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スクリプトリウムvol.3|永井健一《1》|草は緑、空青し

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Text|高柳カヨ子

 淡くにじむ水彩の色合い。
 水気をたっぷりと含んだその色彩は、どこまでも静謐である。
 永井健一が描く作品は、孤独と文学を愛する精神のしっとりとした静寂で満たされている。

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 ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』は、その饒舌で情報量の多い語り口と多層的な内容から、様々な読み方ができる作品だ。
 一般的には、主人公オーランドーが男性から女性に変化し300年以上に渡って生き続けるという、その外連味たっぷりの設定に注目されがちだが、この小説の面白さはそれだけではない。
 なによりも全編を通じてオーランドーは詩や文学に取り憑かれているのであり、そこに通底するのは言葉を通じて如何に表現するかという創作論である。

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 小説冒頭で鵞ペンをインクに浸して夢中になって詩を書き続けるオーランドーの姿を、永井は優しい月の光の中に浮かび上がらせる。
 あふれ出る詩情は、まだ少年であった彼が過ごす英国の草花となって書きつけられ、詩人たちの永遠のインスピレーションの元である自然を紙の上に表そうとする。一心不乱にペンを走らせるその姿は、まだわずかな人生しか生きていない彼の中で、詩作が既に大きな位置を占めていることを示している。
 数多の本に囲まれた記憶と共に、少年は花の香りを草いきれを植物の息遣いを、言葉に止めようと書き続ける。

月下推敲_額

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 オーランドーがその人生を通して書き続ける散文詩『The Oak Tree』。
作中に登場するその詩篇は、幾たびもその根本に寝転び思索に耽った楢の木の巨木をそのタイトルに掲げている。

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 楢の木がそびえ立つ丘の上で、青年の姿になったオーランドーは、四季折々に色や姿を変える草木に囲まれ鳥の声を聴きながら、詩の精神について思いを馳せる。

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 永井の筆は、オーランドーの著作でありその創作の源でもある楢の木を象徴的に配し、書かれた詩篇の言葉とそれを書き付けた紙片を入れ子のように描く。青年の姿を描いた紙からこぼれ落ちる植物は、汲めど尽きない想像力のようだ。
 文字通り青々と茂る楢の木の葉を手に取り、自らの言葉を生み出さんとする青年の自由闊達な精神が、それこそ一編の詩のようにこの画面に写し取られている。

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 アクリル、水彩、鉛筆、それぞれの特徴を活かしながら、あわやかな光が差し込む瑞々しい画面。
 植物は光と水なしでは生きられない。
 永井健一の作品の中で、オーランドーと草木は時空を超えて生き続ける。

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【お知らせ】永井健一さまの原画作品は会期後半にもご紹介いたします。また、本展にてローンチする霧とリボンのポプリブランド《Du Vert au Violet》とのコラボ商品のお披露目もありますので、ぜひご高覧ください。

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永井健一 | 画家 →HP
大阪大学文学部美学科卒業後に作家活動を開始。個展や企画展等で作品発表をしながら、イラストレーターとしても活動している。画中の人物は、夢現に漂う叢雲の中で願いや想いを折り重ねて結晶化する。book opusとして絵画に詩や写真を織り交ぜた作品も制作している。

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高柳カヨ子|精神科医・元法医学教室助手・少女批評家 →note
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション/gallery hydrangea 「『少女観音』〜12人のアーティストが描く篠たまきの幽玄世界」キュレーション。
あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰、「少女性」をテーマに展覧会《少女の聖域》を定期開催している。



00_通販対象作品

作家名|永井健一
作品名|月下推敲

アクリル・水彩・鉛筆・色鉛筆・アルシュ紙
作品サイズ|18cm×26.5cm
額込みサイズ|32cm×40cm
制作年|2021年(新作)

月下推敲

月下推敲_額

00_通販対象作品

作家名|永井健一
作品名|The Oak Tree

アクリル・水彩・鉛筆・色鉛筆・アルシュ紙
作品サイズ|22cm×14.5cm

額込みサイズ|34cm×28cm

制作年|2021年(新作)

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