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探究テーマを設定しよう~「やらされ探究」を卒業するための理論と方法~

1.探究で設定する課題=自己の生き方あり方と不可分なもの


探究のテーマ設定について、文部科学省からは、探究学習全時間において占める割合を1/3以上にすることが望ましいとの話がある。この背景には、総合的な学習の時間から総合的な探究の時間に変わったことがあるだろう。これまでの「総合学習」でも探究的な学習はおこなわれてきたが、「総合探究」では一層自分との関わりに重点を置き、自分の在り方生き方とと不可分な課題を探究テーマにすることが求められている。

「全国高校生 マイプロジェクトアワード」 共有資料より


2.探究テーマ・課題は大別すると5種類に区分される

どのような探究テーマ・課題にするのかを決定するにあたって、大別すると5種類に区分される。

佐藤浩章「高校教員のための探究学習入門」ナカニシヤ出版 p31 (一部改)


探究学習に関心をもって取り組んでもらうには、表①や②が良い。とりわけ、やる気を継続させるには、①の自分の「好き」を根幹に据えた探究テーマをが望ましいと私は考える。

ちなみに後半で紹介するワークショップは①×④「好き×社会課題(SDGs)」型のテーマ設定をする探究ワークショップだ。主体性のある探究学習を展開するためには、少なくとも「自分の将来につながること」「大好きで熱中していること」もしくは、「困っていること・許せないこと」を起点として、探究テーマを生成するとよいと考える。

③の利点は、フィールドワークがしやすく、「グローカル(Glocal)」な視野を養うことができることかもしれない。グローカルとは「グローバル(Global:地球規模・世界規模の)」と「ローカル(Local:地域・地元の)」を掛け合わせた造語。「地球規模の広い視野をもって地域に根ざした行動をすること」といった意味だ。SDGsだと規模が大きすぎてイメージしづらい生徒も、地域の課題からアプローチすることで自分ごと化しやすいと推察される。これに接続させるためにSDGsのみならず、日本の課題についてもワークショップでは扱っている。(後半で紹介)

⑤については、大学で学ぶ内容に接続し、より学問の深淵をのぞくことごでき魅力的なように感じる。しかし、中高生で理解するにはいくらか困難な内容が含まれる場合もあるので注意が必要だ。また、大学レベルのリソースや専門家の助けが必要となる可能も高い。

④のような横断的・総合的な社会課題(SDGs等)を探究テーマに据えることは、これからの教育を考える上で最も重要であるといっても過言ではない。日本の教育の問題は、生徒が社会課題に関する関心が低く、当事者意識に欠けていることだ。エージェンシーの欠如ともいえる。

2019.11 日本財団「18歳意識調査」

他の記事を読んでくださっている方は、またこれかよ(笑)といった感じかもしれませんが、上記の図表をご覧ください。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」です。世界9カ国の17~19歳各1000人の若者を対象に、国や社会に対する意識を聞いたものです。「将来の夢を持っている」「自分は責任ある社会の一員だと思う」「自分で国や社会を変えられると思う」に対して肯定的に答えた割合は最下位でした。日本の子どもたちが今受けるべき教育は、単に知識を蓄えるだけの授業ではなく、SDGsをはじめとした実社会とつながるテーマを題材に、自分のありたい姿や社会のあるべき姿についてロングスパンで考えられるような探究学習だと考える。

最近おこなわれた「義務教育の在り方ワーキンググループの中間まとめ」からも同様の空気を感じ取れる。民主的で公正な社会を実現する場としての学校の価値を最大化していくことが重要という文言が入ったそうだ。学校の役割が変わってきたことを実感するとともに、これからの学校は社会課題について考え、アクションを起こす場となることを示唆している。

個別最適な学びと協働的な学びを考えるオンライントークイベント(主催:北大路書房)
上智大学 奈須正裕教授 スライド資料


3.「やらされ探究」にならないために「ロジャーハートのはしご」を登ろう

実際、「持続可能な社会の創り手」の育成が叫ばれていることを鑑みて、④をテーマにした探究学習を展開する学校は非常に増えた。もはやSDGsに関する取り組みを一切していない学校の方が珍しい。その分、ウォッシュな感じで終わってしまっているところも多いような、、

一方で、SDGsを入口とした場合、上手くもっていかないと自分ごと化しづらく、やらされてる感のある探究になってしまう恐れがある。「やらされ探究」は、深い学びにつながらない。むしろ興味もないのにセンシティブな問題に土足で踏み込み、状況を悪化させる懸念さえある。

ニューヨーク市立大学のロジャー・ハートが子どもの社会参画について理論化した「子どもの参画のはしご」で考えれば、上段を目指すことに等しい。やらされ探究にならないために、下図をもとに考えてみよう。生徒がどの段階まで梯子を登っているかで、教師が生徒の主体性をどこまで真に尊重できているかを吟味することができる。

なお、ハートの梯子モデルは①~⑧の段階のみであるが、下図はOECDのEducation2030プロジェクトで考案された「共同エージェンシーの太陽モデル」にあるレベル0も加えた形で作成した。レベル0は、大人と生徒ともに生徒の貢献可能性を否定していて、大人がすべて主導し、すべての意志決定をおこなう。生徒はただ「沈黙」している状態である。

なお、レベル0を新たに加えた理由は、レベル0を除いて子どもは本来、潜在的に「主体性(エージェンシー)」を発揮したい存在だということを表している。

レベル1の段階は、操られている段階である。つまり、大人が自分たちの言いたいことを、あたかも生徒の主張かのように見せかけるものだ。
レベル3においても形式的な参画でしかなく、大人が生徒に情報を十分に与えず、あらゆることの選択肢がない状態。
レベル4になると生徒が大人から必要な情報(プロジェクトにどのようにかかわっているか、なぜかかわっているか等)を得ることができ、プロジェクト内に意見も取り入れられる。
最も高い状態のレベル8の段階では、大人と協働して生徒主導で意思決定がおこなわれる。

※すべての場合において上段が望ましいという訳ではないことに留意したい。

レベル3までの参画は、生徒の学びや成長につながらない。
「全国高校生 マイプロジェクトアワード」 共有資料より

下段のレベル3までは、まさに「やらされ探究」であり、仮に大人の力によって賞を取れたり成果がでても、子ども自身の成長にはつながらない。(上図の左上象限)中段付近の4~6の段階でも基本的には大人が主導した状態である。やはり、大人と対等にパートナーシップを築いて生徒主導でおこなわれる上段の状態を目指したい。

アルフィーコーンのやる気を引き出す「3C=contents(内容)choice(選択肢)collaboration(協働)」から考えても納得がいく。自分と関わりが深く興味関心のある探究内容を自ら選択(生徒主導で)できるからこそやる気が引き出される。加えて、協働で取り組む場面を増やせればなお良いだろう。

やらされ探究にならないよう、生徒がハートの梯子のどの段階にいるか定期的に確認するとよいだろう。

4.好き(will)とSDGs(need)をかけ合わせて、探究テーマを設定しよう


これまで見てきたように、単に社会課題だけをテーマにしても「やらされ探究」になる恐れがある。だからといって、自分の興味関心にそったテーマなら何でも良いのかという問題がある。それこそ差別を助長するものや原子爆弾の開発といった探究テーマもありになってしまう。

したがって、自分の興味・関心(will)と社会における課題・必要性(need)をかけ合わせた探究テーマの設定が重要だ。特に「好き」や「許せない」「困る」を起点にして、実社会の課題やSDGs等とかけ合わせることを目指したい。

「全国高校生 マイプロジェクトアワード」参加時 共有資料より


最終的には「できる」=実現可能性(Can)についても考慮しなければならないが、まずは(Will)興味・関心を深堀して(Need)必要性・課題とつなげていくのが得策だ。

ちなみに、林 裕文(はやし ひろふみ)先生のいる福島県立ふたば未来学園高等学校では、下記のようなアクションが生まれたそうです。

5.【好きからはじめるSDGs探究】ワークショップ


ここで私が実施している【好きからはじめるSDGs探究】ワークショップを紹介させていただきます。(急にですます調ですがお許しを、、である調で実践を紹介すると何か偉そうだし、、)

なお、下記の青稜中学校・高等学校さんでおこなわれたワークショップを基に、いくつか要素を加えてアレンジしたものとなります。


博報堂DYグループ「Q&Action for SDGs」チーム より
SDGs for School 認定エデュケーター 共有資料



自分の「好き」と「SDGs(社会課題)」をかけ合わせて、探究テーマをつくります。よくあるような単にSDGsを知識として習得することや、遠い発展途上国の課題について学ぶことはしません。

まず、自分が好きなモノ・コトを出発点として、それがどんな要素で構成されているか分解する。(STEP1)ちなみに「好き」なことではなく、「困っている」「許せない」ことを分解するのも面白いです。


次に、その要素のうちSDGsや日本の社会課題と繋がっているものが無いか、その接点を丁寧に探っていく(STEP2)ことでオリジナルの探究テーマ (マイプロジェクト)をつくるワークショップです。

青稜中学校さんでは、この3つの目標にしぼって掛け合わせたようです。


私は事前段階として、「SDGsについて楽しみながら本質を理解してもらいたい」「自分の足元から社会課題について考えられるようになってほしい」そんな思いから下記のようなワークショップも実施しています。(詳細は別の記事にして紹介予定)

※上記のSDGsワークショップも全国津々浦々どこでもやらせていただきますので、お気軽にお声かけいただければ幸いに存じます!

また、「好き」とかけ合わせる社会課題はSDGsに限らず、下記リンクの日本の社会課題31も対象にするとこれまた面白いです。こちらはSDGsよりも身近でイメージしやすく、掛け合わせやすいかもしれません。めっちゃおすすめです!テーマの分類で扱った地域の課題(表の③)とも相性が良いかもしれません。

日本の社会課題31 社会課題解決中マップより
日本の社会課題31 社会課題解決中マップより



他、SDGsと掛け合わせる際の工夫の一つとしては、17の目標をもう少し詳しく見るために、169のターゲットがイラストとともに分かりやすく短冊になったものも活用する方法もございます。



6.「好き」×「SDGs」ワークショップ実際の様子

ここで、好きからはじめるSDGs探究」ワークショップの様子を少しだけ紹介させていただきます。たった1時間のワークショップながら、示唆に富む面白いアイデアがでてきた。

山藤旅聞先生の事例をワークショップ内でもよく紹介しています。
自分の好きを分解している様子
カブトムシが好きで自宅で繁殖させているそう。

こちらは、カブトムシを養殖することで、乱獲を防ぎ環境や生物多様性の保護につなげるもの。フンを植物の肥料に活用するといった内容も。養殖したカブトムシを売りながら、環境にも良い影響を与えたいとのこと。まさにSDGsの鍵となる経済と環境のトレードオフを打破する取り組みの一つになりそうだ。

こちらは、寝ることが大好きとのこと

寝ることが大好きな生徒がたどり着いたアクションはこちら。そこまでたくさん分解して広げられていないものの、非常に良いアクションが生まれた。※たくさん分解できれば良い訳ではない。その名も「緑の草原で寝ようの会」だ。キャンプブームで実感するように自然の中でゆったり過ごすのは、非常に気持ちが良いとともに、自然に対する畏敬の念を抱けそう。実際に学校で企画したらと想像するだけでワクワクしますね。

こちらは好きな「美術」からSDGsの目標5.8.14.15.16繋がった例
短時間でこれだけ広げられる創造性溢れる高校生も


7.「好き」×「社会課題」探究で賞を受賞し、新聞に掲載された例

ちなみに、下記は「図書館」をもとに分解して、ポストSDGsで注目されている課題でもある、「居場所」「孤独」「不登校」といった社会課題と繋げたものです。「図書館」×「居場所・不登校」というかけ合わせから、ある生徒が「セカンドプレイス内にサードプレイスをつくる」というアクションを考えつきました。ここから始まって6000件近くの中から「SDGs探究アワード」を受賞し、最終的には、朝日新聞にも取り上げていただくことになりました。卒業しても非常にリスペクトしている生徒です。将来が楽しみ!

図書館をもとに分解していったもの

内容はこちらから↓

https://sdgs-awards.umedai.jp/library/2023/04/25/2022-sponsored-workacademy/

朝日新聞の記事はこちら↓


8.出来上がった「探究テーマ」の良し悪し

やらされ探究を卒業するためには、下記の要素が必要なことは、上記でも述べてきた。

  • Will 自分が好きで取り組みたいこと(興味・関心)

  • Need 時代や社会が求めていること(必要・課題)

  • Can 自分ができること(実行可能性)

最後に、実際に出来上がった探究テーマの良し悪しについて。良質な探究テーマは、生徒をやる気にさせ、当事者意識を育む。

良い探究テーマにするには、例えば「~について」ではなく、「どうすれば~できるか」という問いの形にすることが有効だ。「サードプレイスとしての図書館について」⇒「どうすれば図書館をサードプレイスにでできるか」

ところで、そもそも良質でない探究テーマには、どういった特徴があるのだろうか。
具体的には、下記のような特徴が挙げられる。

  • 広すぎるもの、狭すぎるもの(漠然とした大きなテーマ)

  • 社会や他者の役にたたず、自分の興味関心のみを満たすだけのもの

  • 高度に専門的な知識を要するもの

  • 少し調べたらわかるもの

  • 調べたことを羅列するだけのもの

  • きちんとしたデータ・統計に全く基づいていないもの

佐藤浩章「高校教員のための探究学習入門」ナカニシヤ出版 一部修正

初期のころは、探究テーマとしてでてくるものは、漠然とした大きなテーマが多い。テーマ(問い)は規模と深度で表すことができるが、規模に着目すると、「スケートボードとサーフィンのどちらが好きか」という問いと「スケートボード文化における多様性・公正性・包摂性とは」という問い、更には「スポーツを通して人類はどう生きるべきか」という問いでは、規模が全く異なる。規模が大きい問いのような、いわゆる自分の人生を貫く問い(人生をかけて問い続けたいもの)はそれはそれで必要かもしれない。規模の大きな問いを頭の片隅に置いておく能力は仕事をする上でも重要だ。

しかしながら、探究活動には期限があり様々な制約もあるため、大きな問いを小さな問いに変換することが求められる。非常に重宝している、上山晋平先生の高校教師のための「探究学習」ガイドブック」明治図書より、これをまとめたものを紹介させていただく。

上山晋平著 高校教師のための「探究学習」ガイドブック」 明治図書



問題解決の範囲を狭めて、小さく具体的にする。それと同時に実現可能性を確認する。SMARTに基づいて探究テーマを見直す。大きなテーマを小さなテーマに変える際には、念頭に置いておきたいところである。


以上長くなってしまったが、
まず、探究テーマの分類からはじまり、「ハートの梯子モデル」等の理論に触れ「やらされ探究」について考えた。
次に、具体的な探究テーマ設定の方法やワークショップの具体的様子や小道具について紹介した。
そして、出来上がった探究テーマの良し悪しについて考えるヒントを提供させていただいた。

理路整然としたブログとは言えませんが、「やらされ探究」にならないためのヒントを何かしら掴んでいただけたら何よりです。

成長・学びの「芽」がでて、それが記憶(メモリー)となり、読んでくださった方の「目盛り(基準)」のひとつになれば幸いです。最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。

芽もりー



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