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〈教育実践:生徒会活動〉ICTを活用し、生徒の自治的能力を育む     

未来を生きる子供たちに必要な力とは?

 現在、AIやIOTなどの科学技術の進展は著しく、経済構造は大きく様変わりしつつあります。
社会は凄まじいスピードで変化していて、10年先はおろか、5年先でさえ、先行きを見通すことが難しい状況にあると言えるでしょう。
このような時代の潮流にあたって、ますます重要になる力の一つとして「自律」と「自治」の力が挙げられると考えます。

本校では、この「自律」と「自治」の力を育むためにも、生徒会活動を軸とした「自治的な活動」に力を入れています。
具体的には、生徒がICTツールを自律的に活用し、自らの力で目の前の課題を解決していく過程で自治の力を高めていくというものです。

生徒主体の校則の見直し

 例えば、本校で行なった取組の一つとして、令和4年度に実施した「生徒主体の校則の見直し」が挙げられます。
今日、多くの学校で校則の見直しを行う動きがありますが、本校もその例外ではなく、生徒が中心となり一年かけて校則の見直しを行いました。

大まかな手順は以下の通りです。

1.目的の明確化

 まず、年度当初に「校則を変える意義と目的は何か」を明確にするため、生徒と話合いを行いました。

約1ヶ月ほどの生徒との対話を通して、新しい校則の基盤となる理念(絶対に譲れない大切なこと)を整理していきました。それが以下の4つです。

  1. 一人ひとりの人権の尊重(自由と責任)

  2. 男女の平等

  3. コンプレックスの解消

  4. 心身の健康保持

校則の見直しは、「手段」であって「目的」ではありません。
この活動を通して、これら4つの理念が大切とされる学校を目指していく事が最上位の目的となります。
このことを生徒との対話で共有していきました。
(裏を返せば、これらの理念に対して、生徒は現行の校則に疑問を抱いていたと言えますね・・・)

2.方法の検討

 本校では、校則の見直しの手順も生徒と一緒に考えていきました。

「校則の見直しには、必ず先生達の理解と協力が必要だよ」これは本校の生徒の言葉です。
そこで生徒は、どのような手法を取れば、教職員の理解と協力が得られるか協議を重ねました。

その結果、県内の高校や企業にヒアリングを行い、そこで得られたデータを根拠に校則の見直しを提案するといった方法にたどり着きました。
つまり、校則の意義や是非を学校の中だけの価値観で判断するのではなく、進学先や就職先を含めた、より広い視野で、判断するといったものです。

この活動は、社会でのルールやモラルと現行の校則との相違点に気づく作業でもあります。
この方法は、生徒との話合いで決めたものですが、指導者としての私なりの思いも込められています。

子供たちは、一生学校の中で過ごすわけではありません。
むしろ、人生の大部分は社会に出て生活します。
にも関わらず、学校の中には、社会で到底許されないような、人権を侵害するような校則がまかり通っている場合があります。

学校は、社会の一部分でしかないからこそ、治外法権の場であってはならないと考えます。
生徒の視野を学校の外に広げ、俯瞰的・客観的な視点から現行の校則の問題点を見出し、その改善案を他者にプレゼンし、協働的に解決していくことが重要だと考えました。

3.情報収集(問題の把握)

 生徒が実際に行った活動を紹介します。 
まず、全校生徒にアンケートを実施し、そこから現行の校則に対する疑問点や問題点を抽出します。

次に、本校の進学状況や本県の就職状況を調査し、調査対象とする機関を決定していきます。
この時、幅広い視点から情報が得られるように、県内の高等学校のうち、近隣校から進学校まで特色の異なる6校から情報を得ることにしました。
(これは生徒のアイディアです)

また、企業においても、「サービス」「飲食」「IT」「医療」「公務員」と様々な業種から情報を得て、社会から見たときの、その校則の妥当性を総合的に判断することとしました。(これも生徒のアイディアです)

選択した高校や企業に対しては、ICTを効果的に活用し、Googleフォームによるアンケート調査を実施しました。
ここでは、生徒から疑問の上がった現行の校則の項目に対して、高校や企業がどのように感じるかを調査していきます。
その際、アンケートフォームも生徒自身に作成してもらいました。

※生徒が作成したアンケートフォームのコピーを以下のリンクからダウンロードする事ができます。(ご自由に編集されお使いください)

  1. 企業用のアンケートフォーム

  2. 高校用のアンケートフォーム

4.教職員へのプレゼン

 生徒は、この取組の承認を得るために、生徒指導部会、企画委員会、職員会議と複数回にわたって段階的に提案を行いました。

もちろん、提案の際に使用する資料や原稿も生徒に作成してもらいました。
生徒自身の手で課題を解決していくことにこそ、価値があると考えているからです。

粘り強く取組を続けた結果、見事に教職員の承認を得ることに成功したのです。

※職員への提案に向けて、生徒が作成したスライドや原稿は、上記のリンクから閲覧及びコピーする事ができます。

学校をつくるのは誰か

 本校の生徒会には素敵なスローガンがあります。
それは、「君も僕も生徒会、学校をつくるのは僕らだ」です。
私はこの言葉が好きです。

この言葉には、学校という場におけるシティズンシップの要素が含まれていると考えます。
えてして、学校を変えるのは、管理職や力のある先生だと思われがちです。
ただ、子供たちにも「学校を変えたいとする思いや学校を変える力がある」ということを忘れてはならないと考えます。

子供たちの力を信じて、秘めた力を見出し、それを育て発揮させることも、私たち教師の重要な役割なのではなでしょうか。

年度当初に始まったこの取組ですが、実際に校則の見直しに至るまで約1年という長い期間を要しました。
この実践の中で生徒は、職員会議への提案が通らず悔し涙を流したことがありました。
ただ、そんな時も指示を与えるのではなく「伴走者」として共に解決策を考えていくことで、生徒の「自律」や「自治」の力を少しずつ育む事ができたのではないかと考えます。

おわりに(教育研究助成のすゝめ)

 本実践は、公益財団法人 東京海上日動教育振興基金から「第39回 2022年度 教育研究助成(10万円)」を受けています。
また、「地域・学び手に即した優れた取組」としても選出して頂いたため、更に追加で10万円の助成を受ける事ができました。

東京海上日動教育振興基金 教育研究助成への応募「テーマ」は任意です。
そのため、例年「授業・指導方法の工夫・改善」や「道徳」「総合的な学 習の時間」「特色ある学校作りを目指した取組」や「ふるさと学習」など、教育をめぐる諸情勢に対応した様々な分野にわたる課題への取組が報告されています。

是非、興味のある方は以下のリンクをご確認ください。
それぞれの学校現場の教育課題の解決に向けて取り組んできたことを「研究論文」という形で外部に発信されてみてはいかがでしょうか。

今後は、私が過去に行った教育実践(報告した教育論文や報告書の内容)についても、少しずつ発信していけたらと思います。
私の勉強してきたことが、微力ながらも現場の先生の力になれば幸いです。

※本記事に記載されている実践の詳細を知りたい方は、以下のファイル(実践報告書)をダウンロードされて下さい。


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