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最後のデートはメロン味

最後のデート
どこへ行きたい?

そう聞かれて
心に残る場所なんてあったかしらと
考えてみたら

ふたりの思い出の風景って
この世に存在していない世界だったことに
気づいた



桜が見たくて
お世話になっている
法多山尊永寺へ

今年の初詣は
ふたりで行けてなかったから

もう、花は散り始め
新しい葉が顔を覗かせていた

今のふたりには
かえってちょうど良かったね

手を合わせてお参りをしても
願い事や未来の抱負なんて
何も出てこないし
 
会話もこれといって
特にない

一度は食べたいねって話していた
春限定のさくら団子も
40分前には売り切れていて
間に合うことはなかった

いつもあなたと一緒に出かけると
行ったお店は臨時休業だったり
限定商品は売り切れていたり

そんなことばかりだった気がするわ

ここの厄除け団子は
本当に美味しいの

美しい葉桜を眺めながら
ひとり分の距離を空け隣に並んで
ほんの少しの幸せを噛みしめる




法多山の次は
クラウンメロンが楽しめる
メロンカフェへ行きたいって
珍しくあなたから言い出した

メロンなんて昔は嫌いで食べなかったくせに
お洒落なカフェなんて行きたがらなかったくせに


そのカフェはメロン栽培農家さんの経営する小さな店で
奥さんが一人で接客されていた

席はすべて埋まり
混んでいてすぐには入れなかった

「席空くまで待ちますね」

外のビニールハウスで育つ
メロンの子どもを見させていただきながら
お客さんが出てくるのを待っていた


花咲くような甘い香りが漂い
白髪のご婦人に話しかけられる

「お待たせしてごめんなさいね」

にこにことした笑顔からは
あたたかい愛があふれるよう

「素敵なワンピースね、今日はデートなのかしら?」

上手く発音が聞き取れず、笑顔で聞き返していたら
後ろからご主人らしい方が姿をあらわして
代わりに伝えてくれた

「本当あなたたち仲良さそうね」

そう告げると会釈をして
ご主人と仲睦まじく
裏の倉庫へと入っていったの


傍からだとそう見えるんだね 


残念ながら
おばあちゃん達みたいな素敵な夫婦には
わたし達なれなかったのよ

ふたりの後ろ姿を見送りながら
キュっと締め付けられるような
ほろ苦さが胸に広がる



カントリー風の静かな店内は
海外雑誌やアンティーク家具が並べられ
どこか懐かしい温かさで満たされている

席に案内されて
久しぶりにあなたと対面で向き合った

少し、老けたわね

そんな変化にさえも
もう興味がなくなっていたことに気づく


注文したのは
メロンパフェとメロン&メロンジュースのセット
これでもかとメロン尽くし

待たせてしまったからと
奥さんがさらにメロン2皿分に
ジュースもおかわりまでサービスしてくれた

最後まで気持ちよく
居心地の良い素敵なカフェ


すごく甘くて美味しかったの

でも

メロン独特の甘辛さが
帰り着くまで

いつまでもいつまでも
消えることなく
口に残っていた



そんな最後のデート

なかなか良かったんじゃない?



「最後のデートはメロン味」

〜END


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