書評:なぜ私たちは死ぬのか

Ramakrishnan, Venki (2024) Why We Die: The New Science of Ageing and the Quest for Immortality. Hodder & Stoughton, Hachette. 320ページ, Kindle版$15.99, Amazon.co.jp 2625円

2009年にノーベル化学賞を受賞したRamakrishnan, Venkiによる(多分)2冊目の一般書。老化と死について、分子生物学と進化学の視点から老化プロセスに関する理論を解説し、不老不死の文化にまで論じている。
12章からなる本書の最初の2章しか読み終わっていないが、幅広い知識と深い見識を備えている。わかりやすい文章で、少し待てば日本語の翻訳も出版されるだろう。300ページで16ドルという値段もうれしい。

目次
1. 不滅の遺伝子と使い捨ての身体
2. 速く生き、若くして死ぬ
3. マスターコントローラーを破壊する
4. 終わりの問題
5. 生物時計をリセットする
6. ゴミをリサイクルする
7. より少ないことはより多いことである
8. 下等な線虫からの教訓
9. 我々の中の密航者
10. 痛み、痛み、吸血鬼の血
11. 変人か予言者か?
12. 我々は永遠に生きるべきか?

第1章は死がなぜ進化したのかについて、これまでの学説を紹介している。
「なぜ人は死ぬのか、という問いを最初に考え始めたとき、私は素朴に、おそらく死は、資源を奪い合うために古い世代がうろつくことなく、新しい世代が繁栄し繁殖できるようにするための自然の摂理なのだろうと考えた。その結果、遺伝子の生存をより確実にすることができるのだ。さらに、新しい世代の各メンバーは、親とは異なる遺伝子の組み合わせを持つことになり、生命の山札が常に入れ替わることで、種全体の生存が促進されるのである。」
「この考え方は魅力的だが、間違いでもある。問題は、個体を犠牲にして集団に利益をもたらす遺伝子は、集団の中で安定的に維持することができないということだ。進化において「詐欺師」とは、集団を犠牲にして個体に利益をもたらす突然変異のことである。例えば、集団に利益をもたらすために、老化を促進する遺伝子があるとしよう。もしある個体がその遺伝子を不活性化する突然変異を持ち、長生きしたとすると、その人は集団に利益をもたらさないにもかかわらず、子孫を残す機会が増えることになる。結局、突然変異が勝つのである。」
個体淘汰(選択)と矛盾しない考えとして、フィッシャーとホールデンは若い個体に有害な変異は淘汰されるが、繁殖を終えた個体に有害な変異は淘汰されないと考えた。その延長線上でメダワーは突然変異蓄積説を提案。GCウィリアムズは拮抗的多面発現説を提唱した。1970年代になって、カークウッドが生物の老化 は、長寿と、再生産的成功によって遺伝子を受け継ぐ可能性を高めることとの進化的トレードオフで あるという「使い捨て体細胞説」を提唱した。

余裕があれば、2章以降も紹介します。

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