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RE-LIFE 第三章 疾患という長いトンネル


※気分が悪くなる内容ですがご容赦願います。
長女の目線で綴られたRE-LIFEの概要は過去記事をご参照願います。

1 痛み、不眠、心臓疾患。負の連鎖

父は復帰後、直ぐに別の部署に配属された、なぜか父の会社の中で最も過酷で高度な部署だった。

父は地方への出張が多くなり、大きなカバンに薬を入れて会社にいった。家には数日戻らなかった。

父はがむしゃらについていった。まだ体力がついていかず、一駅一駅休みながら、出社していた。
会社では同僚に体調不良を悟られないように、気分が悪くなった時は、トイレで吐いていた。

高熱を出して出張に出た父は、飛行機に乗れず、空港の緊急病院に運び込まれて、その後、家に戻ってきたことがある。その日の晩も、電話でずっと誰かに謝っていた。

結局、父の体力は続かなかった。


一層とボロボロになっていった。
夜中は寝室から、痛みに耐えられず、父のうめき声が聞こえた。
痛みによる不眠の為に処方された睡眠薬で、ろれつが回らなくなった。
毎日ふらついていた。

それでも、父は会社には這ってでも出社していた。

恐らく父の意地なんだろう。

2.世の中は理不尽で出来上がっている。


そして、父は使い物にならなくなった。
父は壊れたおもちゃのようになった。

ある日、疲れ果てた父は職場で倒れた。
父は心臓を患った。
悪性の不整脈で、大学病院に運び込まれた。
病院から家に電話があった。
父はそのまま入院した。
電話を切った母は泣いていた。

「どうしたの? ママ?」

「なんでもない。 パパ、今日は仕事で遅くなるって。」と母。

私でも悪いことが起きていることは分かった。
父はその日帰ってこなかった。
母が、父の実家と電話で話をしている。

次の日、おじいちゃんとおばあちゃんが上京してきた。
おじいちゃんとおばあちゃんは、退院した父を見守り、何か重要な話を夜していた。何の話かは私はわからない。

おじいちゃん、おばあちゃんが来てくれて、弟たちは嬉しそうだった。
私も弟たちのように無邪気でいられれば良かった。そう、

世の中は理不尽で出来上がっている。

当時、中学生だった私自身、世の中の理不尽さを目の当たりにしていた。
順番のように廻ってくる「いじめ」だ。人の心をぶちぶちと、むしりとっていく。

大人の世界も同じなんだなと、私は気づいた。

壊れた父は、退院後すぐに出社した。会社の周囲の目は冷たかった。

「伊藤さん、ほんと、ちゃんと仕事してくださいよ。お願いしますよ。」

父に向けられた、若い社員達の言葉。
この言葉は、後程、父のPCのメールを盗み見して、私は知った。

世の中は理不尽で出来上がっている。

こうやって、父は今まで築き上げた実績を失い、同僚達やパートナー企業との信頼関係などを全て失った。

ここから、父が地を這うような、長い長いトンネルのような時期が続くことになった。

父は一気に老けた。

頭髪もごっそり抜けていった。
未だ30歳後半の父は、既に疲れ切った老人のようだった。
父からは、投薬が原因の独特な体臭がでていた。

リビングで、父が母につぶやいているのを、偶然、私は聞いた。

最近、僕は臭うみたいでさ、会社の女性達からクレームが出てさ。臭うかな?

父が一体何をしたというのか?
会社の都合で突然、大きな仕事を一人で任され、体を壊し、それでも這いつくばって職場に行き、心臓が壊れた。

そんな人間を臭いというのは許されることなのか?
中学生の世界も、社会人の世界も、どこまでいっても、世の中とはそんなに理不尽なのか?

世の中は理不尽で出来上がっている。

父は、人間は、ここまで落とされたら、もう這い上がることは出来ないだろうと、私は思った。

会社から、はじき出された父。 


はじき出された父は、なぜか、社外の「コミュニティー」に積極的に参加するようになる。
当時の私は、別にそんなことに関心もなく、気にもしなかった。自分のことで精一杯だったし、哀れだと思っても、私にはどうすることも出来ない。

父が、社外での繋がりを求めるようになった理由を、私は大きくなってから母から聞いた。

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