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ワニの驚異的な潜水能力の秘密がヘモグロビンの特殊な性質にあることが明らかに


ワニの潜水能力の謎を解明!ヘモグロビンの新機能は複雑な進化の産物だった


ワニは1時間以上も息を止めて水中に潜ることができる驚異的な能力を持っています。この能力により、ワニはシマウマなどの大型の獲物を水中に引きずり込んで溺死させることができるのです。米国の研究チームが、ワニのこの能力の秘密が、酸素を運ぶタンパク質・ヘモグロビンの特殊な性質にあることを突き止めました。

ワニのヘモグロビンは、重炭酸イオンという物質と結合することで、酸素親和性を変化させることができます。潜水中は血中の重炭酸イオン濃度が上昇するため、ヘモグロビンが酸素を手放しやすくなり、体内の組織に効率よく酸素を供給できるのです。一方、他の脊椎動物のヘモグロビンはATPという物質と結合することで酸素親和性を調節しています。

研究チームは、ワニとワニに近縁な鳥類の祖先の化石からヘモグロビンのアミノ酸配列を復元し、ワニ特有のヘモグロビンがどのように進化したかを調べました。その結果、重炭酸イオンとの結合能は、わずか21個のアミノ酸の変化によって獲得されたことがわかりました。しかし、この21個の変化をヒトのヘモグロビンに導入しても、重炭酸イオン感受性は再現できませんでした。つまり、ワニ特有のヘモグロビンの性質は、他の動物には簡単には移植できないのです。

ワニのヘモグロビンの驚異的な機能は、ごく少数の重要なアミノ酸の変化と、その他多数のアミノ酸の相互作用の産物だったのです。このような複雑な過程を経て、ワニ独自の潜水能力を支える仕組みが長い進化の時間をかけて作り上げられてきたのでしょう。進化のメカニズムの精妙さと不思議さを感じさせる発見だと言えます。

ワニの驚異的な潜水能力

ワニは、潜水の目的によって、水中にとどまる時間を変えることができます。通常の自発的な潜水では、10〜15分程度水中にとどまります。しかし、脅威から身を隠すために潜水する場合は、30分以上とさらに長くなることもあります。追い詰められた場合、ワニは最大2時間も水中にとどまることができるのです。

ワニは特殊な心臓と循環器系を使って水中で呼吸します。ワニの心臓は人間と同じく4つの部屋に分かれており、これにより肺を使わずに酸素を含んだ血液を体中に送り出すことができるのです。さらに、ワニの心臓の左右の大動脈の間には「パニッツァ孔」と呼ばれる小さな開口部があり、これによって血液は肺を迂回して直接体の組織に流れることができます。この適応によって、ワニは水中でのエネルギーと酸素の消費を抑えることができるのです。

ワニの驚異的な潜水能力は、このような特殊な心臓と循環器系の適応によって支えられていたのです。通常の動物なら数分で溺れてしまうような長時間の潜水を、ワニは難なくこなすことができます

資料

https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.11.049


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