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【ゴーオンジャー】劇場版+第39~40話

劇場版「炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!劇場BANG!!」

 竹本監督のツイートで39話・40話が劇場版を踏まえてのお話であることを知り、慌てて鑑賞。ちょうどいいタイミングで入っててよかった東映オンデマンド。というか、よく考えたら劇場版キバ『魔戒城の王』は劇場に見に行った記憶があり、もしやと思って探してみたら当時のパンフレットがちゃんと仕舞ってあったのであった。ヤッター!

 二本立て夏映画のうちの一本である本作。上映時間こそ30分強と短いが、笑いも涙もファンサービスまでも盛り込まれた作品である。ED映像を一時停止してしみじみと見入ってしまった。ウメコはいつ見てもかわいいねえ……。
 お話は夜のハイウェイから始まる。三大臣(懐かしのヨゴシュタイン様!)は次元の裂け目を開き、ヒューマンワールドと別の世界を混ぜ合わせることでしっちゃかめっちゃかに混乱させようとしている。それを鋭く追撃するゴーオンジャー。再出荷されたリサイクル蛮機獣の一群に阻まれ、多勢に無勢を強いられていたところ、次元の裂け目から飛び出した光球が蛮ドーマらを攻撃。その隙をついてスピードルたちはG9への合体を果たし、蛮機獣軍団を駆逐する。
 光球の正体は、時代劇がかった服装の三人組・炎衆であった。彼らは再び光球となるとG9に激突、地面に散らばったスピードル・バスオン・ベアールのキャストを持ち去り、次元の裂け目へと戻っていく。
 殴りかかろうとする走輔のみぞおちにカウンターで拳を叩きこむなど、かなりの実力の持ち主である炎衆。大翔の誰何に、若武者風の男は答える。「我らは遠くから来た。遥か、遠くから」
 彼の言う「遠く」とは、次元の裂け目の向こうに広がるサムライワールドのことであり、また彼らの故郷マシンワールドのことでもある。人間の姿をしている炎衆だが、彼らは人間ではない。強さを求めて旅する流れ炎神が、サムライワールドの支配者・魔姫にキャストを奪われ、ソウルだけになってしまった姿がこれなのだ。事情を聴いたベアールが「炎神ソウルが人間の姿になれるやなんて」と驚いていることからも、彼らの姿が異常事態であることが窺える。正当な手段を踏まずに無理やり身体を取られたことで、なにかサムライワールドに特有の力が働いているのだろうか。ヒューマンワールドでの炎神たちはゴローダーGTで疑似的に手足を手に入れるのが精いっぱいなのになあ。
 閑話休題。炎衆が失ったのはキャストだけではない。「貴方たちが強くなる道を知っている」という魔姫の甘言に気を許し、彼らは”心”を消されてしまったのだ。炎衆のキャストを狙う魔姫は、それを最高に強い状態で手に入れるため、きちんと彼らの心を消してからソウルとキャストを分離したのである。仕事が丁寧。
 自らのキャストを取り戻すため、炎衆は力を求めている。スピードルたちのキャストを盗んだのもそのためだった。だが、心を許した仲間でもない、それどころか心を持たぬソウルを、スピードルたちのキャストは拒絶する。仲間内でのキャスト乗り換えは稀に見かけていたが、誰もが誰もの身体を使えるというわけではないようだ。
 スピードルたちのキャストは雷剱と獄丸に持ち去られてしまった。走輔たちは炎衆にピンチを救われ、彼らの隠れ家にかくまわれる。炎衆の身の上話を聞いてすっかり心を開いた走輔たちは、魔姫から彼らのキャストを取り返そうと決めた。
 戦う理由を問われて、走輔は答える。彼にとって炎神は苦楽を共にする相棒だ。魔姫を倒してキャストを取り返せば、この次元の皆も笑って暮らすことが出来る。そうでなければ、ヒューマンワールドに帰ってもぐっすり眠れない。
「言ったろ? 俺たちは正義の味方なんだ」
「我らは正義ではない。正義はここに無い」
 顔を背けるレツタカの肩を掴んで、走輔はまっすぐに彼を見る。
「あるさ、ここに」
 拳で軽く胸をつく、その動作に躊躇はない。心が無い炎衆の中に眠る正義を、走輔は全く疑っていない。

 さて、サムライワールドに飛ばされた走輔たちは、それぞれの方法でこの次元とのファーストコンタクトを果たしている。早輝は町娘のコスプレ、連は浪人軍団に追われ(ここの走輔の殺陣が非常にかっこいい)、軍平と範人はどこかで見たような顔・聞いたような声の住民たちにかくまわれている。範人は本当にケガレシア様のお顔がタイプなのだなあ。そして須藤兄妹の姿は魔姫のいる魔剣城にあった。ヒューマンワールドからの客人として、用心棒のような扱いをされているらしい。
 朝日とともに魔剣城に乗り込むゴーオンジャー。雷剱・獄丸とともに立ちはだかる須藤兄妹。ちなみに、開いた城門の間に謎の丸太が落ちていて不思議だったのだが、パンフレットのスチルを見て解決。門をぶち破るための攻城槌だったようだ。ディレクターズカット版が見たいなあ。
 自分たちと炎神との心の絆について、熱く啖呵を切るゴーオンジャー。その言葉を待っていたかのように、敵側についていたはずの須藤兄妹が裏切り、もとい表返って、奪われていたスピードルたちのキャストを投げてよこす。敵を騙すにはまず味方から、ウイングスは自ら潜入スパイとなっていたのである。自分の身体が戻ってきたことで、スピードルたちはたいそう嬉しそう。日ごろからキャストとソウルを分離させた状態にあるヒューマンワールドの炎神たちにとっても、やはりキャストが手元にない状態は心もとなく不安なのだろう。ならば、ずっと身体を奪われっぱなしである炎衆の辛さはいかほどだろうか。
 いや、辛いと感じる心さえも消されている彼らには、ただ空虚だけが残っている。キャストを取り返そうとしているのも、「取られたものは取り返すべき」という理性に基づいた行動だ。ゆえに、炎衆の辛さを思う早輝の涙は、彼らにとって思いもよらぬものであった。身の上話をした時に、早輝が代わりに悲しんでくれたことで、これは辛いことなのだ、と初めて認識したような顔をしていたレツタカが切ない。

 ゴーオンジャーが魔剣城に乗り込んでいる、同じ時刻。隠れ家に残った炎衆は、走輔の語った「正義」という言葉について考えている。
 流れ炎神である彼らは、ひたすらに強さだけを追い求めていた。そのきっかけは、理由は、一体何だったか。
「忘れちゃってたけど」とツキノワが言う。
「私たちも、最初はなりたかった気がする。誰かのために、戦える――」
「正義の、味方か」
 レツタカの言葉に、ツキノワは嬉しそうに頷く。シシノシンとレツタカも、それぞれ頷き合う。
 ずっとキャストに戻れず、ソウル剥き出しのままで魔姫たちと戦ってきた炎衆。キャスト自体も魔姫とその配下に取り込まれ、だいぶガタがきてしまっている。炎神キャストに丁寧なメンテナンスが必要なのは、テレビシリーズでも語られていた通りだ。それでもレツタカたちは、魔姫と一騎打ちをする走輔を助けに行く。失ったはずの心が、そうせよと彼らを駆り立てる。
 走輔と炎衆の猛攻に追い詰められた魔姫は、ヤマタノオロチのようにあまたの首を持つ大ムカデ、魔忌へと姿を変える。エンジンオーと炎神たちの攻撃をものともせず跳ね返すが、走輔のド根性は並大抵ではない。ムカデの表面に単身とりつき、鞭のように伸びてきた首の一つにメットを持っていかれるというヒヤリ体験をしつつも、スピードルソウルを込めたマンタンガンを手に胴体側へと駆け抜ける。人間の心と炎神の心が合わされば、向かうところ敵なしだ。ついには燃え盛る魔忌の体内に手を突っ込み、レツタカのキャストを奪い返すことに成功する。さながら草薙剣を得たる如し。
 シシノシン、ツキノワのキャストも、それぞれ雷剱たちから取り戻されている。手足のタイヤで地面を滑るように疾走し、攻撃を仕掛ける連。の背中に、ちゃっかりしゃがんで乗っている美羽が彼女らしくてかわいい。ピンと張った鎖鎌の鎖の上を危なげなく駆け抜けていく大翔の身軽さにもため息が出る。ウイングスやっぱすげーな!
 とうとう余裕をなくした魔姫、いや魔忌は、炎を纏った魔鬼の姿へと最後の変化を遂げる。誰よりも美しいかんばせを自慢にしてサムライワールドを治めてきた彼女が言うには、この魔鬼の姿になるのは数千年ぶりだとか。強さのために自らも心を捨てているのであろう魔姫は常に淡々と喋っているのだが、今回ばかりはよほどのピンチであることが窺える。
 相対するは堂々出陣、炎神大将軍。キャストを取り戻した炎衆が本来の姿となり、走輔という相棒と心を一つにすることで合体した威風溢れる姿だ。キシャモスたちの件といい、走輔、この炎神たらし! 流れ炎神である炎衆は、きっといままで人間の相棒を得たことなどなかっただろう。初めて見たエンジンオーの姿に驚きつつ、すぐに踏襲して自分たちも合体できてしまうあたり、炎衆3人(3体?)の絆の深さが窺える。
 大将軍はノーガードで物怖じせずに前歩き。自身の大剣に加えて、近くに刺さりっぱなしだったゴーオンソードを掴むと、魔鬼の攻撃を二刀で次々にいなし、相手の武器を叩き落とす。ゴーオンソードにはスピードルたちの心が宿り、大将軍にはレツタカたちの正義の心が宿っている。みんなの心が合わさって、大将軍の必殺紅蓮切りが炸裂! 「心を消して強くなる」という魔姫のことわりに、走輔たちの決して消えない「心」が打ち勝ったのだ。
 かくして魔姫は倒れ、サムライワールドには平穏な日々が戻ってくる。だが、力を使い果たした炎神大将軍は見る間に石化し、人間の姿に戻ることも能わない。炎衆にヒューマンワールドを見せたかったのに、と嘆くゴーオンジャーらに、ツキノワは「ヒューマンワールドでは自分たちのそっくりさんが正義の味方をやってたりして」なんて軽口を叩く。心当たり有りまくりである。
 正義の心を持ってサムライワールドを見守り続ける炎衆。ゴーオンジャーは自らの正義を果たすため、ヒューマンワールドへ帰っていく。湿っぽい別れは”らしく”ない。すれ違う人々を惜しみながら(すかさずケガレシア似の女将に別れの挨拶をしている範人)、走輔たちの足取りは軽い。


GP-39「郷愁ノコドモ」

 雲一つない快晴の空。どこからか漂ってきた霧から夢のように姿を現す、豪華なおみこしとお面姿の担ぎ手たち。賑やかな祭囃子に誘われ、いくつもの鳥居のトンネルを潜り抜けた先には、様々な屋台の立ち並ぶお祭りが催されている。色とりどりの風車に涼しげな金魚すくい、焼きそば、射的。そしてひときわ大きく真ん中に陣取っているのが、たくさんのお面が並ぶお面屋の屋台だ。
 金魚をすくった子どもたちが「取れた!」と笑顔を見せた瞬間、正面から伸びる濡れた腕が彼らの襟首をつかみ、いけすの側へぐいと引き寄せる。風車の飾り棚越しに伸びた腕が、綿あめの機械から伸びるロープのような綿あめが、あっけにとられる子どもたちをひっつかむ。子どもたちは次々と、お面の屋台へ吸い込まれて姿を消してしまう。

 まるで幻想ホラーのような始まり方をした第39話。今回の蛮機獣は害気目(たぶん)のヤタイバンキだ。祭囃子でおびき寄せるというハーメルンの笛吹きがごとき手口で、つぎつぎと子どもたち(ついでに範人と軍平)をお祭り会場へ誘い出す。捕まえた子どもは綿あめ袋(ご丁寧に「蛮機族 ガイアーク」のロゴ入り)に閉じ込めて、キタネイダスに献上するのだ。
 環境破壊ではなく直接子どもを襲うなんてガイアークらしくないと思いきや、そこにはキタネイダス発案の壮大な計画がある。紙芝居方式で説明されるのは題して「毎日がお祭りワッショイ作戦」。子どもたちをお祭り好きに洗脳するという、一見無害そうな作戦だが、その真価は子どもが成長して大人になった時に発揮される。お祭り好きのまま大きくなった彼らは仕事もしないで毎日ワッショイお祭り騒ぎ、その隙にじゃんじゃんヒューマンワールドを汚くしてやろうというのである。なんて恐ろしい作戦……かどうかはさておき、キタネイダスもケガレシアも楽しそう。楽しいことは良いことだ。

 頻発する子供の消失事件を追っていたゴーオンジャーたち。聞き込み調査をしていた範人と軍平は、どこからか聞こえてきた祭囃子に誘われて、不思議な空間へ足を踏み込む。お好み焼きにウインナー、子どもも軍平も大好きな屋台ばかりが揃ったその会場こそ、ヤタイバンキの支配するお祭り空間であった。
「大きなお友達はいらないッショイ!」と攻撃を受ける範人達。そこに飛び込んできたのはキシャモスと走輔らだ。この空間、外から無理やり侵入するにはキシャモスくらい強い力が必要らしい。知らずに内部に潜入していた範人達、和服姿の子どもを二人逃がすことに成功したのである意味結果オーライである。
 ヤタイバンキのもろこしマシンガンや焼きそば攻撃(「旨そうじゃねえか!」と思わず反応する走輔よ……)に苦戦を強いられるゴーオンジャー。そんな中、停車していたはずのキシャモスたちがゆっくりと動き出す。運転席に座っていたのはさきほど軍平たちが逃がした子ども、サムライルックの晴之助と昭之助兄弟だ。ふたりの「家へ帰りたい」という願いに反応したキシャモスが、それをかなえるべく動き出したのである。かつて故郷を離れ、帰還することなくダイナワールドで永い眠りについたキシャモスにとっては、是非とも叶えてやりたい願いであろう。……だが、兄弟の「家」は遠くサムライワールドだ。次元の壁を超えるためには、今のキシャモスではエネルギーが足りない。先ほどお祭り空間をぶち破った際に、少なからず消耗してしまったのだろう。

 キタネイダス肝いりの「毎日がお祭りワッショイ作戦」は、そのあまりの悠長さを指摘されあえなくお蔵入りとなる。が、サムライワールドからの来訪者・雷々剱と獄々丸にそそのかされ、ケガレシアとキタネイダスは活動を開始する。狙うはサムライワールドより渡りし一本の刀、晴之助と昭之助が守っている大切な業物だ。
 ゴーオンジャーの足止め係として、ヤタイバンキも再出場。りんごあめやお面(ケガレシア様とウガッツのお面もある。かわいい)をフル活用して戦いを挑む。
 ここで活躍するのが連お手製のカンカンバー。範人が花火を打ち上げてヤタイバンキの気を引いた隙に、軍平にパス。軍平はカンカンバーにマンタンガンを連結させ、人質の子どもたちを傷つけることなく無事ヤタイバンキだけを狙撃することに成功する。
 せっかくの人質を解放されておかんむりのヤタイバンキは産業革命祭で巨大化。産業革命祭ってなんなんだ? 勧業博覧会か? 即座に炎神キャストを合体させる走輔たちだが、ヤタイバンキは3体のロボをお祭り空間へご招待。金魚すくいの屋台で泳がされるセイクウオーに、射的の景品として繋がれたエンジンオー。大翔曰く屈辱的な状況だが、ガンバルオーの神業によりそれぞれあっさり救出されたので傷は浅い。最後はロボ3体による御神輿のような組体操で、「グランプリフェスティバル」ことシンプルなトリプルパンチ! 無事ヤタイバンキを撃破することに成功する。

 話は少し前にさかのぼる。範人と軍平の機転により、ヤタイバンキの魔の手から辛くも逃れた晴之助・昭之助兄弟。彼らは一本の刀を守るために、故郷のサムライワールドからこのヒューマンワールドへ逃げてきたのだ。当然、見知らぬ大人には警戒を怠らない。範人が渡そうとした山盛りのお菓子を、晴之助はいらないとはねつける。……だが、弟の昭之助はどうやら腹を空かせている様子。街中ではレストランのショーウインドウを食い入るように見つめ、範人がこっそり袂に入れてくれた大量のお菓子も大切そうに持っている。そして範人、その量のお菓子を一体どこから出したのだ。四次元ポケットか?
 刀に興味を示した軍平を怪しんで、兄弟はその場をとっとと逃げ出した。だが、森の中で出会ったケガレシアとキタネイダスから「我々は次元の壁を超えるすべを持っている」「故郷に帰してあげる」と言われて、顔を輝かせたのはむしろ兄の晴之助の方であった。弟の手前強がっていても、やはり晴之助もまだ子どもなのである。一度キシャモスでぬか喜びし、反動で強く落胆しただけに、ケガレシア達の甘い誘いにまんまと乗ってしまったのだろう。
 だが、ケガレシアたちは昭之助が零したお菓子を踏みにじり、無理やりその背の刀を奪い取ろうとする。食べ物を粗末にするというわかりやすい悪役アピール! 兄弟はまたも、すんでのところでその場を逃げ出すことに成功する。高台から戦うゴーオンジャーを見つけた彼らは懐に持っていたキシャモスのソウルを投げ、ヤタイバンキ攻略のためのきっかけを作る。
 ヤタイバンキの撃破後、ゴーオンジャーと合流した兄弟。連に剣の由来を尋ねられ、晴之助は「この剣は烈鷹殿が」と口を開く。
「烈鷹?」「烈鷹……」
 五者五様の反応で、口々にその名を口にするゴーオンジャーたち。……その時、轟音とともに空から巨大な物が落ちてきた。混乱する街中に駆け付けた走輔たちは、かつてサムライワールドでともに戦った炎神大将軍の姿を目にするのであった。


GP-40「将軍フッカツ」

 炎神大将軍回。ただし、本来サムライワールドで眠っているはずの巨体をヒューマンワールドで動かしているのは、かつてともに戦った烈鷹ではない。烈鷹と同じ姿・同じ魂を持った、ヒューマンワールドの一人の青年である。

 青年はどうやら無宿人として、街中で寝起きをしているらしい。金に困ってやむなくというよりは、投げやりでやけっぱちな気持ちからそんな生活を送っているようだ。曰く、「なんとか就職した職場があっさり倒産しやがって、仕事もなく、こんなザマだ」。心などとうに擦り切れて、絵に描いたような自暴自棄の姿である。
 雷々剱と獄々丸に入れ知恵され、彼は晴之助・昭之助兄弟の前に姿を現す。すっかり青年を烈鷹だと思い込んだ兄弟は、喜んで彼に大切な剣を差し出す。それこそが、雷々剱たちの目論見であった。烈鷹の魂の一部が込められた剣を手に、青年は願う。
「俺を必要としないこんな世界、全部無くなってしまえばいい!」
 青年が投げた刀により、可動に必要な最低限の魂を取り込んで、炎神大将軍は復活する。ただし、自由意志としてのソウルを持たない、抜け殻としての姿で。
 心を持たぬからくり人形は、烈鷹と同じ魂を持つ青年の望みを汲んで、街に破壊の限りを尽くさんとする。暴れる大将軍を対岸から眺め、応援のヤジを飛ばしながら、青年はふと呟く。「あれが俺の望んだことか」……彼自身、自らの願いが理不尽な言いがかりだとは承知しているのだろう。だが、世界も彼に理不尽を強いている。「誰も俺を認めない、必要としない。俺の居場所なんてねえ」のだ。そんな世界を壊すのは虐げられた者の当然の権利である、と青年は思おうとしている。
 そんな青年に、走輔は思いの丈をぶつける。烈鷹に並々ならぬ思い入れがある走輔にとって、烈鷹と同じ魂を持っているはずの青年が世界を壊さんとすることは到底受け入れがたい事態である。
 激しい殴り合いの末、走輔はキシャモスのキャストを手に、自ら炎神大将軍を倒すと宣言する。
「炎神大将軍の、正義の心を蘇らせる!」
「そんなもの、悪魔になったあいつの、どこにある」
 力なく反論しながら、青年は目を伏せ、対岸の炎神大将軍を見やる。「俺の望んだこと」を果たすため、街を破壊し続けている大将軍。「悪魔になったあいつ」とは、すなわち青年自身のことでもある。烈鷹のような強い意思を持たない彼は、まさに同じ顔をした抜け殻だ。
 しかし走輔は、大将軍の中に残る烈鷹の心に賭けている。決して滅びぬ正義の心が、まだ炎神大将軍の中にもあるはずだ、と。かつて魔姫によって心を消されてもなお、烈鷹たちのソウルの奥底にはくすぶる正義の熾火があった。だからこそ炎神大将軍は生まれたのだ。

 翌日、青年は晴之助たち兄弟のもとを訪れる。高台から炎神大将軍を眺める二人に、彼は話しかける。
「お前たち、あれと同じ世界から来たんだよな。そこなら俺は、本当の俺になって、もっとすげえ事がやれたりすんのかな。……だったら行ってみたいもんだな」
 だが、晴之助は「同じです」と答える。
「あ?」
「人がいて、辛かったり苦しかったりすることもありますが、生きています。この世界と何も変わりません」
 その返答を、青年はゆっくりと噛みしめる。
「……うん……そっか、そうだよな。わかってんだよそんなことは」
「え?」
 揃って疑問符を口にする兄弟。
「戦えってことだよな。ここで、この世界で」
 独り言ちる青年。その表情からは、もう迷いが晴れている。
 自分と同じ顔をした烈鷹という男は、どうやらすごい奴らしい。だが、烈鷹は烈鷹、自分は自分だ。烈鷹は異なる世界で生きた全く別の存在で、「本当の俺」ではない。自分が烈鷹の世界に行ったところで何かがガラッと変わるわけではなく、その烈鷹の世界も、晴之助によればこの世界と何も変わらないのだという。
 世界が運命を決めるのではない。自分自身が世界と戦うことで、運命をつかみ取るのだ。自分の居場所も、誰かに認めてもらうことも、世界から与えられるのを待つのではなく、自ら戦って勝ち取らなければ。走輔が言う通り、炎神大将軍=自分の心の中に、まだ少しでも正義が残っているのであれば。

 同じころ、ゴーオンジャーたちは雷々剱たちと対峙している。サムライワールドからやってきて、まんまと炎神大将軍を復活させることに成功した彼らは、元の世界に戻るよりもこのヒューマンワールドを征服することを選択した。用済みのキタネイダスとケガレシアを鎖で縛って閉じ込め、悠々の出場である。彼らは必殺の獄雷ホームランで一気に片を付けようとするが、ゴーオンジャー側の思わぬ反撃にあい、業を煮やして大将軍を呼びつける。まとめて一気に踏みつぶしてしまおうという腹だ。
 剣を振り上げ、今にもこちらに向かってこようとする大将軍。そこに、「やめろ!」と叫びながら青年が走り込んでくる。
「止まれ! 止まれっつってんだよォ!」
 必死に走る青年の姿が、まばゆい光に包まれる。烈鷹の姿をしたその光は、吸い込まれるように炎神大将軍のもとへ飛んでいく。そして大将軍は、今にも振り下ろそうとしていた剣を止める。
 烈鷹と同じ魂を持つ青年だからこそ、できたことである。大将軍を起動したときと同じく、停止させることも彼にしかなし得なかった。走輔との殴り合い、また晴之助たちとの対話によって、彼は現実と戦う意思を取り戻したのだ。
「あったのですね。貴方の中に、烈鷹殿と同じ心が」
「そんなんじゃねーよ……ほらよ」
 晴之助に剣を返し、青年は立ち去る。最後まで素直にならないのは、きっと彼の照れ隠しだ。サムライワールドへと飛び去るキシャモスを、青年は地上から一人で見送る。表情は柔らかい。よれよれのミリタリージャケットを脱ぎ捨て、ワインレッドの背広に真っ白なシャツを着て、彼は背筋を伸ばし歩いていく。
 ところで青年の初登場シーン、ベンチで寝ていた彼がのっそり体を起こしたとき、ミリタリージャケットの胸元が大写しになるカットがある。ユニオンジャックのワッペンや、ドクロとサイコロの柄などミリタリーらしいピンバッジが並ぶ中に、金色の保安官バッジが混じっているのが見える。なあんだ、最初からしっかり、青年は正義の心を持っていたのだ。人生にくじけて、そのことを少し忘れてしまっていただけだ。しっかり思い出したから、きっと彼はもう、現実から逃げ出したりしない。

余談。
「ヒーローとかやってみんなに褒められてるお前らに、何がわかる」
「いいか、俺たちだけが特別なんじゃない。お前だって、本当はヒーローになれるんだ!」
 並行して『ファイズ』を見ているわたくし、大いに首肯。どちらかと言えば草加っぽいキャラクターなのも面白ポイント。

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