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【ゴーオンジャー】第41~42話

GP-41「育児ノススメ」

「オカンと俺らと、時々オトン」回。
 とはいえ、オトン=大翔の役割はどちらかというとママである。庇護されるのも俺ら=走輔たちではなく、異次元の生き物チビことストーミーワールドのワメイクルだ。

 その極彩色の卵を最初に見つけたのは、トレーニング中だった大翔とトリプターだ。鳥族らしく卵に親近感を抱き、「欲しかったんだ~、オレの弟分!」と喜び勇んで抱卵するトリプター。抱卵!? 母性か? 鳥型の炎神はやっぱり卵生なのか?
 やがて卵にはひびが入り、中から現れたのは魚のような蛙のような不思議な生き物。範人曰く「キモかわいい」それは、どうやら最初に見た大翔を親だと認識したらしい。頭もよいのか、教えてもいないのに「ヒロト、ヒロト」とたどたどしく名前を呼ぶ。さらにその泣き声は恐るべき高周波を放ち、美羽の大切な生け花や部屋の調度をぐちゃぐちゃにしてしまうのである。……トリプターとそいつを連れて、大翔がこっそり逃げ出すのも無理はない。
 段ボールに入れたそれを、大翔はどこか人目のつかないところに放置してしまおうと画策する。ところが、置いて行かれることを敏感に察知した赤ん坊は、高周波の泣き声でわんわんと周囲のビルを震わせ始める。さすがにまずいと慌てた大翔は、トリプターの「あやしたり笑わせたりしなくちゃ、親らしくね」というからかいにしたがって、それに呼びかける。
「こっち見ろ、チビ!」
 謎の生き物だったそれに、チビという名前が付いた瞬間である。
 牛乳も、パンも、ハムもクッキーも食べないチビ。途方に暮れる大翔の前を通りがかったのは、野菜の買い出しに出ていた連と走輔である。腹を空かせていたチビは、二人が抱えていた長ネギに勢い良く食らいつく。どうやら、チビの種族は野菜が好物らしい。走輔たちに事情を説明がてら、これ幸いと大翔はギンジロー号に立てこもる。手ずから青菜を与える姿は完全にデレデレしていて、むくれるトリプター曰く「あんな笑顔、美羽ちゃんにしか見せたことなかったのに!」。ウイングトリガーをぶら下げてゆらりとギンジロー号から飛んでくるトリプター、意外とその状態でも動けるのねとびっくり。
 以前、大翔は美羽のことを「捨て犬を放っておけないタイプ」と評していたが、なかなかどうして大翔も人のことを言えない。美羽に隠れてチビをいつくしむ姿は完全に捨て犬を拾った小学生のそれである。きょうだいそろって、一度懐に入れた者に対しては愛情が深いのが須藤家なのだろう。
 ところで、拾い犬は保護者にバレるのが相場と決まっている。案の定、大翔の気配を嗅ぎつけた美羽は怒り心頭でギンジロー号へやってくる。というか、「アニが逃げ込むならここしかない」とアタリをつけていたというべきか。大当たりである。
 チビの正体を独自に調べていたジャンボエール教官もやってくる。曰く、かの生き物はストーミーワールドのワメイクル。成長すると強大な力を持つらしいが、それがヒューマンワールドに現れたことにはどうやらガイアークの関与がありそうだ。
 ギンジロー号を取り囲んだ一同が、扉を開けさせようとガンガン車体を叩く。そのストレスに耐えかねたチビは高周波を発し、車を飛び出して家出してしまう。
 外で待ち構えていたガイアークによって、チビは誘拐されてしまう。大翔もゴーオンゴールドに変身して戦うが、メットオンした姿をチビが怖がって泣くために、思うように動けなかったのだ。
「ゴールドにならないでどう戦えばいいんだ。どうあの子を助ければいいんだ……」
 悩む大翔に、走輔は「心配すんな」と請け負う。
「お前がゴールドにならなくたって、俺たちだけで戦って、チビスケを助けてやる」
 もはやそれしか方法は無い。頷く大翔の足元で、ボンパーがガイアーク反応の出現を告げる。どうやらそこにはワメイクル=チビも一緒にいるようだ。

 大翔たちが向かった先には、ウガッツに取り囲まれたチビの姿がある。ウガッツたちのロッドから迸る電流により、チビは急激にその姿を変え、大翔のことも忘れたかのようにこちらへ襲い掛かってくる。迸る高周波に耳をふさぎながらも、大翔は何かに気づいて美羽と連・早輝にひとつの頼みごとをする。
 チビの発する高周波は次元の切れ目を生み、そこからストーミーワールド仕込みのいくつもの竜巻がなだれ込んでくる。竜巻は鋭い弾丸のようにヒューマンワールドの地表へ突き刺さり、今にも大災害が起きてしまいそうだ。
「チビ、いやワメイクルは、俺に任せろ」
 ガンバルオーとキョウレツオーに竜巻の対処を任せ、大翔は悠然と前に歩を進める。わらわらと湧き出すウガッツたち。だが、大翔は動じない。変身もしないまま、淡々とウガッツを素手で倒していく。体中の筋肉をばねのように使ったボクシングの体捌き、無限に見ていられるな……。
 とうとう最後のウガッツを変身せぬまま倒しきり、大翔はチビのもとに歩み寄ろうとする。手を広げ、どうにかこうにか笑顔を浮かべて、大翔は暴れるチビに語りかける。
「お前をいじめるやつはもういない、それ以上やめるんだ」
 変身したゴーオンゴールドの姿を怖がるほどに、チビは臆病なのである。なんてったって、まだ生後一日だ。赤ん坊なのだ。怯えとストレスにさらされて、錯乱状態に陥っているだけなのである。それをなだめるためには、親代わりの大翔が大翔のまま、チビの脅威を排除してやらねばならない。チビに安心を与えるために、だからこその素面アクションだったのだ。
 焦って「泣くな!」と叱りつけていた数時間前の姿が嘘のように、大翔はいま親として、立派にチビを受け入れ、愛そうとしている。だが、チビの方は未だ興奮冷めやらず、怒りの電撃を大翔に浴びせかける。
「もしもチビ、お前をこの手で、倒さなければならないなら……」
 電撃を受けた大翔は、ウイングトリガーを握り締める。瞳に哀しみと決意を秘めて、彼は立ち上がる。
「この俺が、この手で……」
 気持ちを落ち着けるように一度俯いてから、大翔はゆっくりと歩きだす。「ゴー・オン」と低く、静かに告げながら、彼はゴーオンゴールドの姿に変身。チビの前では変身すまいとあれだけ悩んでいた姿に、自分から変わる。親代わりとしての、大翔の決意だ。
 ゴーオンゴールドはチビに突進する。背中を転がり、尻尾に弾き飛ばされ、それでも手にした刃をどうしても突き立てることが出来ない。先ほどしたはずの決意が早くも揺らいでいる。そこに、美羽たちが駆け戻ってくる。
 彼女たちから手渡された「ご注文の品」は、見るからに凶悪な巨大銃の形をしている。
「いくぞ、ワメイクル。……いや、チビ」
 大翔は鈍く光る銃口をチビの大きな口に突っ込むと、勢いよくトリガーを引く。中に充填されていた緑色の液体が、見る間にチビの口の中に吸い込まれていく。……キョウレツオーの上からその様子を見ていた走輔は、ふいに素っ頓狂な声を上げる。
「えっ? あれって……哺乳瓶?」

 大好物の野菜ジュースをたっぷり飲み、ついでに大翔の変顔も堪能して、チビはすっかりご機嫌である。キョウレツオーとガンバルオーの必殺技で次元の切れ目も無事に修復され、当面の脅威は過ぎ去った。
 戦いの最中、大翔はチビの呼び方を二度変えている。一度目は暴れるチビやウガッツたちに立ち向かうとき、「チビ、いやワメイクル」と。そして二度目は哺乳瓶で給餌する時、「ワメイクル、いやチビ」と。
 段ボールの中の生き物に初めて「チビ」と呼びかけた時、大翔はそれの名付け親になった。まさしく、親になったのである。チビは生まれた時から大翔を親と認識していたが、一方通行ではなく相互に愛情が通ったのは、きっとこの瞬間からだ。
 だから、いざチビと戦わねばならないとなった時、大翔は「チビ」をただの「ワメイクル」に戻す必要があった。ウガッツを倒してチビが落ち着けばよいが、もしそうならなかったときには、親として自分でケリをつけなければならないからだ。だが、戦闘の合間合間で「チビ」と呼びかけてしまっていることからもわかるが、彼の決意がもろいものであったのは見てのとおりである。普段はクールに振る舞っているのに、実は愛情深いのが大翔という男なのだ。妹の美羽だけでなく、一度身内と認識したもの相手ならば、それがたとえ異次元生物だろうと、彼は惜しみなく愛を注ぐ。
 なんとか間に合った哺乳瓶でチビにご飯を与える段になり、大翔はやっと「ワメイクル」を再び正式に「チビ」と呼称する。チビの泣き声を正確に聞き分け、腹が減っているだけであるときちんと認識しているからこその、自信をもった呼びかけだ。

 物語の最期、静かな浜辺で大翔はチビに諭す。ヒューマンワールドはチビのいるべき世界ではない。自分に大事な相棒のトリプターがいるように、チビにもストーミーワールドにたくさん仲間がいるはずだ、と。
 いちど泣き出しそうになったチビは、しかし一生懸命に口を押え、笑い声に変えてそれを誤魔化す。
「ばいばい、ヒロト……」
 振り返らずに歩いていくチビは、光の玉に姿を変え、次元の壁を越えて自らの世界へ帰っていく。生まれてから覚えた二つ目の言葉が別れの挨拶というのはなんだか切ないが、最初に覚えた親代わりの名の方は、きっといつまでもチビの記憶の中に残り続けることだろう。大丈夫、チビは賢い子だ。二度とガイアークなどには捕まらず、楽しく暮らしていけるはずだ。

 余談。走輔たちのオトンコールにブチ切れた大翔が言い出しっぺの範人にジャイアントスイングをかましていたが、いやはや、大変仲がよろしくていらっしゃるなあ! いい話をいい話のままで終わらせない、ゴーオンジャーの明るい雰囲気ににこにこさせられる。楽しいことは良いことだ。


GP-42「学園ノヒミツ」

 明るい雰囲気に振り切った結果がこれだよ回。三十分にわたって飛び交うめくるめくパロディの応酬! 正直拾いきれている気がしない!
 初手熱湯コマーシャルから始まり、ビンビン言いながら学校にかくまわれるビンバンキは『教師びんびん物語』のオマージュか。美羽の自己紹介は押しも押されぬ涼宮ハルヒ(「ただの人間には興味ありません。異世界人、蛮機獣、ガイアークなら!」)、と思いきや、アニの持たせた秘密兵器・ウイングスマークの仕込まれたヨーヨー(さりげなく魔法も防げる)はスケバン刑事である。「おまんら」って言ってしまっているのでもう言い訳できませんよ!
 ニュートンこと湯島学はガリレオ湯川先生である。地面に敷いた黒い布に一心不乱で魔方陣を書きつけるという念の入れよう。真っ黒なローブを纏って杖を持つ眼鏡姿はハリーポッターでもあるなあ。「レアナニキスヲボク!」というキューピットの呪文からは何となく加藤クラウド八雲みを感じるので、マジックワールドとイングランドの魔法学校にはもしかしたらつながりがあるのかもしれない、という妄想。映研が撮っているのはまさしく冬ソナであるが、雪まで振らせる気合の入りっぷりである。
 魔法の力を得たビンバンキはマホウビンバンキに進化し、「これでもうお湯が冷めない。ありが・タイガー」としたり顔。ただの瓶が魔法瓶とは、なんとも夢のある大出世だ。
 広く学園モノを元ネタに含めれば、ケガレシア=汚石冷菜の扮した妙に美人な養護教諭や、なぜかありがちなチアリーディング部、転校生はスポーツ万能で眼鏡をはずすと超美人、また出会い頭にぶつかった異性に一目ぼれするのもお約束であろう。安心と実績の王道展開。

 グラウンド脇でひとりお弁当を食べる美羽と、それに付き合うジェットラス。幼いころから家庭教師に勉強を教わっていた美羽は、一般の学校に通ったことが無いらしい。
「憧れてたんだ、たくさんの友達と一緒の学校生活」
 眼鏡の奥で微笑む美羽の表情は少し寂しそうだ。大翔とふたり、世間から隔絶されたような場所で暮らしている美羽である。そういえば彼らの両親の話題は聞いたことが無かったが、セレブらしく訳アリだったりするのかもしれない。
 美羽がそうであるということは、おそらく大翔の育った境遇も似たり寄ったりではなかろうか。上記のパロディのうち、スケバン刑事は大翔と美羽ふたりによる発信、涼宮ハルヒは美羽のみによる発信である。学校生活にあこがれを抱く二人が学園もののドラマやアニメを見ている、というのは自然な流れに思える。『ハルヒ』の原作1巻は2003年刊行、アニメ1期は2006年に放送された。『ゴーオンジャー』の放送は2008年だ。「一番現役に近い」と自己申告していた早輝よりも少し年上だとすると、美羽や大翔はちょうどティーンエイジャーの一番多感な頃にハレ晴れな洗礼を浴びている可能性があるぞ……。
 ヨーヨーの細工も大翔が大真面目に作って渡したのではないかと思うと、なんというか大変微笑ましい。学校の中にはついていけないから心配なのはわかるけれども! そして心配通り悪い虫がついて、もといダメンズをひとりひっかけてきているけども!

 BGM代わりに流れるケガレシア様のお歌にキャッキャしつつ、戦いは最終局面へ。美羽にビンタされて理性を取り戻した湯島が「真心見せて」協力し、魔法と炎神パワーの合わせ技で無事マホウビンバンキを撃破。産業革命したマホウビンバンキ(レオナルドダ”ビン”チ!)に対しては、途中謎の攻撃により炎神たちが機能停止してしまうというトラブルはあるものの、キシャモスたちキョウレツオーの活躍によってしっかりチェッカーフラッグ。
「正義の味方とは非論理的、だがそこが面白い」と今後も協力を持ちかける湯島だが、戦闘向きでない彼はあえなく足をよろめかせて自慢の魔法解析プログラム入りパソコンを大破させてしまう。すかさず世話を焼きに行く美羽。さっき「ただ一つ、女の子のハートを動かせるのは、男の子の真心だけよ」と宣言してからの「湯島くん、もう一度真心見せて」からのこれである。勘違いするでしょうが! 好きになっちゃうでしょうが!!! アニ至上主義の美羽には全くそんな気など無いだろう、と思ってしまうのが悲しい所。がんばれ湯島。あと、「正義の味方とは非論理的」って若干「ヒーロー」に語感が似ていて面白いぞ湯島。

 余談。「誰が轟ヶ丘高校の女子生徒欠員に応募するか」を話し合う際、真っ先に自分の同期に目をつける軍平、範人の女装力を信頼しすぎである。気持ちはわかる。走輔も「GO」じゃありません。早輝の自薦を押しのけて立候補した美羽だが、もし男子生徒欠員だったら大翔も立候補していたのだろうか……ゴーオンゼミナールのラスト一秒で披露したギャル男風学生コーデ、髪色のせいもあってやたらと似合っているのであった。ちなみにドラマ『花ざかりの君たちへ』は2007年放送らしい。学園もの、憧れちゃうよな。気持ちはわかる。

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