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【感想】タイムレンジャー 第48話

 未来戦隊タイムレンジャー Case File.48「未来への帰還」を見た。

 本編の感想を書く前にまずこれだけは言いたい、次回予告ありがとう……! 思わず画面の前で安堵の声をあげてしまった。完全にダメそうな感じの弾着具合だったもの……しかしよく考えてみれば、常にロンダースと戦うことを前提としてつくられているシティガーディアンズの標準装備服ならば当然防弾性能もよいはずで、ゼニットの射撃程度ならばかろうじて防げるのかもしれない。なんにせよ生きててよかった滝沢直人。あとは予告が嘘予告じゃないことを祈るばかりである。


ギエン、神になる

 いよいよ始まった大消滅。その引き金となるのは、ギエンとブイレックスがそれぞれ搭載しているλ-2000らしい。今までこの時代で確認されているものとは非類にならないほどのエネルギーを持ち、これがラムダの副作用である時空歪曲を強く引き起こすことに繋がってしまうのだ。
 言われてみれば確かにギエンもブイレックスも、機械の体を持ちながらエネルギーの補給をしている様子は見受けられなかった。体内に高エネルギー体を持っているならば納得である。
 そのギエンは自ら撃ったドルネロの生死にとんと無頓着だ。息の根を止めようと思っていたわけではなく、ただ襲われたから反撃して逃げ延びた、という感じだろうか。
「私が神になるのを、喜んでくれると思っていたが」
 ドルネロが死んだと知り、そう独り言つギエン。なんとなく人間だったころの面影が感じられて切なくなる。3より大きい4を覚えた時、ドルネロはギエンと一緒になって喜んでくれた。ギエンが死にかけた時には、ドルネロは素晴らしく性能の良い頭をプレゼントしてくれた。自分が賢くなればドルネロは喜ぶ、とギエンは学習している。ならばギエンが自らの能力を遺憾なく発揮し、その頂点を極めようとすれば、きっとドルネロは喜んで褒めてくれるに違いなかったのに。


未来人、帰還す

 対するタイムレンジャー側も、大消滅を目の当たりにして各々平常心ではいられないようだ。特に長年の仇を目の前でみすみす死なせてしまったユウリは、「体のどこかに穴が開いちゃったみたい」と竜也にこぼす。前回ドルネロが言及していた「心に開いた穴」と呼応するような台詞である。ドルネロはその穴を「どんなにカネをつぎ込んでも埋められない」と評していたが、竜也は「これから埋めてけばいいよ」と気楽にユウリに言う。
「ドルネロなんかよりマシなもんくらいあるだろ? 例えば、毛布とか、ココアとか。星とか、……俺とか」
 寒空の下で包まる毛布の温かさ、誰かが自分のために淹れてくれたココアの甘さ。ふたりで見上げるまばらな星空。隣に座って励ましてくれる大切な存在。確かにそれは、カネを出しただけでは手に入らないものだ。ドルネロが得られなかったそれを、ユウリはそっと手にしかけている。……三十世紀には存在しない、この時代だけで触れられる宝物。

 ともあれ、みなそれぞれ思うところはあるものの、シオンの台詞が全員の心情を代弁している。
「正しい道なんて、きっと無いんですよね。自分の信じた道を選ぶしか……」
 三十世紀を取れば二十世紀は壊滅し、二十世紀を取れば三十世紀は大打撃を食らう。どちらを選んでも完璧な結末を迎えられることはなく、必ず後悔がついて回るだろう。ならば選択の基準となるのは、自分がそれに納得して行動できるか否かだ。正しくは無くとも自分が信じた道ならば、彼らは胸を張って進むことが出来る。未来人であるユウリたちが二十世紀人である竜也を仲間とし、今まで歩んできた時間がそれを裏付ける。歴史的なことはさておき、当初の三十世紀的価値観において、それは全く正しくない行動であった。だが、彼らは常に前を向いて、全力で生きてきたのだ。
 そして、最終的に竜也の選んだ「自分の信じた道」が、仲間たちの強制退去であった。
 時間飛行体を起動させ、何かカードキーのようなものをこっそり引き抜いて地上に降りる竜也。仲間たちの困惑と怒りと涙を残して、飛行体は三十世紀へ帰っていく。綺麗な別れとは程遠い、まるで円満とは言えないさようならである。そうなるとわかっていながら、それでも竜也は憎まれ役を引き受けた。
「どうしてですか!」
 珍しく声を荒げるシオンの悲痛さに胸が痛む。
「大消滅を止めたら、三十世紀がまた変わってしまうかもしれない。それを、お前たちがやっていいはずないだろう!」
 みなを無事に元居た時代に返すためには、おそらくこれがギリギリのタイミングだったのだ。未来が変われば、未来人たちの足元は揺らぐ。ユウリやドモンの家族、アヤセの病気の治療について、なにか取り返しのつかない変化が起きないとどうして言い切れようか。シオンは二十世紀こそが自分の故郷であると言うが、そもそも彼らの存在自体が危うくなってしまうかもしれないと思えば、どうしたって三十世紀へ送り返さなければならない。
 アヤセは竜也の命がけの覚悟を呆然と察する。ドモンは何度も叫んで窓を叩き、ユウリは涙を流して言葉に詰まる。それでも時空飛行体は止まらない。タックは目を閉じ、一同は二十一世紀から姿を消した。


直人、すべてを失う

 自らネオクライシスに搭乗し、破壊の享楽を味わうギエン。ブイレックスの上に立ち応戦する直人だが、強化された相手を前に苦戦を強いられている。ネオクライシスの両腕から発される「死の抱擁」の威力はすさまじく、ブイレックスも直人自身も激しいダメージを負う。まさに万事休すの状態である。
 その横を、直人にはまるで目もくれずに走り抜けていくシティガーディアンズの車両。停車した後続車両に近づいて指示を出そうとする直人だが、そこで思いもよらない事態を告げられる。後ろ盾である伊吹長官の退任により、滝沢直人はシティガーディアンズにかかわるすべての任を解かれたのだ。さらに研究班により、ブイコマンダーのボイスキーも解除成功されていたことが明らかになる。「ご存じないのですか」と冷ややかに告げる秘書。秘書にとっては既知の事柄だったようだが、直人にとっては青天の霹靂だったであろう。……伊吹派と浅見派の断絶は根深く、水面下で事は進行していたのだ。
 自ら煽ったクーデターをそっくりそのまま意趣返しされるような形で、直人は地位も力も失ってしまった。それでも虎の子のブイコマンダーだけは死守せんと、ずたぼろの彼はその場を逃げ出す。彼はまだ復権を諦めていないのだ。「さすがだな浅見会長」と心中でつぶやく直人。「だがこのブイコマンダーがあれば、俺にまだ勝機はある」
 だが彼は、鳥かごを持って逃げる少女の「助けて」の声に、思わずその身を挺してしまう。
 小鳥は直人にとって、穏やかな日々の象徴である。かつて彼は二羽の愛鳥を自ら手放した。いつ敵に狙われるともわからない己が飼い主の責務を全うできるかわからない、という現実的な事情もあるだろうし、自分が飼い続けることで鳥たちまで物騒な事態に巻き込んでしまうかもしれない、という恐れもあっただろう。
 その小鳥と、小鳥を抱えた少女を、何者でもなくなった滝沢直人は命がけで救おうとする。シティガーディアンズだから、タイムファイヤーだから助けるのではない。そもそもシティガーディアンズが警護するのは契約した土地建物のみである。民間人をいくら助けたところで、タイムファイヤーの社内での立場が上がるわけでもない。少女と小鳥を助けたいと思ったのは、直人自身の、個人的な意思である。子どもの生きてゆく未来と、穏やかで平和な世界を、彼は守りたいと願ったのだ。
 変身する暇もなく、自らの身体を盾にして直人は少女を庇う。手持ちの拳銃はすぐに撃ち尽くしてしまった。強い口調で少女を逃がし、ふらふらになりながらゼニットを睨みつける直人。空になった弾倉にも気づけないのか、何度も引き金を空打ちしながらゼニットの群れに近づいていく。こんなにぼろぼろなのに彼の眼光は鋭く、今にも目の前の敵に噛みつかんとするような、震えがくるほどの迫力がある。地位や体裁や命、すべてのベールを剝がしたことで見えてきた、滝沢直人の本性がこれなのだ。こんなものを見せられては、どこまでも力を求め泳ぎ続ける彼の生き方にも納得せざるを得ない。終わりなきハングリー精神は不幸な生きづらさではなく、彼が持って生まれたライフワークなのである。
 再び掃射の構えを見せたゼニットを、横から飛び込んできた竜也が一蹴する。再び時空の歪みが生じ、ネオクライシスの容赦ない攻撃が迸る。ふたりはその場を逃げ出すほかない。

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