見出し画像

一本角の挽歌(『ガオレンジャー』第42話)

『百獣戦隊ガオレンジャー』Quest42「鬼(オルグ)忍者侵略!」を見た。

「今、確信を持てたわ」
 ガオズロックへ忍び込んだツエツエに傷めつけられ、絶体絶命の状況にありながらも、立ち上がるテトムは目に光をたたえ、強気の笑みを浮かべている。責め立てているはずのツエツエの方が、却って「何のこと?」と動揺し、その身を少し引いてしまうほどだ。
 構わず、テトムはまっすぐにツエツエを見据える。
「ガオレンジャーは、自分たちの考えで、この星の希望を守るために戦ってるの。そんなみんなが、上司の言うことしか聞けないあなたたちに、負けるものですか!」

 一本角のデュークオルグにとって、上司に当たるハイネスデュークの言葉は絶対である。ハイネスはオルグたちの導き手となるべき存在であり、ツエツエたちもずっとその誕生を心待ちにしてきた。シュテン・ウラ・ラセツとしばしば首はすげ変わるものの、ヤバイバとツエツエは変わらず彼らに仕え続ける。二人はそのことに全く疑いを抱いておらず、むしろハイネスのために尽くすことこそが自分たちの存在意義であるとすら思っていそうな雰囲気すらある。
 ひとくちにハイネスデュークと言っても、その性格は様々だ。シュテンは破壊を趣味とし、ウラは美しい物を好む。ラセツは美食家で、味にめっぽう厳しい。ハイネスの機嫌を取るため、ヤバイバとツエツエはいつも大忙しである。時にはお花でアジトを一杯にし、時には慣れない料理に苦戦し……。しかし、その努力が必ずしも報われるとは限らない。
 ふたりの献身的なサポートもむなしく、シュテンとウラはガオレンジャーに敗れ、それぞれ散っていった。しかも現時点で最新の上司であるラセツは、登場時からすでに腹心のデュークオルグを引き連れている。ツエツエたちが任されたのは料理番のみ、しかもヤバイバはそこまで料理上手ではないため、もっぱらツエツエがその任を担うことになる。
 とはいえ、彼女とて専門の教育を受けたコックというわけではない。ラセツの口に合いそうな料理をなんとか工夫して供していたツエツエだが、42話冒頭ではとうとうほとんど箸もつけぬままにテーブルをひっくり返されてしまった。汚名返上のためドロドロの作戦に協力を申し出るも、潜入したガオズロック内でうっかり聖なる泉に触れてしまい、激しい痺れに叫び声をあげて隠密行動をふいにしてしまう。
 ラセツにクビを宣告され、ヤバイバの慰めもむなしく落ち込むツエツエ。37話ではツエツエがヤバイバを慰めていたが、あの時はまだ「オルグシードは生きたオルグが食べても巨大化できる」という収穫があった。此度の失敗はただいたずらにガオレンジャーたちを騒がせただけで、潜入の目的は何一つ果たせていない。

 潜入の目的。それはすなわち、テトムの誘拐である。テトムの弁当の匂いが忘れられぬラセツのために、彼女を料理人として強引にスカウトし、ラセツの前に引きずり出すのが今回のミッションだ。
 自分が唯一任されていた料理番という仕事を完全に奪われてしまうようなこの作戦に、しかしツエツエは身体を張って取り組もうとする。というのも、彼女はテトム誘拐の目的を知らされていないのである。ただラセツの望むまま、ドロドロに命じられるがままに、彼女は作戦のかなめとして身を尽くすことになる。「ラセツ様が厳しいことを言うのはそれだけお前に期待しているからだ」と、ラセツの腹心たるドロドロも優しく彼女に語り掛ける。そして、「聖なる泉の影響を受けないためには、一本角を切り落としてしまえばよい」とも。
 ツエツエやヤバイバの額に生える一本角は、彼らがデュークオルグであることの証である。二本角のオルグたちはツエツエたちを「一本角」と呼ぶ。角の本数は分かりやすいステータスであり、さらに角自体もオルグの生命にかかわる重要な器官であるようだ。角を切り落としてシルバーの姿に化け、ガオズロックに二度目の潜入を果たしたツエツエは、テトムを捕らえてラセツに差し出すところまではよかったものの、その後急に地面へ崩れ落ちてしまう。
 一本角には再生能力があるとドロドロに聞かされていたツエツエは、今にも消え入りそうな力を振り絞ってそのことを再確認しようとする。だが、ラセツもドロドロもとぼけたような返事をするだけだ。
 結局、角には再生能力など無かったのだ。ガオレンジャーをヤバイバごと銃撃するドロドロも、ツエツエの身体を盾代わりにするラセツも、彼女たちのことを仲間などとは思っていない。破邪百獣剣の攻撃を一身に浴び、光となって消え失せるツエツエ。彼女の杖を拾い上げ、「ツエツエ」と名を呟くヤバイバの静けさが却って胸をつく。呆然として、まだ事態をよく呑み込めていないような、でも目の前で起こったことを受け入れざるを得ないような……。そんな状況にあっても、ラセツの一言でテトムを連れ、その場から引き上げざるを得ないヤバイバ。彼もまたデュークオルグの一人である。ハイネスデュークの言うことは、どんな時でも絶対だ。

 二本角を使役し、その働きを以てハイネスデュークのお役に立たんとする一本角。テトムが高らかに看破したように、デュークオルグは「上司の言うこと」を絶対命令とし、それをよすがに行動する。ヤバイバが「自分たちの考え」をもとに「チームサーカス」を結成しようとしたような例外はあるが、これにしたって上司ラセツを見返したい、ひいては認められたいという気持ちの発露であり、しかも結局失敗に終わっている。
 そして、上司が口を閉ざして言わずにいることを、デュークオルグは知る由もない。さきには狼鬼の秘密だって、ウラは積極的に開示しようとはしなかった。今回のツエツエも、自分が自分で自らの首を絞めたなどとは思いもよらなかっただろう。
 どんな仕打ちを受けても、手ひどい裏切りに会っても、ハイネスの足元に縋りつき、唯々諾々と従うほかないデュークオルグ。オルグたちの所業は到底許容できないものの、この境遇には同情を禁じ得ない。

この記事が参加している募集

ドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?