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【GS翔】第21話〜第23話


第21話「王」

 というわけで、徐ろにジンガの吐き出した赤黒い液体から、浮き彫りのようにして無事にアミリが復活。さては全て承知で肉体を渡し/渡されたな……?
 後の話で、ラダンを無事動かすにはジンガ独りでは足りないことが明かされる。そのためにもアミリの再生は不可欠な事柄であったわけだ。愛情とか信頼とかではなく、もっと即物的な理論である。
 アミリの協力により再び肉体を手に入れたジンガは、起動しつつあるラダンへ向かう。途中でダイゴによる足止めにあうが、軽くあしらう実力は転生前となんら遜色ない。

 ダイゴはここで前線から離脱。流牙や莉杏、ガルドがそうではないというわけではないものの、修練所の導師であるダイゴには今まさに導かねばならない子どもたちの存在がある。ジンガは強敵だが、直接ぶつかるばかりが戦いではないのだ。セイジの望んだ子どもたちの未来のためにも、今はゆっくりと傷を癒やして欲しい。

 ジンガとアミリが入城し、結界の張られたラダン城。立ち向かうは精鋭の4名。流牙、莉杏、ガルド、リュメ様だ。D・リンゴからの魔法具の差し入れもあり、万全とは言えないまでも態勢を整えた彼らは、目には見えないラダン城をなんとか捜し出し、突入していく。

 ガルドの筆から迸る炎は一頭の戦馬となり、黄金騎士を戦いの場へ運んでいく。己の弱さをも従えたガロと、連綿と続く火群の里の歴史を受け継いだガルド。幾つもの強い思いのこめられた剣は、並のホラーには阻むことすらできないのである。


第22話「城」

 ジンガが玉座につき、ラダン城はその真の力を発揮し始める。流牙達の見ている前で城は急激にその姿を変え、ゆっくりと重々しい一歩を踏み出した。

 ジンガの動く城、誕生の瞬間である。人類的にはあまり素直に祝えないところ。

 城の内部へ入り込んだ流牙たちを様々なトラップが阻む。からくりじみたギミックもまた、王の趣味の一環か?

 ラダン城からはまるで大槍のような矢が次々と発射される。リュメ様たちも食い止めようと奮戦するが、最後の守りの要は街なかに防衛戦を張ったD・リンゴである。

 なんだかプロレスのお強そうな方がお一人いらっしゃいますね……。
 ともあれD・リンゴは矢の嵐を防ぎきり、最後の一発もユキヒメが確実に処理。人間vsラダン城、ひとまずは人間側の勝利である。アミリ月による明るい空が、まるで希望あふれる青空のようにも見えてくる。


第23話「嵐」

 街は急場をしのいだものの、城内では未だ黄金騎士と漆黒の鎧の戦いが続いている。そして莉杏とアミリとの攻防もまた、佳境を迎えていた。

 莉杏の一撃を受けて地に落ち、自らの命の尽きようとする時、アミリはただ切なげにジンガの名を呼んだ。ホラーは自分の欲望のまま動く――アミリが本当に欲していたのは、ラダンの復活でも世界の破滅でもない。彼女はただジンガの傍で、ジンガに尽くしていたかったのだ。
 アミリは深手を負っていた。あのまま放っておいてもいずれ息絶えるか、そうでなくても暫くは再起不能の状態であっただろう。だがジンガは敢えてその手を汚し、アミリを完全に消滅させた。おそらく、彼女がきちんと死なねば「月」の代替わりがラダン城に認められない、などの理由があったのだろう(莉杏はアミリの血を受けて月の中に閉じ込められたのである)。
 もしもジンガに人の心が一欠片でもあれば、例えば「愛する者の手で綺麗なうちに終わらせてやった」とか、「アミリからの愛に対するジンガなりの愛情表現」とか、そんな妄想をしたくもなるのだが……だが、相手はあのジンガさんである。ホラーオブホラー、死と破壊と愉悦の王。彼は真心こめてアミリの月の美しさを称賛し、本心から彼女に見切りをつけ、二心なく莉杏をその後釜に据えたのだ。アミリのことを嫌いになったのではなく、ただ役目を終えた道具を処分しただけ。手の甲についたアミリの血に音高く口づけたのは、ジンガにとってアミリが今でも(!)最高の女であるからだろう。

✕頂き → ◯戴き

 莉杏や流牙がはるか高所で火花を散らしている間、リュメ様たちとてただ手をこまねいていた訳ではない。リュメ様は番犬所から自身の侍従(なのか?)を呼び出し、ガルドとも協力して地面に巨大な陣を張った。ホラーと対を成すような真っ白い人影が白線から湧き出し、地面にみるみる穴を掘り始める。魔戒騎士/法師の使う法力とホラーたちの魔力は、もしかしてそこまで遠くないものなのだろうか?
 ラダン城から湧き出すホラーの群れは目ざとくリュメ様たちの企みを見つけ、我先にと襲いかかる。清めの太鼓を叩いていた侍従たちは成すすべもなく、リュメ様も陣を維持しながらでは身を守るだけでも精一杯だ。よもやと思ったその時、横合いから旋風のように振るわれた救いの手がある。そこに立っていたのは療養していたはずのダイゴだ。
 正直、彼が傷を負って前線から離れた時、不謹慎ながらも少しほっとしてしまった。今まさに修行に励んでいる子どもたちのためにも、彼の命を失うわけには行かないからだ。
 だがよく考えてもみろ、導師である以前に、彼は誇り高き「守りし者」、魔戒騎士なのである。ひとの命が無残にも奪われようとしている時に、自分だけ隠れてそれをやり過ごすなんてこと、たとえ誰が許してもダイゴ自身が許すまい。彼の枕元に現れたセイジの姿も、それを後押しした。まずは自分の命を守り、その命によって他の多くの人々の命を守ること。ダイゴの命は十分に守られた。次はダイゴが人々を守りに行く番だ。
 鎧をまとったダイゴは自らの戦斧を振り回し、ぐんぐんとその大きさを増していく。身の丈などとうに超し、およそ人間サイズとは思えぬ巨大さになったその斧で、彼は今にも振り下ろされんとするラダン城の足をぐっと押しとどめる。思わぬ反発を食らったラダン城は、恐らくさらに圧をかけて大地に踏み込もうとしたはずだ。そこにリュメ様たちの陣があるとも知らずに――押し負けた斧が離れ、ラダン城は足を地面に降ろす。すると、固いはずの大地がまるで水面のようにさざめき、見る間にその足を飲み込んでいく。体勢を崩したラダン城はそれ以上前に進むことができない。見事ケリをつけるとはいかずとも、人々を守るための時間稼ぎとしては上出来である。
 だが、それも莉杏が拐されるまでのこと。新しい「月」を得たラダン城はまるで浮上するかのようにゆるゆると体勢を立て直し、再び侵攻を開始する。さらにジンガの合図によって、手にした三叉の槍からエネルギーを放出。上空を波紋のようにすごいスピードで広がるその一撃は、人々から見る間に命を奪い取っていく。
「綺麗だろう? そして、……旨そうだろう?」
 いくらジンガがホラー食いのホラーであったとはいえ、それは力を高めるための緊急手段である。やはりホラーの主食は人間なのだ。
 ジンガの言葉に激昂する流牙だが、彼もまたラダン城の手にからめとられ、身動きを取ることができない。そんな流牙の様子を見たからこそ、莉杏は自らを犠牲にしてでもこの戦いを終わらせようと覚悟を決める。
 つい先日、ジンガに身体を支配された莉杏は、「守りし者」としての使命感と「生きて夢を叶えたい」という願望の板挟みになり、ひどく苦しんだ。その時は流牙の説得のおかげで自分の生き汚さを受け入れ、自ら試練に打ち勝って見せた莉杏。今回も「莉杏が犠牲になることによって世界が救われる」という似たような状況であるが、彼女は一瞬の葛藤ののちすぐに自らの進退を決めることができた。
 あのとき流牙は、莉杏の生命の保証はないとわかりながらも、彼女を浄化することに同意した。莉杏の夢の叶う世界とはすなわちジンガのいない世界のことであり、よしんば莉杏が生き延びられたとしてもジンガが存在していては意味が無いのだ。
 今回の莉杏にとっても同じことである。莉杏の望みは閑岱の復興、そして流牙と末永く共にいることだ。もしここで流牙が失われてしまっては、彼女の望みは一生叶わない。なにより、流牙が苦しむ姿も、人々の命が無差別に吸われている様子も、彼女はもうこれ以上見たくない。

×受け取るり → 〇受け取り

 流牙のもとに人々の命が結集し、黄金騎士の巨大な威容を形作る。対するラダン城は次々と湧き出す素体ホラーを押し固めるようにして、ひとつの禍々しい刃を形作る。三叉槍から横に大きく伸びたその曲線は、あたかも死神の持つ大鎌のようである。生きようとする命と、それを刈り取らんとするものとの対峙。

 死の象徴であるラダン城は皆の生命力によって倒された。そして堕ちた魔戒騎士であるジンガは、黄金騎士によって正しく葬られる。
 倒れた莉杏をあくまでも「俺の月」呼ばわりするジンガに、流牙は哀切な、そして痛いほどに力の込められた眼差しで言い返す。
「莉杏はお前の月なんかじゃない……!」
 魔鏡に閉じ込められた流牙を救い上げてくれた、ひとすじの救いの光。黒金のガロの背後に眩しく輝いていたあの満月こそ、彼にとっての莉杏なのかもしれない。夜の道をそぞろ歩き、ふと見上げれば月はいつでもそこに光っている。当たり前のようにそばにいて、それが失われるなんて思いもしない。
 剣を構えて駆けだした二人はまずがちんと一合、だがそれは互いの得意な姿勢を取るための準備運動である。弾き合った勢いで高く頭上に剣を構えるジンガと、姿勢を低く腰だめに剣を置く流牙。上段から斬り下ろしたジンガの剣を弾き、二の太刀も横にかわして、流牙は振りかぶった剣でジンガの顔面辺りを薙ぎ払う。のけぞってそれを避けたジンガは身体をバネのように起こし、次の流牙の斬撃を剣の持ち手近くで受け流す。宙に浮いた剣が勢いで回転するのを逆手に掴み、ジンガはコンパクトに身を捻る。腰だめから一気に流牙の首上を切り裂こうという一刀。流牙もまた剣を離し、上体を引いて紙一重でそれを避ける。落下寸前の剣を再び掴んで、再度上段から斬りかかってくるジンガの剣を火花が散るほど強くはじき返す。剣に引っ張られ、大きく腕を上げた体勢になるジンガ。その無防備な腹に、流牙は渾身の一撃を突き込む。
 気合と共に流牙が剣を引き抜くと、ジンガはものも言わぬまま、塵も残さず消えていく。遺言も慟哭もない。ホラーはホラーとして死ぬるのみである。安らかに、と言うにはすこし悪行が過ぎていたが、玉座を占める者としては納得の立ち居振る舞いであった。転生してもなお消えぬ業は、きっとどこまでも彼の魂に絡みつき続けるのだろうなあ。

 そもそもはラダンを封印するためにその名を受け継ぎ、火群の里を出立してきたガルド。主を失ったラダン城に、今度こそ彼は秘伝の儀式を執り行う。二つの短剣は一つの大剣に、そして大剣はラダンを刺し貫くと、その魔力を纏って地中深くへ消えていく。さきにラダンを封じた魔戒法師は、それを魔界と人間界の狭間にとどめおくのが精いっぱいであった。だが、再び狭間の地に降り立った大剣は、封印されたラダンごと、内部から弾けるように自壊する。
 暗く沈んでいた地表は明るく色づき、生命の光が奇跡のように降り注ぐ。ラダンが持っていたエネルギーが噴出したのか、あるいはいままでラダンの犠牲になった者たちの命の欠片なのか……その輝きが指先に触れ、莉杏はゆっくりと息を吹き返す。
 今やはっきりと目を開いた莉杏は、少し困惑したように眉尻を下げて流牙の名を呼ぶ。自分を抱きかかえる彼が、今にも泣きだしそうな顔をしているからだ。
「莉杏」
 少し上ずった声で名前を呼ぶ流牙。その頬には静かに涙がつたっている。
 同じように生死の瀬戸際で愛する者に抱きかかえられ、同じように名前を呼んでいるのに、アミリとジンガ、莉杏と流牙の姿はまるで正反対である。片方は一方通行の愛情と悦楽で悲劇的に彩られ、もう片方は言葉にせずとも双方向に気持ちが温かく伝わり合っている。
 アミリたち夫婦に起こった悲劇は、ともすれば莉杏と流牙にも起こりかねない出来事である。守りし者同士のカップルとして、他人事だとは言い切れない。流牙たちのあり得るかもしれない未来の姿がジンガたちなのだ。……だが、流牙たちならばホラーに身を堕とすような選択肢は選ばないだろう、と我々は信頼を持って彼らの物語を見送ることができる。二人はそれぞれ自分の弱さを受け入れ、血肉とした。何度絶望の淵に叩き落とされようと、彼らはまた立ち上がることができるだろう。自分を信じ、呼びかけてくれる人がいる。その事実は萎えた足を奮い立たせ、行く先を示す道案内となる。まるで夜空に輝く、あの清らかな月のように。
 流牙と莉杏は手を重ね、舞い降りてきた生命の光をいつくしむようにそっと握る。これからも変わらず続いていく日々、新しい時間の始まりを祝福するような、そんな予感をさせる素敵な終幕である。


余談。

黄金騎士ガロ翔

 たまたまタイミングが合ったので、コラボカクテルを頂いてきました。写真が下手なのでアレですが、本当はもっときらきら綺麗な色をしているのです。
 ウイスキーは普段飲まないのですが、さっぱりしていてとても飲みやすかったです。ウイスキーの力強く大人っぽい味わいと、ジンジャーエールやオレンジのほのかな甘さのコントラストが、ここまで23話分見てきた道外流牙の姿に重なるように思いながら、大変おいしく味わわせていただきました。こんなに素敵なものを頂けたうえ、特典コースターもゲットできるなんて非常にありがたし……。「ハガネを継ぐ者」楽しみです。


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