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【ガオレンジャー】第43話

Quest 43「獅子、灼熱する」

 ツエツエが散り、ひとりになったヤバイバは、それでもまだラセツに仕え続けている。
 オルグのアジトに連れてこられたはいいものの、一向に料理を作ろうとしないテトム。そんな彼女をウラの鏡越しに垣間見て、ヤバイバは「俺にもやることがあったぜ」と嬉しそうに叫んだ。ツエツエの遺した大量のレシピ(そんな事までしていたのか……)をなぞって料理を作ってみたり、遺品の杖からオルグシードを撒いてみたり、ヤバイバの見つけた「やること」がすべてツエツエの後追いであることがなんだかしんみりする。ラセツを傅き始めてからというもの、お役に立っていたのは小器用なツエツエばかりで、ヤバイバの仕事ぶりはあまりぱっとしていなかった。それゆえに、ツエツエの行動に倣い、その役目をそっくり引き継ぐのは、ずっと彼女と行動を共にしてきたヤバイバだからこそ出来る「やること」である。
 しかし、ヤバイバの頑張りはラセツに認められることはない。ツエツエのレシピ通りに作った特製メニューは邪険に払いのけられる。「あんな料理は食えんわ」と苛立たしげに吐き捨てるラセツを前に、ヤバイバは思わずタックルをかまし、テトムを連れて身をくらませてしまう。盲目的にハイネスに仕えるデュークオルグであっても、長年の相方が雑に殺されたうえ尚も侮辱されれば、流石に体が動いてしまったようだ。
 とはいえその衝動も一過性のものだったらしい。瞬間移動した森の中で、ヤバイバは「とんでもないことやっちまった」と頭を抱えている。ラセツを裏切るつもりなど、ヤバイバには毛頭ない。そもそもラセツとて、ヤバイバごときが反逆したところで気に留めもしないだろう。小物の一匹や二匹、逃げ出したところで居場所は手に取るようにわかるし、戻ってくれば無礼も許してやる、とラセツは呼びかける。その言い草こそ、ヤバイバがラセツに軽んじられている何よりの証だ。
 自分を助けるようなヤバイバの行動を不思議がるテトム。そんなテトムに、ヤバイバはある頼みごとを思いつく。
 ガオレンジャーを追い詰めるラセツとドロドロ。そこに、うきうきと小走りで駆け寄るヤバイバ。捧げ持った盆に載せられているのは、先ほど払いのけられたのと同じツエツエ考案オードブルである。ただし、この料理を作ったのはヤバイバではない。テトムだ。
「ラセツのためには玉子焼きひとつ焼かない」と宣言していたテトムをヤバイバがどうやって説得したのかは描かれていないが、先ほどのラセツの行動にはきっとテトムも思うところがあったのだろう。ツエツエのレシピに忠実に作られたその手料理は、ラセツのためというよりはヤバイバとツエツエの心を慰撫するためのものにも思える。
 盆上の料理を一目見て、ラセツは早とちりからまたもそれを薙ぎ払ってしまう。散らばった料理を呆然と見下ろすヤバイバ。仲間のもとに駆け戻り、安全地帯でネタ晴らしをするテトム。ラセツの苛立ちは当然、すぐそばにいたヤバイバに向けられる。とんだとばっちりである。
 ヤバイバは別に、嫌がらせでこんな料理を持ってきたわけではないのだ。ツエツエが寝る間を惜しみ、心を込めて完成させたレシピ。自分の料理の腕前ではラセツを満足させられないので、料理自慢のガオの巫女にそれを作らせる。そんなの、美味しくならないはずがない。きっとこれならラセツ様も満足して、褒めてくださるだろう――その無邪気な発想が、却って裏目に出てしまった。そもそも、ラセツはツエツエのレシピもヤバイバの調理も含めて「あんな料理は食えん」と評価しているのだ。ヤバイバはそれを、自分の腕前だけの責任だと考えたわけだ。ツエツエへの絶対的な信頼感……。
 ガオレンジャーたちによってドロドロが倒され、「ラセツ様に取りなすには今しかねえ!」とオルグシードを発射するヤバイバ。今度こそ褒められたいと期待する彼だが、怒り冷めやらぬラセツは「この程度のことで許してもらえると思うな!」と、褒め言葉どころか電撃を浴びせかける。地面に無様に転がり、ヤバイバは悔しそうに唸りながら逃げ去っていく。流石にそろそろ転職を考えてもいいころだとは思うのだが。

 テトムが作ったツエツエレシピの料理は、ヤバイバが作った時と同じ材料・同じ調理法のはずなのに、遠くからでもラセツの鼻孔をくすぐるような馥郁たる香りを放っていた。単に料理が上手なだけ(あるいはヤバイバの料理がへたくそすぎるだけ)という可能性もあるが、他の可能性も考えられるのではないか。
 テトムの料理はラセツだけではなく、ガオの戦士たちみんなの好物でもある。テトムの手料理を食べると不思議と力がわき、やる気満々になるのだとレッド。それをシルバーは、「ガオの巫女なくして、ガオの戦士は戦えない」ということだろう、と推察している。
 荒神様ガオゴッドを祀り、パワーアニマルたちの加護を戦士らに与え、長い年月を生きるガオの巫女。ガオレンジャーが身にまとうスーツはガオソウルによって形作られているが、それは地球のエネルギー(スピリット・オブ・ジ・アース!)を身にまとうことに他ならない。
 つまり、地球や動物の魂のエネルギー=生命力と、人間である戦士を結びつけるのが、ガオの巫女の役割であると言うことができるだろう。そして食事という行為は、ほかの命を直接的に体内に取り込む儀式でもある。巫女の手によって調理された料理は、地球のエネルギーを食べた者の身体へ強力に循環させるはずだ。それゆえに、巫女であるテトムは自らみんなのおさんどんを買って出るし、ガオの戦士はテトムの料理を食べると調子が上がるのだ。
 ラセツがテトムの料理に惹かれるのも、そこに込められたエネルギーを無意識に欲しているからではないだろうか。今でこそ料理らしい料理ばかりを食べているが、登場したばかりのころのラセツは街を壊した瓦礫など、「人類の夢」の詰まったものを旨そうに口にしていた。夢や希望が大きなエネルギーを持っていることは、SHT視聴者にとっては説明もいらない一般常識である。

 テトムの不在で腹ペコの戦士たちは、ガオズロックに現れたドロドロの幻影に呼び出され、岩舟山へ向かう。ここにきて急にリアル地名? と思ったら、「船」の字が違っていた。細かい。
 ドロドロの影分身攻撃によって生み出されたのは、文字通り6人の「影」である。厄介なことに、それぞれの影は持ち主と同じ強さを有しており、運よく攻撃を入れられたとしても、そのダメージは本体へフィードバックされるという仕様だ。進んでも地獄、立ち止まっても地獄。テトムの心を折るための悪趣味なショーである。
 影と本体とのタイマン立ち回りは、実力が拮抗しているがゆえに見ごたえがある。交差する突きや蹴り、水たまりを厭わず縺れ合うように転がるシルバーたち。鋭い回し蹴りを連続で繰り出す影ホワイトのきびきびした動きも格好いい。
 じり貧の膠着状態を打ち破ったのは、ヤバイバの持つ鏡であった。ラセツの怒りを買ったヤバイバに、ドロドロは影分身の光を浴びせかけようとする。が、鏡面がその光を真っすぐに反射、跳ね返った光はドロドロを眩しく照らす。瞬く間に立ち上がった真っ黒な姿は、まさしくドロドロの影である。
 両者が剣を交える隙を狙い、レッドはドロドロの影を撃ち抜く。ダメージはそのままドロドロ本体にフィードバックされ、ドロドロが倒れるとともにやっと影たちも溶けて消えていった。まさに間一髪。

 その後、巨大化したドロドロによって鬼霊界へ閉じ込められるガオレンジャーたちだが、テトムの涙に応えて現れたガオケンタウロスがそれを救い出した。
 頼りの戦士たちはどこかへ飛ばされてしまい、ラセツとふたり河原に取り残されたテトム。そこに現れたパワーアニマルたちは、追いつめられたテトムを助け、ラセツを追い払う。
 地面に落ちていた砂まみれの玉子焼きを拾い上げ、清流に浸かりながらテトムはその汚れを洗い流す。せめてもう一度料理を食べさせたかった、と呟きながら玉子焼きを浄める彼女の様子は、なんだか灯篭流しのような儀式にも見える。川はあの世とこの世を隔てるものであるが、現世と鬼霊界もまた川によって接しているのかもしれない。
 テトムの祈りのこもった玉子焼きは不意に光を発し、ガオライオンの口の中へと消える。料理を通して強い思いと力を得たガオライオンはみるみるうちに巨大化し、乗り手もなしにパワーアニマルたちだけでガオケンタウロスへと百獣合体を果たしたのである。そういうこともできるのか!

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