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ティール×選挙 (詳細編 前半) 〜 2ヶ月で創るPre-Tealなボランティア組織

ティールで選挙を戦ってみた」シリーズも今回で最後の予定でしたが、書き始めると長くなったために、詳細編も上下2つの投稿に分けることにしました。なお、導入までの経緯はこちらを、導入した効果は第二回をご参照ください。

今回は、具体的に何をやったか、その詳細を書きます。ホラクラシーに関して深い知識や実践経験の無い方には、マニアックすぎる内容かもしれません。ホラクラシーそのものの解説は行いませんので、不足している知識は各自補って下さい。

前回までで説明してきたように、この取り組みは選挙に特化しているわけではなく、もっと一般的に応用できる試みと考えています。「ホラクラシーの知識は乏しいが、ティール的な考え方に共感するメンバーで構成されるグリーン組織で、1,2ヶ月間にチームをプレティール化する試み」として参考にしていただけたらと思います。

まずは、サマリーを。

■あえてやらなかったこと(ホラクラシーを簡素化した点)

主に、メンバーの学習コストと短期間での成果のバランスをとって、以下のことを手放しました。

・ホラクラシー向けグループウェアGlassfrogの導入をしなかった
・必ずしもすべての役割を「ロール」化しなかった
・「チェックリスト」や「メトリクス」を一部の「ロール」で明示化しなかった
・一部のコミュニケーションに、ロールtoロールを強制しなかった

運用では以下のような変更を行いました。
・タクティカルMTGでの「チェックリスト」や「メトリクス」のレビューは、全てのロールに対して行わず、ロールからの自発的な報告を元に、一部を対象に行っていた
・タクティカルMTGと、ワーキングタイムをあえて分離しないときもあった
・ガバナンスMTGを別の日に行わず、タクティカルMTGの直前に行ったり、タクティカルMTGの中で行った

■想定通り上手くいったこと


・『実務で掴むティール組織』で書かれている「目的俯瞰図」を作成・常に更新し、全体が分かるようにした
 →重要な役割を「ロール」化したことで、目的に対してどのような役割が必要か、そのうちどの役割が不足しているかが明確になった
・「Tension(じゅんかん)」の扱い方を丁寧に行った。
 →「Tension(じゅんかん)」の大切さや、それをベースとしたチーム運営・意思決定のあり方を理解してもらった
・チームをコアメンバーとサポートメンバーに分け、前者にのみホラクラシーを適用した。また、前者と後者でslackとFacebookグループを使い分けた

■伸びしろが残った(思ったほどは上手く行かなかった)こと


・慢性的なマンパワー不足であった。ロールを担ってくれる人がいないと、その部分の目的は達成されにくく、選挙戦という点では、成果に最もマイナスの影響を及ぼしたのはこの点であった
・週1のタクティカルMTG以外で、Tension(じゅんかん)がメンバーが次々に上がってくることはなかった
・週1のタクティカルMTG以外での、ロールtoロールの自発的なやりとりが、投票日の直前まで起こらなかった

上記のサマリーで、ホラクラシーの実践経験が豊富な方は大方イメージができたのではと思います。
以下、詳細を説明してゆきます。長文となり恐縮です。

■大方針: 学習コストの最小化を目的としたホラクラシーの簡易化と、適用範囲のコアメンバーへの限定

今回の「ゆるクラシー」ともいうべき「ホラクラシーの簡易版」を導入した目的は、前々回でお伝えしたとおりですが、一言で言い表すと、選挙の結果如何に関わらず、選挙活動後も社会を良くしてゆく仲間としてメンバー間の関係性が強化・持続することでした。

元々、候補者も活動をティール的に進めたいという希望は活動当初からメンバーに示していましたし、メンバーも多くがティールに興味を持っていました。一方で、私たちのチームは組織の勉強会ではありません。大前提としては、選挙活動という短期間の勝負に挑戦するチームです。
ですので、短期的に当選という成果を出すことも念頭に置きつつ、前述したより大きな目的を達成する必要がありました。
従って、ホラクラシーに対する学習コストを最小限にする必要があり、取り組む範囲を限定しました。それが、先に述べた「あえてやらなかったこと」です。

また、選挙のボランティアチーム全体でホラクラシーを導入することは「しませんでした」。詳細は後述しますが、選挙活動のチームという性質上、次から次へと新規メンバーが入ることが予想できたため、メンバーをコアメンバーとそれ以外のボランティアメンバーに分け、前者にのみホラクラシーを適用することで、後者のメンバーは新しいことを学ぶ必要なく活動に参加できる様にしました。
具体的には、週1のタクティカルMTGへの参加経験があるか否かで、コアメンバーであるか否かを決めていました。
従って、ボランティアとしてチームに関わる大半のメンバーは、今回の取り組みの中心部分を知ることはありませんでした。
しかしながら、結果編で述べたようなメリットは、ボランティアメンバーを含めたチーム全体に波及したと考えています。

■あえてやらなかったこと1: ホラクラシー向けグループウェアGlassfrog

ホラクラシーを実践する上でグループウェアGlassfrogの活用は必須に近いものがあります(他に類似のグループウェアも存在)。
しかしながら、新しいシステムの導入・利用には心理的な抵抗や学習コストがかかるため、今回は導入しないことを決めました。

代わりに、Googleスプレットシートで「ロール一覧(実際のものから一部抜粋)」を作成し、メンバー全員と共有し、活動中に応じて更新し続けました。ロールの各要素(Purpose, Accountablity等)に加え、アサインされているメンバーの名前、ロールのchecklist, metrics, projects もそれぞれ列として記載しています。

ロールの提案・修正は、通常のホラクラシーと同様に、ガバナンスMTGにて扱い、その都度このロール表を更新しました。ガバナンスMTGで行うプロセスも正規のホラクラシーのプロセスのとおり行いました。

■あえてやらなかったこと2: 必ずしもすべての役割を「ロール」化しなかった

選挙のチームの特徴として、常に新しい人間がチームに加わるという点があります。投票日に近づくにつれ、新規のメンバーは、いわば指数関数的に増えてゆきます(笑)。そこで、全員にホラクラシーの哲学を理解してもらうことは手放しました。

チームをGreenの領域と当該取り組み「ゆるクラシー」によるPre-Tealの領域に分けました。メンバーも、ボランティアメンバーとコアメンバーに分け、新しい人間がチームに加わる際は、ボランティアメンバーとしてまずは何らかの活動に参画してもらうことにしました。そして、活動と共に、週1回の定例タクティカルMTGに参加することで、ホラクラシーの基礎を学び、「ロール」へのアサインを経てコアメンバーになってもらう仕組みを整えました。

幸い選挙活動においては、ガバナンスMTGにて目的やアカウンタビリティーを明確にする必要がないような、既に目的や仕事内容が明確な役割がいくつかありました。また、その役割を複数人で行ったほうが良い活動がいくつかありしたので、そのような役割を中心にホラクラシーのような厳密な形では「ロール」化せず(より正確にはコアメンバーからは「ロール」あるいは「ロール」化されうる役割として扱っていても、ボランティアメンバーへはホラクラシーへの理解がなくとも参加できる様に表現していた)、新しいメンバーには、まずはそれらの役割に参加していただくことにしました。

投票日直前のメンバー数の急増は、それまでにコアメンバーがホラクラシーをもとに各「ロール」の活動を通して、土台を築いたタスク群に入ってもらうことで、大きな混乱や、指示待ちなく、上手くゆきました。

■あえてやらなかったこと3:「チェックリスト」や「メトリクス」を一部の「ロール」で明示化しなかった

「ロール」化しなかった役割は「チェックリスト」や「メトリクス」を明示化しませんでした。また、「ロール」化した役割の一部も、それらを明示化しませんでした。また、活動におけるすべてのコミュニケーションに、ロール to ロールを強制しませんでした。しかしながら、定例ミーティングに参加しているメンバーを中心に、ロール to ロールの感覚は実践してもらいましたし、SoulとRoleの分離の感覚もある程度理解してもらえるように、ミーティングを行いました。

■コアメンバーによる週1回オンラインでのMTGがホラクラシーの適用範囲

このように、メンバーがホラクラシーの実践を学ぶ機会を、週1回の定例MTGに集中されました。メンバーも忙しく物理的にもライフスタイル的にも多様だったため、当該定例MTGは、zoomによるオンラインミーティングでした。幸い、メンバーにリモートワークやオンラインによるコミュニケーション・ファシリテーションに慣れているメンバーが多く、オンラインであることの障害は大きくありませんでした。

週1回の定例MTGでは、Tension(じゅんかん)の丁寧な扱い方や、ガバナンス提案の処理の仕方などを通し、ホラクラシーの哲学もしっかり学べます。一方で、ホラクラシーの哲学の理解なしに、ホラクラシーのルールを適用しても、負の効果も生みかねないため、この定例オンラインミーティングに参加できないメンバーには、グリーンな組織の考えの元、通常の役割分担・意思決定を行う運用をしたというのは前述の通りです。

また、素人ばかりでのはじめての選挙という性質上、ガバナンスMTGの開催頻度も高く、週一で行う必要がありました。したがって、実際の運用では、1回のzoomミーティングの中で、タクティカルMTGとガバナンスMTGを同時に行うこともありました(もちろん、きちんと頭は切り替えた上で)。また、タクティカルMTGから派生して、role to roleのワーキングMTGも直後に行うなど、運用上もフレキシブルにしました。

■やったことで上手くいったこと1: 目的俯瞰図の作成と、図からのロールの生成

前々回にて説明したように、一番最初に目的俯瞰図の作成を行いました。(参考: 『実務で掴むティール組織』
まず最初に、候補者の頭の中にあることを書き出してもらい、それを目的俯瞰図のたたき台としました。
この時点で既に約2ヶ月、候補者は孤独の中で一人で活動を抱えていましたので、多くの情報が候補者の頭の中にしかありませんでした。
目的俯瞰図の作成による組織のトップの頭の中を「見える化」することは、組織がTealに向けてシフトしてゆく最初の段階(="Pre-Teal"段階)として重要なことです。この図が作成されただけでも、多くのメンバーが松浦の考えや、これからしなくてはならないこと、チーム全体で起きていることを俯瞰することができたという声がありました。チーム松浦における活動の最初のターニングポイントとなったと考えています。

松浦目的俯瞰図First


なお、この最初のバージョンでは、まだ旧来の(類似の)図の域を出ておらず、各タスクや役割が全体の目的といかに繋がってゆくかを示す点では不十分した。そこで、最もノウハウを持つ私が、この最初のバージョンを元に、目的俯瞰図を精緻化してゆきました。具体的にはチーム全体の最終目標が再上部のノードとなり、下にはそれを達成するために必要な役割・行動・状態を書いていく作業をします。要素還元的な考え方で組織図やタスクリストを作る頭の使い方から、下のノードは上のノードの目的を達成するためのものであるという目的俯瞰図の考え方に変化してゆく過程が、次のバージョンです。

松浦目的俯瞰図Middle

改善バージョンでは、このチームが最終的に達成したいゴールを実現するために、どんな役割・行動・状態が必要かという全体把握ができます。また、それぞれの役割・行動・状態が、他の役割・行動・状態とどのような関係にあるのか?また、それらがチーム全体のゴールとどう関係するのか?が把握しやすくなっています。また、当選というチーム全体の目的達成に対して、どのような役割が必要か、そのうちどの役割が不足しているかが明確になりました。

次に、このバージョンを最終形態に発展させていきます。それぞれの役割・行動・状態を、ホラクラシーのロールとして定義してゆきます。また、そのロールに紐付けられるMetricsを図に反映させていきます。ガバナンス提案を通してロール化したものには、メンバーのアサインが行われます。これらのアップデートは常に行われ、目的俯瞰図は常にメンバーと共有されます。
先に述べたとおり、一部の役割はあえて「ロール」化しませんでした。しかし、それらの役割も図の中には記載されています。

松浦目的俯瞰図Latest

続きは、詳細編後編へどうぞ。

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