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結城丈二を忘れない(仮面ライダーV3 第43話~第52話)

 はじめてライダーマンを認識したのはいつだろう、とつらつら考える。おそらくは近年のオールライダー系映画のどれかで、ちょろっと映っているのを見たのが最初ではなかろうか。顔が半分出ているので初見のインパクトはあるが、平成ライダーの個性に並ぶとちょっと地味にも見えてくる感じ。その後『オールライダー対大ショッカー』でGACKT氏演じる結城丈二に触れ、厳しい態度を士に向ける姿にかなり苛烈な印象を受けた。
 このたび、彼の原典たる『仮面ライダーV3』をTTYOで完走した。ライダーマンが「仮面ライダー4号」の称号を贈られていることは知っていたので、てっきりいわゆる2号ライダーや頼れる仲間・滝和也くらいの立ち位置でがっつり絡むものだと思っていたのだが、待てど暮らせどライダーマンのラの字も現れず。やっと登場したのは全52話中の第43話、そして第51話で覚悟の殉死を遂げてしまうために、風見志郎とともに画面に映っていたのはたったの9話=2か月強でしかない。
 しかし、その1クールにも満たない期間の中で、彼は怒り、絶望し、時には笑顔も見せ、そして徐々に正義の心に目覚めていった。クライマックスに向けて風見志郎がクールに研ぎ澄まされていく分、結城丈二の隠し切れない人間らしさがより際立ったようにも思える。

 当初、結城丈二に「正義のために戦う」という決意は無かった。彼はあくまでもヨロイ元帥の企みによって居場所を追われたいち科学者であり、彼の戦いは復讐を第一の目的としていた。ライダーマンに変身するための義腕をつけることになったのも、元帥のせいで腕を失い、やむに已まれなかったからだ。
「まだ人体実験も済んでいない」カセットアームは幸い副作用もなく、しっかりと彼の腕に馴染んだようだ。期せずして自分が最初のテスターとなったわけだが、もしあのままデストロンに在籍し続けていれば、適当な戦闘員か怪人がその被験者となり、結城丈二はそのことに疑いを抱くこともなかっただろう。なぜなら彼は、自分の研究が人類平和のためであると心から信じ切っていた。崇高な理念と純粋な知的好奇心のみに突き動かされた時、ちっぽけな倫理観など彼の目には眩んで見えなくなってしまったのかもしれない。
 だが、彼が単なるマッドサイエンティストではないことも我々はよく知っている。自分を助けるため犠牲になった部下の墓には神妙な面持ちで手を合わせているし、知り合いの子どもが攫われれば「ヒロシくんだけは助けてやってくれ」と怪人に懇願する。善悪の心は人並みに持ちつつ、それでいてデストロンや首領を絶対的に良いものだと信じていたのが結城丈二なのだ。
 第48話で首領を追い詰めたV3だが、いざ止めを刺そうというときにライダーマンが邪魔をする。彼は身を挺して首領を庇ってしまったのだ。ヨロイ元帥には手ひどい目に合わされ、デストロンの悪行を知ってもなお、恩人である首領を前にすると勝手に体が動いてしまう。「恩人を守りたい」ではなく、「目の前で恩人を殺されたくない」というのがミソだ。いくらデストロンが悪だと知っても、簡単には割り切れない結城の惑いが透けて見えるようである。自分のあずかり知らぬところで首領が息絶えれば、それはそれで納得も出来るのだろう。だが、目の前で殺されそうな首領を見て見ぬふりするのは、流石に後味が悪すぎる。
 戦いののち、素直に懺悔する結城に対して、風見は「お前はいい奴だな」とだけ応える。どんな状況下でも受けた恩を忘れられないところ、その罪を隠し立てせずに申し開くところ、どちらも含んだ、呆れ交じりの評価だろう。しかしその評価に対して、結城はほころぶような笑顔を見せる。まるで胸襟を開いた友に見せるような、満面の笑みだ。
 そして第50話、結城との連係プレイで子どもを助けた風見は、その子どもに「あの人(結城)、風見さんの友達?」と尋ねられる。風見は少し笑って、自らに言い聞かせるような声音で「そうだよ」と答える。「敵の敵は味方」とか、「いい奴」とか、二人が互いを指すための言葉はたくさんあるが、ここで「友達」というキーワードを持ち出されたことで、風見の中でも一つパズルのピースがはまったのではないかと思わされる。

 復讐から始まった結城丈二の戦いは、最終的にその本願を遂げることなく、ただ人々を守るための尊い自己犠牲としてその幕を下ろす。だが、彼は聖人君子だからその選択肢を取ったのではない。V3や人々のために自分自身がいまできることを精いっぱい探した結果が、プルトンロケットの手動誘導であったのだ。そして彼にそうさせた大きな要因の一つが、風見志郎という得難い友人の存在である。風見の戦いに乱入し、時には拳を交えつつその思想に触れたことで、結城丈二は着実に「仮面ライダー4号」へと歩んでいった。
 顔半分を露出させた、中途半端な改造人間・ライダーマン。右腕以外は生身のままである彼は、その無垢な人間くささを大いに振りまきながら、短くも濃い生涯を駆け抜けていった。未来にわんさかやってくる客演に備えて、今はただ安らかに心と体を休めてほしい。


以下、各話感想。ライダーマン登場~最終話まで。


第43話「敵か味方か? 謎のライダーマン」


第44話「V3対ライダーマン」


第45話「デストロンのXマスプレゼント」


第46話「ライダーマンよ どこへゆく?」


第47話「待ち伏せ! デストロン首領!!」


第48話「見た! デストロン首領の顔!!」


第49話「銃声一発! 風見志郎倒る!!」

 後天的改造人間が力を制御できないエピソードほど悲しいものはない。普段いくらうまく人間社会に溶け込んでいるつもりでも、こうやって化けの皮を剝がされてしまえば、もはやこれまで通りではいられない。
 幸い風見のコントロールは元に戻ったが、もしかすると最終決戦後に旅に出る遠因になってしまったのではないか……などと妄想してしまう。切ない。


第50話「小さな友情」


第51話「ライダー4号は君だ!!」

 このテーマソング、タイトルがずばり「ぼくのライダーマン」なわけだが、ライダーマンのことを「弾む 明るい君」と述べている。結城丈二の人柄が偲ばれる歌詞である。デストロンではなくもっと別のところで評価されていれば、あの海辺での笑顔をもっと見ることが出来たのかもしれない。
 デストロンが乗っ取った病院で偽医者に拘束されるも、その偽医者の手引きで脱出を果たす風見志郎。プルトンロケットの計画を知っている偽医者は、東京に残してきた家族の身を案じている。そして、自らが処刑されるリスクを顧みずに、すべての希望を風見に託したのだ。遠くから一気に東京を壊滅せしめんとする首領とヨロイ元帥のやり方はやはり強引すぎるので、このような造反者も出てきてしまうのだろう。デストロン、案外一枚岩ではない。真の理念を隠して結城を雇っていた前例もあるし、「全構成員が組織に心酔してその理念に身命を捧げる」というよりは「利用できそうな人員を手広く集め、秘密裏に幹部連中だけが事を進めていく」という感じの組織だったのかもしれない。


第52話「デストロン最後の日」

 V3、まるで神様のような扱いである。そして神様は人間と一緒には暮らしていけない。風見とV3が姿を消したのも、ある意味では仕方のないことなのだ。

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