこよくしている演奏を聴きたい」という動機によっている。テーマを崩しすぎた演奏は端的に曲を知るという趣旨から外れるのだ。たとえばマヌーシュ・ジャズじゃないけどマイルス・デイヴィスが演奏するSweet Sueは、わたしの大好きなあのファッツ・ウォーラーが歌って弾いたような軽快さも陽気さもないし、メロディーもリズムもまったく違うものになっている。要するに、もちろんかっこよさもわかるけど、テーマがわかる演奏の方がこのプレイリストには合っている(し、私はそっちの方がすき)。もちろん「そもそもジャンゴたちが元の曲をアレンジしまくってるんだけど」という場合もあるだろう。たとえばThe Charlestonがそうだ。そういった場合はいろいろ聴き比べてそのときの気分によって選曲した。

④は、曲を集めている最中に最近、あるいはジャンゴ以降のマヌーシュ・ジャズの動向が気になったため、一応選ぶ基準にした。もちろんジャンゴやグラッペリの演奏を等閑視しているのではなく、むしろどのように歴史を紡いでいるのか、そのことがここでのポイントだ。なんの業界もそうだけど、過去のものをどのように踏まえるのか、とくに「伝統」というものがある場合、どの程度その伝統を利用して新しいものを作り上げるのか、このことはしばしば課題となって立ち現れる。おそらくジャズもそうだろう。端的にどうなのか聴きたいと思ったのが、この基準の動機である。

その結果として、必然的に「後世の音楽家たちはジャンゴ(やグラッペリ)をどのように踏まえているのか」というような趣向のプレイリストができあがった。それでもやっぱりグラッペリが大好きなので、グラッペリもたくさんリストに入っている。

実際に作ってみた!

これがまた大変だった。①と②がとにかく大変だった。まず曲を集めること。いきなりリストにぶち込むとあとで整理できないと思い、「プレイリストを作る用のプレイリスト」を作ってみた(プレイリストのプレイリストは何回か作り直してる…間違って曲を消しちゃったりとか…)。
幸いSpotifyは高度な検索ができるのでそれを駆使して探しまくった。フェイクブックにあるのにマヌーシュ・ジャズやミュゼットのスタイルがSpotifyにないやんけ!って曲もあった。これはわたしのリサーチ不足もあるかもしれない。ちなみに一曲目のAfter You've Goneは95曲集めた。もっとかっこいいのもあるだろうけど、時間の関係上ある程度のところで諦めたし、全部の楽曲をこんな感じで集めまくったわけではないが…。

プレイリストを作る用のプレイリスト。とにかく曲を集めまくって聴きまくった。もちろん一回しか聴いていないものもあるし、途中でスキップした曲もあるし、なんなら聴いていないのもある。それでも知らない演奏家や知らないバンドもたくさん知れてとっても楽しかった!まだまだ増えると思う。

さて、選ぶ作業である。音楽とは状況依存なもので、その時は「最高!」と思っても別の時は「こっちの方がいいな」と別のものがよいと思ったりする。やはりプロの演奏。それぞれのタイミングで最高のものになる。選んだどの録音もかっこいいし、なにを入れても「やっぱこっちが…」となる。先に挙げた基準もあくまで目安であって、実際に選ぶ時はそんなに厳密ではない。もっと細かい基準を書き出したら無限になる。実際に上の基準の書き足しを見ればわかるだろう。選曲とはそういった実践なのである。

できた!

プライリスト用のプレイリストが消えたり、プレイリストそのものを作り直したり…前途多難であった。全部リストに入れたいなあ、という欲を捨てる縛りみたいな遊びを何ヶ月もしてついにできあがった!もちろんリストはマヌーシュ・ジャズやミュゼット(あるいはシャンソン)のもの、あるいはそれらに関連したミュージシャンの録音しか入れていない。それでもやっぱり好きなミュージシャンの演奏は多くなる傾向にあるなあと思う。グラッペリが多いのはグラッペリの演奏が好きだからだし、ティム・クリップハウスもHot Club of Cowtownもそう。でもこの作業で知った演奏家やバンドもたくさん入っている。通勤中、仕事中、余暇、いろんなタイミングで自分が楽しめるプレイリストになった。もちろん、今後リスト入りした曲が変更する場合があるだろう。

おわりに

我ながらお気に入りである。私は非演奏家なので楽器をする方が見たら「なんでやねん」ってものがあるかもしれないけどむちゃくちゃいろいろ聴いて作ったのでよい自信はある。しかし、これから知らない録音にであうこともあるし、やっぱり聴きかえしてみて録音を変更することもあるだろう。プレイリストとはそんなもんである。個人で楽しむものだし、まあよい。なんど聴いてもMon Dieuはエディット・ピアフの歌唱が一番好きだったし、Over the Rainbowはアール・ハインズとロブ・ワッサーマンでめちゃくちゃ悩んだし、ダニエル・ホープ(vln)の演奏いまも本当に美しい。Shineを聴いているけど、ティムの録音よりグラッペリとグリスマンの録音も聴きたくなった。いや!そもそもQHCFのものが一番ジャイヴでかっこいいかもしれない!いろいろ聴いて結局ジャンゴたちの録音に戻ったり…。でも、まあこうやっていろんな曲を聴き比べることができるのもよかったのかもしれない。

もしこの文章を読んでプライリスト用のプレイリストも聴きたいと思った方はSpotifyで検索してみてほしい。すぐに見つかるはずだ。あるいは上のプレイリスト用のプレイリストの画像をクリックするとSpotifyのページにジャンプできるはずだ。

ちなみにこの前ニューオーリンズやディキシーランドのジャズのスタンダード集のFirehouse Fakebookのプレイリストも作った。こっちの場合はスイング、ニューオーリンズ、ニューオーリンズ・ブラスバンド、ジャイヴ、マヌーシュ・ジャズ、といろんなジャンルを横断しているし、どうしても好きではない曲もあったのでむちゃくちゃ大変だった。本当に何ヶ月もかけて作ったんだけど、ある程度は満足している。こちらの話はまた今度。

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